鉄道やバスなどの公共交通機関には定期乗車券(以下、定期券)が存在する。だが、飛行機にはない。
今後、期間限定ではなく、正式に飛行機の定期券が実現する可能性はあるのか? バニラエアを取材した。
過去には1カ月乗り放題で4万円の「飛行機定期券」も
前述のバニラエアの定期券とは、2015年に発行した「Vaniller’s Pass(バニラーズ・パス)」。東京(成田)~奄美大島間が1カ月間にわたって乗り放題になる特別なパスで、平日のみ利用可能な「平日パス」は2万7000円、土日・祝日を含む「全日パス」は4万円という価格設定だった。同時期における1回当たりの通常運賃の相場が往復3万円弱ということを考えると、まさに破格だ。
なお、このときは1月・2月とも、ひと月50枚の限定販売だった。バニラエアの広報マネージャー、中鉢英晃氏は「1月分、2月分ともに早々に完売。反響も上々で、もっとやってほしいといった声を数多くいただきました」と語る。
「飛行機の定期券というのは、おそらく業界初の試みだったと思います。当時はこれで採算をとるというより、そもそもこうした需要があるのかどうかを調査する目的や、お客様の利用シーン、生の声を拾うという目的がありましたので、価格はかなり抑えめで設定しました。東京(成田)~奄美大島間を採用したのは、首都圏と離島という生活環境が大きく異なる地域間における潜在需要を探りたいと考えたからです。
では、実際にどんな人がどんな目的で使用していたのだろうか?
「年齢層は幅広く、目的もさまざまでしたが、さすがに『通勤』のために毎日利用されるという方はいらっしゃいませんでした。ただ、ご家族の介護で頻繁に行き来をする必要がある方など、月10回以上の利用をされる方はいらっしゃいましたね。また、奄美はダイビングやサーフィンなどのマリンスポーツが盛んですので、普段は九十九里をベースとするサーファーの方が奄美でサーフィンを楽しむために定期券を利用するケースも。サーフボードを奄美の定宿に預けっぱなしにして、千葉-奄美間の移動も身軽にこなしておられました。この定期券は数回往復すれば元がとれますので、利用頻度が高い方にとってはかなりお得になります」
なお、「定期券」利用者と一般のチケット購入者は同じ飛行機に搭乗する。となると、乗降客数の調整が難しそうだが、オーバーブッキングなどのトラブルはなかったという。
「ご搭乗の二営業日前までに空席がある便のみ予約が可能というルールを設けさせていただきましたので、そうしたトラブルは起きませんでした。といっても、せっかく定期券を買ったのにろくに席がとれないということもなく、平日でもかなりの数の定期券利用者の方にご利用いただいていました」
チャンスがあれば、他の路線での導入も検討したい気になるのは今後についてだが、またこうした定期券を発行する予定はあるのだろうか?
「販売再開の可能性はゼロではありませんし、今後タイミングを見計らい、チャンスがあれば他の路線での導入も検討していきたいと考えています」
だが、「ただし」と付け加える。
「定期券となると、通勤などで頻繁に利用される方向けになると思います。いくら飛行機が安くなったとはいえ、通勤に利用するという考え方はまだ一般的ではありません。ですから、飛行機通勤に対する世論や社会的背景が整い、利用者の需要が高まれば、ぜひ実現したいですね」
飛行機通勤が一般化するにはまだ時間がかかりそうだが、近年の働き方の変化は後押しとなりそうだ。通信技術の発達に伴うリモートワーカーの増加に加え、働く時間や場所を自由に選択できる制度を設ける企業も増え始めている。
いずれにせよ、バニラエアのような試みが実際にある以上、あながち非現実的な話ではなさそうだ。
●取材協力・バニラエア 元画像url http://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2017/06/135795_main.jpg 住まいに関するコラムをもっと読む SUUMOジャーナル