―[インタビュー連載『エッジな人々』]―

 俳優・歌手として活躍を続ける松平健が、今年芸能生活50周年を迎える。長年主演を務めた時代劇『暴れん坊将軍』の“上様ブーム”から始まり、近年もコラボグッズやカフェが若者から熱い支持を得ている松平。
昭和、平成、令和と時代を超え、咲き誇り続けるこの事実を、「上様」本人はどのように捉えているのだろうか? プロインタビュアー・吉田豪が直撃した。

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無茶ぶり企画もいったん受けたからには、おもしろく

――いきなりですが、ももクロとのコラボ(マツケンサンバII×行くぜっ!怪盗少女 -TeddyLoid ULTRA MASHUP ver.-)(’23年12年23月発表)が本当にすごかったです! かなりの衝撃を受けて、周囲にとにかく聞けって言いふらしました。

松平:そうですか、ありがとうございます。テンポが速くてたいへんでしたけど(笑)。

――松平さんには、無茶振り企画を受けきる力、を感じます。

松平:そうですか(笑)。

――たくさんの無茶な企画に挑み、しっかり受けきって、“松平健色”に染めることに驚きます。
だいたいのことは、「おもしろそうなら乗っかる」という感じですか?

松平:そうですね、できるだけ。

――チョコレートプラネットさんの『パンダピラニア』(’23年発表)もすごいなと思いました。チョコレートプラネット長田さんがコント用に作った曲を、松平さんが日本語カバーしたという。

松平:曲がいいな~と思ってOKしたら、「甘いお菓子は食べられない」とか、薄い内容の日本語の歌詞が届いて……(笑)。

――でも、やりきるしかない。

松平:それはもちろん。
いったん受けたからには、おもしろくやらないと。

若者が「マツケン」グッズを買うのが不思議

松平健、吉田豪に語った「ブームがわからない、私でいいのかな?」
松平健芸能生活50周年記念公演
――最近は少女漫画雑誌『ちゃお』の付録で、「ゆめかわ♡Viva&Loveマツケンサンバ恋叶おまじないシール」も話題になりましたけど、世代的には「ゆめかわってなんだ?」と思ってる側です。

松平:そうですね。だから、「私でいいのかな?」と思うことも中にはあります。

――ところが結果、いつもおもしろく転がっていくという。

松平:不思議ですね。若い人には、『マツケンサンバ』のグッズもいっぱい買ってもらってるんですけど、我ながらなんでかな?と思いますね。


――松平さんご自身は華やかなショーやレビューなどが好きな人だから、『マツケンサンバ』を作り出したのはわかりますが、ここまでの長期間愛されるとは、不思議だ、と。ボクも『マツケンサンバ』はブレイク前に太秦映画村でカセットテープを買ってたんですよ。

松平:そうですか!

――古参です(笑)。1992年ごろからマツケンサンバはやってますが、『暴れん坊将軍』主演時代はキャラクターがあるから、目立たないようにしてたんですか?

松平:そうですね、やっぱり役のイメージを壊さない仕事をしてました。

――調べてみると03年に『暴れん坊将軍』が終わって、その直後ぐらいから『マツケンサンバ』が急に巷で評判になる。

松平:そうですね。
ただ、自分としては変えたつもりはないです。そこから他の役にチャレンジするっていうのはやろうと思ってましたけど、『マツケンサンバ』に関しては、以前からやっていたことなんで。

NGは基本ないけど、バラエティ番組は……

松平健、吉田豪に語った「ブームがわからない、私でいいのかな?」
松平健芸能生活50周年記念公演
――25年間続いた『暴れん坊将軍』が終わり、当時は「事務所をなんとかしなければ」、みたいな思いもあったみたいな話も聞いてます。

松平:スケジュールが真っ白になり、すぐにできることっていったら歌、サンバに限らず、ディナーショーだとか、そういう仕事を進めようと思いました。

――バラエティもやってみようっていうモードに?

松平:バラエティはあまり考えていなかったですね。やっぱり……ちょっと苦手で。

――「バラエティは番宣ぐらいで勘弁してほしい」っていうスタンスみたいですね。


松平:そうそうそう(笑)。

――やれることをやろうってなったら、’03年に『マツケンサンバ』がまさかのブレイクに至る。もともと勝新太郎さんが「いろんなことに興味を持て」って言ってたという話を聞いたことがありますが、なるべく柔軟にやろうとしてるのかなって思いました。

松平:ヒーローをずっと演じていたので、反動でいろんなことをやりたいという思いはありました。それは役者の範囲でいろんな役を、ということですね。

27時間テレビ・ダイアンとのハプニングの真相

松平健、吉田豪に語った「ブームがわからない、私でいいのかな?」
松平健芸能生活50周年記念公演
――幅広い仕事をしてるからこそ、イライラする瞬間はあるのかっていうのも気になります。
たとえば’23年の『27時間テレビ』で、芸人ダイアンのユースケさんと絡んだとき、ちょっとネットニュースになってました。

【松平健が『マツケンサンバ』熱唱中に、東映太秦映画村の大御所大部屋俳優という設定のユースケが乱入(本人曰く、カンペの指示通り)。「健ちゃんが一生懸命やったから飛び入りで参加してもうた。サイコー、健ちゃん!」「どやった? 健ちゃん」とキャラのまま絡みに行くが、松平健は終始表情が固まったまま無言で困惑した様子が視聴者の話題になった】

松平:ああ! あれは、突然のことで、いわゆる”受け身“が取れなかった。気の利いた返しができない。だからバラエティはたぶん、ついていけないんです。

――やっぱり。このときのことについて、松平さんが「不機嫌になった」みたいに報じられてましたけど、違うと思ったんですよ。

松平:違いますね。「何を言ってるんだろう?」と思っただけですね。

――要はキョトンとしてたって感じで。

松平:そう。東映にそういう人が本当にいたのかどうかもわからないですし。

――そんな空気がそのまま出ちゃっただけ。

松平:そうそうそう。

――だから、そういうことがあってもイラッとはしないんだろうなと思ったんですよ。

松平:まあ困ったなとは思うけど。

――困ったなは思ったんですね(笑)。

【松平健プロフィール】
1953年、愛知県生まれ。1974年、勝新太郎プロダクションで付き人をしていたことをきっかけに、勝新太郎主演のTVドラマ『座頭市物語』で俳優デビュー。テレビ時代劇「暴れん坊将軍」シリーズでは、約25年(全832回)に渡り主演を務める。時代劇からミュージカルまで様々なジャンルの舞台公演を行い、’04年の「マツケンサンバII」では、老若男女を問わずに幅広いファンから注目を集めた。7月6日~31日には、明治座にて「松平健芸能生活50周年記念公演」が行われる。第一部は「暴れん坊将軍」、第二部は「マツケン大感謝祭~歌って踊って~オーレ! ゲスト市川由紀乃、辰巳ゆうと」という豪華構成

<取材・文/吉田豪 撮影/尾藤能暢 ヘアメイク/金山真理 スタイリング/梶原寛子>

※「週刊SPA!」5/21号(5/14発売)より

―[インタビュー連載『エッジな人々』]―

【吉田豪】
1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。主な著書に『男気万字固め』(幻冬舎)、『人間コク宝』シリーズ(コアマガジン)、『サブカル・スーパースター鬱伝』(徳間書店)、『書評の正座』(ホーム社)など。