濱の狂犬、男泣き!――格闘家で俳優の黒石高大(29・神奈川)が12月13日(日)、大田区総合体育館にて開催されるリングス・前田日明主催の不良系格闘技大会『THE OUTSIDER(以下/アウトサイダー)』で引退試合を行う。対戦相手は、黒石と共に同大会を創成期から支えてきた“キング・オブ・アウトサイダー”こと啓之輔(32・栃木)。

スター選手同士が最後に初めて激突するとあって、チケットの売れ行きは好調だという。ファイナルマッチを目前に控えた黒石が、引退を決意した経緯、恩人・前田日明への思い、引退後の人生設計などを、時に涙ぐみながら熱く語った。

――いつ、なぜ、格闘技からの引退を決意したのでしょうか?

黒石 今年の8月下旬、キックボクシングの試合を間近に控えていたときに「この試合を含めてあと2試合でやめよう」と決めました。そのころ、誰に言うわけでもないんですけど、役者のことですごく悩んでいて。役者って、1人の力じゃどうにもならない。でも格闘技はやればやった分だけ返ってくるから、そっちに気持ちが傾いちゃっていた。
それをある人にスパッと見抜かれて、やっぱ「二兎を追う者は一兎を得ず」かな、って思いました。いろんな撮影現場でいろんな役者さんを見ていると、名のある方たちもみんなすんげえ努力しているんですよ。でも俺は格闘技こそ一生懸命かもしれないけど、俳優のほうはペーペーのくせに一生懸命と言えるほど努力してんのか? って自問自答したときに、なんか違うなと思って。

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――格闘技をやめることを告げたら、周囲はどのような反応を?

黒石 格闘技で世話になった方々、一人ひとりに電話で報告したら、誰も引き止めてくれなかったですね(笑)。格闘技で大ケガをして、役者ができなくなっちゃうことを心配してくれていた人が多かったみたいで、みんな素直に「おつかれさま」って言ってくれました。

――前田日明さんの反応は?

黒石 「あぁ、そうか」って感じ。
前田さんに電話するときはいつも「絶対意思を曲げないです!」ってスタンスなので、前田さんも止めても無駄だとわかっていたと思うし。キックボクシングのときもそうだったんですけど、俺は「やらしてくれなきゃアウトサイダーには帰りません! 強くなりたいからキックに行きたいんです!」って言い張って、前田さんの了承をもらったんですよ。

――そもそもなぜ、キックボクシングに走ったんですか?

黒石 総合格闘技は、やることが多すぎて宙ぶらりんになっちゃっていたので、このまんまじゃ俺は伸びないな、とにかく試合をいっぱいやらなきゃと思って。で、やることは少ないほうがほうがいいって考えで、「殴る蹴る」だけのキックに走ったんです。

――引退試合の相手が啓之輔選手に決まった経緯を教えてください。

黒石 ラストにふさわしい相手とやりたいという思いがあって。
デビュー戦で俺に土をつけた秋山(翼)くんかな? と最初は思ったんですけど、いまやったら普通に勝っちゃうんで、なんも壁がないのはつまんない。じゃあ武井(勇輝)ちゃんかな? とも思ったけど、パクられてシャバにいなかった。渋谷(莉孔)くんって話もあったけど、彼はいま世界でやっているんで、戻って来てくれってのは違うなと。で、必然的に最後に残ったのは、アウトサイダーでいま一番強いと言われる朝倉兄弟か、あとはやっぱりなんと言っても吉永(啓之輔)くん!

――その3人に絞られたわけですね。

黒石 3人とも強いし、あと3試合あるんだったら3人全員とやりたいけど、残りは1試合。となるとやっぱ、吉永くんしかいないでしょ! ってことになりました。


――オファーを出したら、啓之輔選手はどのような反応を?

黒石 直接やりとりしたわけじゃないですけど、リングスさんによれば、二つ返事でOKしてくれたそうです。

――啓之輔選手は自身のTwitterに「黒石とは戦友だ。ただの友達じゃねぇよ。だから戦う!」と書いています。

黒石 ありがたいですね。

――2008年3月の第一回大会から携わってきたアウトサイダーに対し、いま何を思いますか?

黒石 感謝の気持ちしかないですよね。
あれがなかったらもう俺なんかもう……オオオオオオ!

――うん? どうしました……!?

黒石 ……もう本当に……俺なんかただのカスでしかなくて、あれがなかったらたぶん、いまもずっと、あのまま行き迷っていたんで……(突然涙ぐむ)。本当にそこに対してはもう、感謝しかないんですよ。

――多くの選手が他の団体に移籍したり、離脱したりする中、黒石選手はキックでの修行期間こそありましたが、ほぼアウトサイダー一筋でしたね。

黒石 風見鶏みたいにあっち向いたりこっち向いたりするのはよくないと思うし、なんと言っても、俺みたいなもんを引き上げてくれた場所なので、最後まで義理を通したかった。本当はアウトサイダーがなくなるまでずっとここにいるつもりでやってきたんですけど、今回こういう(引退という)形になっちゃいました。

――アウトサイダーと出会ったことにより、何が変わりましたか?

黒石 まわりの対応ですよね。
普通に生活している人たちから「頑張ってるね」と声をかけていただく機会が増えました。それまでは不良から「突っ張ってるな」「気合入ってるな」と認められることはあっても、一般の方から褒められることなんて一度もなかったですから(笑)。あとは、生活も変わりました。役者やモデルのお仕事をさせてもらえるようになったのも、すべてアウトサイダーのおかげです。

――知名度が上がり、街でケンカを売られたりは?

黒石 街ではほとんどないですけど、「黒石とやりたい」と言ってジムに来たりする子はたまにいます。そういう子に負けたらナメられちゃうから、おかげでこっちも真剣に練習するようになりましたけどね。

――女性にもモテるようになったのでは?

黒石 まぁ、調子に乗っているわけじゃなく(笑)、昔から女性にはモテていましたけど、その幅がさらに広くなりましたね。モデルとして雑誌に出始めたり、アウトサイダーで勝てるようになってからは、会場で女性客がウワーッと寄って来るようになった。あとは後輩らと会うたびに「黒石さんを紹介してくれって頼まれています。すごく可愛い子です」とかって、しょっちゅう言われるようにもなったんですけど、やっぱ俺、ずっと後輩らに支えられてきたんで。そいつらが狙っている子かもしれないな、って考えたときに、俺が片っ端から唾をつけたら、そいつらのプライドが傷つくし、安っぽいからやっちゃいけないなって思って。だからあるとき、「もう俺にそういう話は通さなくていいから。全部断ってくれ」って言ったら、そこにいた男全員がすっげえうれしそうな顔をしたんですよ(笑)。だから、あ、やっぱりいくら後輩だろうがなんだろうが、男としてヤキモチは焼くんだってことに気づいて。こいつらに支えられてきたんだから、こいつらに対していいことはしなくてもいいけど、イヤなことだけはしちゃいけないなって思ったんですよ。

――実に黒石さんらしいエピソードですね。

黒石 俺がずっと負け続けている間、男たちが支えてくれたんですよ。そういう人間を裏切っちゃいけないなって。会場で女性が群がってくる間、男連中が遠くのほうで気まずそうな顔をしているのを見て、心が痛かったんですよね。俺は女性に対して、おまえらに支えてもらってきたわけじゃない、男が神輿を担いでくれたから俺はいまここにいるんだ!……って思いがあったんですけど、わざわざ声をかけに来てくれた女性を邪険に扱うわけにもいかず、そこはずっと複雑だったんですよ。

――硬派ですね。

黒石 いや別に、女は大好きですよ(笑)。キャバクラだって飲みに行ったりしますし。ハハハ!

――旗揚げ戦ではジャーマンスープレックスを食らった末に敗れ、第2回大会では開始2秒で失神KOされるなど、デビュー当初の黒石さんは「負け」のイメージしかありませんでしたが、それがいまではアウトサイダーの通算成績が「17戦7勝7敗2分1ノーコンテスト」。随分、強くなりましたね。

黒石 ゼロからスタートしましたから、ずっと進化はし続けています。練習量も年々増えて、ハードトレーニングできるコツや根性も備わってきて、いまが一番伸び盛りだったのかなと。

――格闘家として強くなるにつれ、心はどう変わりましたか?

黒石 本当に思うんですよ、体と心って一緒だなって。強い人間じゃないと、人には優しくできないと思うんです。弱いと、人を守ることすらできないじゃないですか。「食う食わない」の話で言ったら、強ければ食う食わないは自分のさじ加減で選べるけど、弱かったら「食われる」という一つの選択肢しかないですよね。男だったらやっぱり強くありたい。自分を守れるから初めて人を守れるんじゃないかな、って思います。

――引退後は俳優業に専念するとのことですが、そのルックスを生かしてコワモテ系の役者として突き抜けたいですか? それとも幅広い役を演じたいですか?

黒石 それがまた格闘技の引退を決めた理由でもあるんですけど、本当はいろんなキャラを演じられるのが役者の醍醐味だと思うし、そうなりたいんです。でも格闘技のトレーニングを続けていると、どうしてもそういうオーラが抜けないんですよね。人と会った瞬間、こっちは笑っているのに、「強そう」だとか「威圧的な雰囲気が出ている」とかって言われることが多くて。そうなると役も狭まりますよね。だから格闘技の選手であることをやめて、その色を完璧に抜いて、一回ゼロになってから、役者に真面目に向き合おうと思ったんです。

――役者一本で食べていく自信は?

黒石 正直、不安はありますけど、20代も残りわずかなので、ここらで一発勝負に出なきゃいけないのかなと思っています。

――役者さんって、どういう日常なんですか?

黒石 不規則です。朝早かったり、夜遅かったり。起きる時間もバラバラだし、1カ月バッと仕事が入ったかと思えば、その翌月は何もなかったり。本当にシビアな世界ですね。仕事が入るときに限って、ほぼ同時に複数のお話をいただいたりするんですが、体は一つしかないですから、せっかくのお話を泣く泣くお断りしなきゃならないこともあったり。本当に役者ってうまくいかなくて難しいなって、いつもそこで悩んでいます。

――最近は、どんな作品に出演しているんですか?

黒石 いま上映中の『グラスホッパー』っていう映画にちょこっと出させていただいています。あとは、来年のゴールデンウィーク公開の『テラフォーマーズ』にも出させていただきます。

――えっ!? あの話題の超大作『テラフォーマーズ』に出るんですか? それはすごい! 何役ですか?

黒石 ゴキブリではないです(笑)。ちゃんと、戦闘員の役です。最初、三池崇史監督にお会いしたときに、「今度『テラフォーマーズ』っていう映画を撮る。そのとき仕事を頼むからよろしくね」って言われまして。俺、『テラフォーマーズ』を知らなかったから慌てて原作の漫画を読んで、「うわ、俺ぜってーゴキブリ役だ!」って確信しました。でも三池崇史さんといえば、日本を代表する大監督じゃないですか。このチャンスを逃してなるものかと思って、「よーし、完璧なゴキブリをこなしてやる! 頑張るぞ!」って意気込んで衣装合わせに行ったら、スタッフさんが「黒石おめでとう! メインキャストだから!」って祝ってくれて。「え? ゴキブリじゃないんですか?」みたいな。

――『テラフォーマーズ』の出演者をいま確認しましたが、錚々たる顔ぶれですね。伊藤英明武井咲山下智久山田孝之小栗旬……。

黒石 そうなんですよ! 俺以外スターしかいないから、現場では毎日ドキドキですよ。スターのみなさんは普段からめちゃくちゃ格好よくて、マネージャーの運転するアルファードとかヴェルファイアとかベンツとかで颯爽と現場入りするんですけど、そんな中、ペーペーの俺は自分の運転するプリウスで「恐縮です……恐縮です……」って感じで現場入り。俺みたいなもんが本当にここにいていいのかな? って毎日思っています。こういうウソみたいな大仕事をやらせてもらえるようになったのもすべて、もとをたどれば前田日明さんのおかげなんですよね。だから、キックボクシングでそのまま引退って話もあったけど、「いやいやいや、最後は何が何でも前田さんのところに帰って、そこで引退試合をやって、1人でも多くのお客さんを入れなきゃ」と。俺ができる恩返しといったら、それぐらいしかないんで。

――将来の目標を教えてください。

黒石 役者として地位を築けたらいいなと思いますし、「絶対そうなってやる!」って腹をくくっています。たとえ食えなかったとしても、バイトでもしながら諦めないで役者を続けて行こうと思っています。ただの不良少年からここまで変われたんだ、という成功例になりたい。成功して初めて、自分の言葉が生きてくると思うんで。

――「自分の言葉が生きてくる」とは?

黒石 たとえば最近は刺青の文化が若い子の間で定着しつつありますけど、そういうことに対しても、ひとこと言いたいんですよ。「俺がなんでこうやって役者の道を歩めたのかというと、刺青を入れなかったからだよ。将来の可能性を狭めないために、若いときのノリだけで簡単に刺青なんか入れちゃダメだよ」とかって。俺が役者として成功すれば、いろんな言葉が生きてくるっていうか、言葉に説得力が出ると思うんですよ。そういう発言力を得られるように、まずは自分が頑張らなきゃいけないですね。じゃないと「そういうおまえはどうなんだ?」って言われちゃいますから(笑)。

――黒石さんの言葉にはすでに説得力が十分あると思いますが、そのバックボーンは何なのでしょう? 読書ですか? それとも誰かからいろいろ教わったんですか?

黒石 昔から人の話はよく聞きますね。俺は小さなころは利かん坊でしたし、オカンが社会不在だった時期もあるので、「あの子は親がいないから……」って周りからよく悪口を言われたんです。それである時期、親代りになってくれた親戚のおばちゃんから毎晩、2、3時間正座させられてコンコンと説教されるようになりまして。オカンがいない間はおばちゃんが生活の面倒をみてくれていたから、そこから逃げたら生きていけない。だから我慢して正座して耳を傾けるわけですよ。人の話を聞くようになったのは、そのころの影響が大きいと思います。

――そんな幼少期の体験があったんですか。

黒石 そういえば、法を犯して施設に入ったときにかわいがってくれた方からも、「黒石、人の意見だけはちゃんと聞けよ。耳が痛い意見こそ、おまえに一番足りないもんだからな。我慢だ、我慢。ツラくても我慢しろよ」とずっと言い聞かされました。その影響もあって、イヤだなと思っても、とにかく我慢して話を聞こうと意識して生きています。

――それだけ素直な黒石さんが、なぜグレたのでしょう?

黒石 もともとイジメられっ子だったんですよ。でも家に帰ってイジメられた話をすればオカンもおばさんも心配するだろうし、傷つくんじゃないかと思って。どうしたらいいのかわかんないときに、たどり着いたのが暴力でした。こっちが強くなればイジメられない。それだけです。ただ単に自分を守るための手段が暴力しかなかったんです。みんなが敵だったんで、俺。

――黒石さんが人の痛みに敏感な理由がよくわかった気がします。では最後に、引退試合の話に戻りますが、「負けたら坊主にする」というのは本当ですか?

黒石 本当です。吉永くんは、負けたらどうするんですかね? 彼は格好いいし、おまけにチャラチャラしているから、イガグリの刑にしたやりたいですよね。俺の坊主よりも、吉永くんの坊主のほうが断然見ごたえがあるでしょう?

――「最後だから楽しもう」という意識はありますか?

黒石 いや、そういう気持ちはゼロです。全力で倒しに行きますよ。じゃないと周りが納得してくれません。みんなは、俺が逃げずに突っ込んで行くところを見たがっている。俺もそれをわかっているから、自分の腕を信じて振り抜くしかないですね。真っ向勝負で倒しに行きますから、どうかみなさん、俺の最後のタイマンを会場まで見に来てください! お願いします!
(取材・文=岡林敬太/撮影=長谷英史)

●大会名…THE OUTSIDER 大田区総合体育館 SPECIAL
●日時……2015年12月13日(日)開場/13:00(予定)開始/14:00(予定)
●会場……大田区総合体育館 東京都大田区東蒲田1丁目11番1号 TEL/03-5480-6688

●チケット購入方法
THE OUTSIDER事務局(TEL/03-3461-6698)宛の直接のお電話にてご購入いただけます。
※事務局からのチケット発送後の返品・交換・キャンセルはお受けしておりません。あらかじめご了承ください。
※チケットは3歳から必要となります。
・ローソンチケット Lコード/33931
・チケットぴあ Pコード/830-672

●販売席種
VIP席………15,000円(最前列※パンフレット付/大会当日に会場内の専用ブースにてチケットの半券を提示してください。)
SRS席………11,000円
RS席…………8,000円
S席……………6,000円
興行の中止を除いて、購入後のチケットのキャンセル/変更/払い戻しは一切お受けできません。

リングス公式サイト
http://www.rings.co.jp/