『小説版 魔法少女まどか☆マギカ 初回限定版』が発売されました。
えっ、近所のツタヤさんとかの書店にないですって?
はい。
取り扱い書店が限られていますので、ちょっと帰りに買って帰ろうと思っても多分ないと思います。
取扱店はアマゾン通販か、下記リンク先店舗になります。
『小説版 魔法少女まどか☆マギカ』初回限定版|ニトロプラス Nitroplus
あ、そうそう。アマゾンではCD-ROMソフトウェア扱いになってますが、CD-ROMはついてません。上下巻+イラスト冊子です。

で、以前コミック版を紹介した時は、マンガ単体でも楽しめるよ、と書いたのですが、小説版に関しては、強くアニメを見てから読むことをオススメします。

以下に、その理由や、小説版独自の面白さについて書いていきます。
あ、結論から言えば、ひとつの作品としては読みやすく、面白いです。ちょっと……かなり心がクローズドで悶々と悩み続けている、現代版太宰治の「女生徒」といった趣。
まどか一人称のですます調が多いため、童話風です。結構病んだかんじの。

1・完全一人称視点になりました。

何が一番驚いたかって、完全に主人公の少女まどかの一人称視点で描かれていることです。もう一人の主人公的存在の魔法少女ほむらしか知らない、ほむら一人称部分も少しだけありますが(アニメ10話とラストシーン相当分)、それ以外ほぼまどか一人語り。
たとえば、アニメでは他のキャラが二人で会話しているシーンなんかでも、まどかが直接その場所にいあわせて聞いて感情を吐露するようになったりしています。
なんでまどかちゃんそこにいるのー!? 状態。
また、別キャラの独り言なんかも全部まどかが聞いています。
直接キャラクターがまどかに話しかけるように改変されている、というのも大きな要因の一つなんですが、もっと便利なしくみがありまして。

キュゥべえを通じて思考や会話がまどかに筒抜けなんですよ。びっくりダネ!
他のキャラが意図してか意図せずかはわかりませんが、モノローグもぜーんぶまどかが聞いています。この仕組を最大限まで利用しているため、アニメのセリフはほぼ再現されています。
先輩魔法少女マミさんの名言「もう何も怖くない」なども、ちゃんとまどかが聞いて感想を述べています。
また、見ているものも全部再現。友人のさやかが体がボロボロになるシーンで、どのくらいボロボロになったかまで詳細に描かれていま……いてて、いててて。

アニメのストーリーにはかなり忠実なので、「このシーンをまどかが見ていたらどうなるんだろう?」という疑問に対する別の切り口からの一つのアンサーとして、興味深い作りになっています。
まどかのセリフがですます調なのがいいんですよ。陰惨な物語の中で、ああ私はなんて無力なんだろうと悲嘆にくれる姿は、宮沢賢治の『よだかの星』を彷彿とさせます。

2・とっても狭い少女の視野
小説版は、独特な背景描写、アクションシーン、魔女描写、他のキャラの心情などはかなりごっそりカットされています。
まあ、そうですよね。あくまでも「まどかの見た世界」ですから。

なので、猛烈に、アニメ版を見てから読むことを勧めたいのです。小説版だけでは、あの魔女空間の異様さ、張り詰めたキャラ同士の思惑が入り交じった空気は感じられません。
逆にその分のリソースを全部費やして、まどかが何を考え、どう悩み、この狂った物語を見ていたかを描いているのです。
あくまでもアニメを知っている人が回想しながら、「こんな時まどかはどう感じていたのかな」というのをリフレインして楽しむのを想定して作られています。
アクションとかが気になったら……、アニメを見てね!
で、まどかの視野がもうさー、狭いんだこれが。大人から見たら狭くて仕方ない。

やー。究極的にパニックに陥ってる女の子に、もっと視野を広く持ちなさいと言ったって無理なわけで。追い詰められて視野が狭くなり、なかば絶望に引きずり込まれそうになる少女の心理がかなり丁寧に描かれています。
ノベライズということで結論がすでに決まっている作品ですが、切り口を変えて「少女」を描くとこうなるのか、セカイはどんどん閉じていくのか、というのはなかなか興味深い作品になっています。
魔女システム等に関する新しいまどかワールドの情報はほとんどありませんが、まどかがなぜ色々な行動したのかの一つの答えは見ることができます。

3・「友達」について考えるまどかのセカイ
この作品、テーマがとことんまで徹底して「友達」なんですよ。幼なじみのまどかとさやかだったり、まどかと先輩マミさんだったり、まどかとほむらだったり、まどかと仁美だったり、杏子とさやかだったり、人間とキュゥべえだったりと。
「わたしに、本当の友達っているのかな……?」という書き出しを見ると、おいおいさやかちゃん(←幼なじみダヨ!)かわいそうだろう、とツッコミを入れたくなるんですが、なるほど、一方的に好きすぎて何もしてあげられない苦しみなのね。それなら分かる。
オリジナルエピソードとして幼い頃のさやかとまどかが登場することで、彼女の「友達」という感覚に対しての迷いが浮き彫りになるのも、ラストのほむらに対する強烈なまどかの感情も、一人称視点ならでは。
「友達」についての猛烈な悩みと無力感からオロオロしたり夢見たり絶望したりする少女像を、柔らかい口調で、でも徹底して追い詰めて描こうとしています。
「まどか☆マギカ」のセカイにのめりこませる度合いはとても高い作品です。


「まどか☆マギカ」の放映が終わって結構たっているため、視聴者それぞれの中に「ぼくの・わたしの考えるまどか」像があると思います。
未見の人でも「なんかえらい話題になっているな、どんなのなんだ」となんらかのイメージがあるでしょう。
それと、この小説版は必ずしも一致するとは限りません。ノベライズの難しいところですね。
しかし、筆者である一肇の見た「まどか☆マギカ」は強く再現されています。ここの強度が高いため、非常に安定していて読みやすいです。
あくまでもまどか視点なので「このキャラのあのシーンが無いだなんて!!」というのはどうしてもありますが、それを差し引いてもアニメのファンなら読んでみる価値あり。

個人的には幼い頃のまどかとさやかがかわいすぎてもうたまらんかったですね。一緒におふとんとかね。
カラー挿絵おいしゅうございました。ペロペロ。
(たまごまご)