今日から始まるプロ野球セ・パ交流戦。
森繁和って誰? コアな野球ファンでもなければそんな反応が聞こえそうだ。1980年代の西武ライオンズ・黄金期に救援投手として活躍。その後、西武→日ハム→横浜→中日で常に投手コーチ(中日では後にバッテリーコーチ→ヘッドコーチ)を務めてきた生粋の野球人だ。そんな森繁和という男の人物像も、そしてその顔も一発で憶えられる本が出た。『参謀 ~落合監督を支えた右腕の「見守る力」~』。浅尾が不調でもなお首位を走る中日の強さが改めて認識できること間違いなしの一冊だ。
まずもって表紙のインパクトがスゴい。もう“堅気”じゃない。
<契約だから、手は出していない。殴ってはいないが、足は出てしまったことはある>
ほらね。約束を守り、選手と監督を守るのが名参謀たる所以なのだ。コーチとしての信条が<考え方は教えられない。答えは自分で見つけさせるしかない>という大人な関係性であり、そのために中日コーチ時代に心がけてきたことが副題にもある「見守る力」だ。
<ドラゴンズがしぶとくて強いチームになったのは、落合監督の「見守る力」が、コーチ陣にも浸透したからではないか。その結果、選手たちは自然に自分たちで判断して、最前を尽くすことができるようになったのである>
よく称される「オレ流」「放任主義」という落合野球だが、その実、選手を「プロ」として信頼していたことがうかがえてくる。そして、選手が安心してプレーだけに取り組めるように落合監督と森コーチが影でこだわってきたのが「信頼できる組織作り」だ。
・キャンプ中、監督とコーチ陣の間で毎晩朝まで繰り広げられた、飲み会という名のコミュニケーション(落合監督の部屋にはバーカウンター完備)
・徹底した秘密主義(先発投手は森コーチが決め、落合監督も知らないから絶対に外に漏れない)
・コーチ陣の地位向上、年俸UP(コーチの年俸は落合監督が球団と交渉)
・組織図をシンプルにして、責任の所在を明確にする(選手を信頼するコーチ、コーチを信頼する監督、という縦のラインを作る)
・特別扱いをしない。
・目の前の試合だけではない、将来を見据えた選手獲得・コンバート・選手起用
などなど、組織作りの秘訣と落合ドラゴンズのこだわりが見えてくる。そのこだわりが強すぎた故に球団サイドと意見が合わなくなり、解任に繋がっていった経緯も。そして、今日・明日・今シーズンの結果を求められるプロ野球において「未来を見据えた人材育成」を意識し、実際に実現できていたことには驚かされる。
だが、かつてこの「未来を見据えた人材育成」と同じことをやってのけ、常勝軍団を築いた球団が2つあったことに本書を読むと気づかされる。それは80年代の西武ライオンズであり、90年代後半からの福岡ダイエー(ソフトバンク)ホークスだ。そしてこの2つのチームを作り上げたのが球界の寝業師、日本プロ野球史上初のゼネラルマネージャーとも言える故・根本睦夫氏なのだが、森繁和も落合博満も、この根本イズムの影響下にあったことを本書の中で吐露している。
<根本さんは(中略)鉄拳も振るえば、とことん面倒を見る親分肌の指導者であり、GMであり、参謀だった。根本野球を学んだ私に、鉄拳禁止の選手操縦を約束させたのが、落合監督。その落合監督に私を推薦していたのが根本さんなのだから、不思議な因縁を感じる。いや、不思議ではなく、私も落合監督も根本さんの手のひらでうまく踊らされたのかもしれない>
日本プロ野球史を振り返って、功罪さまざまな影響を残した根本睦夫氏。ここでその功罪についての言及は避けるが、ライオンズ、ホークス、そして昨年までのドラゴンズと、3つの常勝チームの影に根本アリ、というのは改めて考えると恐ろしい事実だ。そして昨年の日本シリーズがそんなホークスとドラゴンズの対戦だったというのも興味深い。
最後に。
投手が結果を出すための重要な要素として「孤独との付き合い方」を述べている箇所がある。2軍での再調整に臨む今の浅尾にこそふさわしい記述であると感じたのでチェックしておきたい。
<孤独な時間を作るのが重要なのは、それが自分を見つめ直す時間になるからだ。そして、自分を見つめ直すことは、すなわち一人で野球を考えることなのだ>
一人前に扱い、一人で悩み解決方法を見つけさせ、それをそっとずっと見守る。“参謀”というよりも“親父”という言葉が似合う男・森繁和。こんな風にNo.2から組織を見直してみるとまた違った魅力や問題点が浮き彫りになるのではないだろうか。その参考の書として、本書『参謀』をぜひオススメしたい。
(オグマナオト)