「このミス」など年間ベストテン三冠王作品が映像化!
週末の6月16日から公開される『二流小説家 シリアリスト』(監督・猪崎宣昭)はアメリカ作家デイヴィッド・ゴードンの小説『二流小説家』を原作とするミステリー映画だ。ちょうど作者が来日中だったので直撃して映画の感想をお聞きしてみましたよ。
もともとゴードンさんは「座頭市」や「仁義なき戦い」などの邦画も好きで、映画を製作した東映にも親しみを感じていたんだって。

「だから日本の映画会社からオファーを頂いたことは名誉に感じています」

ーー試写はご覧になりましたか?

「はい。役者さんが何を言ってるのかさっぱりわかりませんでした。自作がそうやって日本語で映像化されているのを観るのは、人生における最大の不思議な出来事でしたね」

『二流小説家』は、ミステリーやSF、ホラーなど、さまざまなジャンルの作品を手がけながら、まだ一般には知名度の低い作家が、連続猟奇殺人の犯人である死刑囚から独占インタビューの機会と引き換えにある依頼をされることから事件が起きる話だ。作家役の上川隆也、サイコパス役の武田真治それぞれの印象を聞いてみた。

「上川さんはハリー・ブロック(赤羽一兵)という主人公のキャラクターを非常によく理解して体現してくださっていたと思います。
また、ダリアン・クレイ(呉井大悟)を演じた武田さんは、まったくセリフはわからないのに、時々何を言っているのか理解できると感じる場面がありました。それくらい強力な演技でしたね。特に印象に残っているのは面会室で作家と死刑囚が話す場面で、2人の役者さんが演技プランを考え抜いて演じられていると感じました」

ーーあなたの作品では常に女性が魅力的に描かれます。女性陣の演技はいかがでしたか?

「皆さん美しい方ばかりでしたが、まず印象に残ったのは片瀬那奈さんです。被害者の遺族の役なのですが、怒りを表に現さず、内に秘めている。そういう複雑な感情を表現していてたいへん素晴らしい演技だと思いました」

ーーこの作品の前に出演した『HK/変態仮面』では、彼女はSMの女王様に扮したんです。


「それはすごい。ぜひビデオを本国に送ってください(笑)。その他の役者さんで印象に残ったのは、弁護士役の高橋恵子さんですね。それと、クレア(小林亜衣)役の小池里奈さんも。クレアは原作ではもともと端役だったのですが、書いているうちにハリーとダリアンの次に興味を引く、第3のキャラクターに育ちました。映画でも重要な役回りを与えられていたと思います。
それが嬉しかった。本を読んだ方はみんな『クレアが好き』と言ってくれるんです。女優さんはとても活き活きと演じてました」

映画では少し設定が変わっているが、原作のクレアは女子高生ながら主人公のマネージャーを務め、だらしないところのあるハリーのお尻をたたいて仕事に向かわせることもあるという非常に魅力的なキャラクターだ。女子高生マネージャー、ってファンタジーのような設定でもある。

ーーあんなマネージャーがいたらいいな、と羨望を感じました。
「ですよね。
僕にとっても憧れの存在です(笑)」

原作では、少し変わった構成がとられている。
劇中で回想場面が挿入されるのはよくある手だが、『二流小説家』ではその代わりに、ハリーが書いた小説の断章が挟まれていくのである。切り取られた場面は、不思議なことにハリーの心情を代弁するもののようにシンクロし、ストーリーに溶け込んで見える。緊迫感溢れる物語に、そのことによってふくらみと奥行きが与えられている。

「あの断章は、最初は入れるつもりがなかったんです。挿入された小説の梗概ぐらいは書いていましたが、稿を重ねるうちに実際に文章化してみたくなってきた。
それで入れてみたところ、構造的な独自性を出すことができました。ハリーの考えていることを作中作で表現できたのは、自分でもおもしろいと思っています」

そのへんの文章だからこそできる演出が、映像ではどう置き換えられているかが映画版の見所でもある。ぜひ映画館でご確認を。また、ゴードンの第二作『ミステリガール』が先週末から発売されている。こちらは未公開のカルトムービーのフィルムが謎を生むという、映画ファンの琴線にふれまくる内容だ。特に『ガルシアの首』あたりのサム・ペキンパー映画がお好きな方にはお薦め。
映画と併せて小説もお楽しみください。

最後に宣伝を。映画封切り前夜の14日(金)、原作者をお招きして新宿でトークイベントをやります。ここでしか聞けない秘話が満載ですので、どうぞご観覧を。詳細はこちら
(※当日券で入場の方は『エキレビ!見た』で500円割引します)
(杉江松恋)

デイヴィッド・ゴードン
ニューヨーク在住。コロンビア大学大学院創作学科修士課程修了。デビュー作『二流小説家』は、アメリカ探偵作家クラブ(MWA)2011年度の最優秀新人賞候補作となった。邦訳され、日本でも年末ランキングで三冠を独占、一気に人気作家となる。近作に『ミステリガール』。