初音ミクがいない。
もう「ボーカロイド=初音ミク」ではない。


オールボカロ系コミック誌『COMIC@LOID』という雑誌があります。現在二号まで発売中。
ボーカロイド楽曲とキャラを中心にしたコミック誌です。
ぼくはというと、MEIKOから利用していて、「初音ミク -Project DIVA-」シリーズと鏡音リンちゃんのフィギュアはあらかた買っている、wowaka楽曲大好きな人間。にわかながらも、これは楽しみ!と思って創刊の7月号を買いました。
ところが開いてびっくり。

あれ……リンちゃんどころか初音ミクも全く出ない。
かろうじてGUMIやがくぽあたりは出ますが、それ以外は基本「モザイクロール」「脳漿炸裂ガール」「シリョクケンサ」など楽曲のコミカライズで、ボーカロイドのキャラはほとんど出ない。

2号では1号でとったアンケートのランキングが掲載されていました。
好きなボカロベスト5。
一位・GUMI、二位・IA、三位・初音ミク。
うお、おおう。
今こうなってるのか……。リンちゃん……。
ちなみに届いている投稿メッセージを見ると、ほとんどが12歳から18歳。
……すまん、おっちゃんのアンテナ、「千本桜」とか「リンちゃんなう!」あたりだったわ。でも、あれ?そっちのほうが「モザイクロール」より新しくない?
文化圏が違うんだろうか?

マンガ自体は、逆に言えばボーカロイド知らなくてもいいので、誰でも読みやすい雑誌です。
でもたまげたな。

もともとこの雑誌は2012年12月にウェブ版として創刊された『web COMIC@LOID』が元。
ニコニコ静画で10万以上閲覧され、読者の反響で雑誌化されたというものです。この流れ自体かなり珍しい。

これらの現象は、Febri Vol.19で、飯田一史が書いた特集「あたらしいオタクの肖像」にまとめられています。
ずばり、今のボカロは3世代目だ、と。
第一世代は2007年初音ミク登場から、supercell『メルト』やcosMo@暴走P『初音ミクの消失』など、ミクを軸とした二次創作に重点を置いた時期です。
「ボーカロイド=初音ミク」という人はここです。
第二世代は物語調の作品が増えてきた時期。特に話題になったのは、悪ノPの『悪ノ娘』や、囚人Pの『囚人』など。
第三世代。「高速ボカロック」系が主流になってからハマった世代。最大の特徴はボーカロイドのキャラクターの二次創作ではないこと
もともとボーカロイドをツールとして使う人は多かったのですが、主流ではありませんでした。BPM早いロックにに馴染む声はGUMIやIAなことからも、『COMIC@LOID』が初音ミクの雑誌じゃない理由も見えてきます。

ここでなんといっても忘れてはならないのは、2011年のじん(自然の敵P)の『カゲロウデイズ』
これを説明するのはあまりにも難しいんですが……楽曲の人気はもちろん、書籍化されたカゲロウプロジェクトの『カゲロウデイズ』シリーズは累計180万部売れております。
現在はボカロ小説という、ラノベと違うジャンルが確立しています。曲を作った、作家じゃない人が、世界を膨らませて小説を書くようにもなりました。

このあたりは、飯田一史本人が書いたWEB記事も御覧ください。
オタク第3世代の俺がボカロ小説についてひとこと言っておくか:Book News
学校読書調査とロキノン脳でボカロ小説を切る…はずだった:Book News
この二つの記事と『Febri』の特集を読むと、ボカロを軸にした今の文化形態が非常によくわかります。

また、中高生のアニメ・ボカロ好き男女それぞれ100名弱ずつにインタビューも取っています。
当然結果としてアニメが好きというのはあっさりでるのですが、問題はここから。
読書は特にラノベ一色ではなく、ミステリも純文学も読む。音楽はだいたいJ-POP好きで、アニソンも聞けば洋楽も聞く。アニメ好きについては「普通の趣味」であり「なんとも思ってない」。そしてほとんどの人が、自分を「オタク」だとは思っていない。
とても当たり前に感じる反面、アニメ好き=オタクという感覚の人には驚きかもしれません。
衝撃的だったのはこの部分。

「ネットでよく「今の若いやつは『にわか』『ヌルオタ』」と上の世代が書いているから、よけいに「あ、俺らオタクじゃないんだ」と思うようだ」

なるほど。確かに。
もう、オタクという言葉自体が、かつて使われていたものと別のものになっている、と書かれています。
むしろ「○○クラスタ」の方がよく使う、という話は、LINEやTwitterを使いこなす10代らしい話。

他にも「歌ってみた」の流行、「ゲーム実況」の盛り上がり、刺激のある「フリーゲーム」のブームなど、丁寧にわかりやすく分析されている記事なので、『Febri』の特集は見てみる価値あります。艦これの島風ちゃんが目印です。
明るく、軽快で、共有することが大好きな今のオタク(オタクという単語が当てはまるか微妙ですが)について、こうまとめています。

「『ヤマト』世代をオタク第1世代とすると、『ガンダム』=第2世代、『エヴァ』やエロゲー世代が第3世代、いまの20代は『ハルヒ』=第4世代、中高生以下は『カゲプロ』=第5世代だろう」

世代論は大分前にわーっと盛り上がって、収束したなあと思っていたのですが、まさか今5世代目までいっちゃったとは。
この記事に書かれていることは、あくまでも現状の観測記録です。絶対こうだ、という論ではありません。
ただ、今若者文化がどうなっているのかを知るには大変いい資料。
そして「ニコニコ周りでなんかやってるけど、よく見たらやってることは自分が若い時と変わらんなあ」というのも見えてきてユニークです。

まさかゆうきまさみ(GUMIのキャラクターデザイン)も、自分がデザインした子が様々な形で色々な絵になり、今の中高生のアイドルになるとは思っていなかったろうに。
それでもやっぱり、リンちゃんが好きだよ。

『Febri』Vol.19
『COMIC@LOID (コミカロイド)』1

(たまごまご)