「先食! 宮川食聖。愛用の螺鈿細工の箸を手に まずは…わさびか…? 小皿の醤油に…溶かし入れた! 行ったぁ! 鮪の刺身を一片取り…わさび醤油に付けました! 再び御飯に乗せて御飯と一緒に持ち上げ…宮川食聖 今マグロ丼を食しました!」
「こ…この口の動き…これは鮪の脂を味わう動き…! 大トロ丼ですな!」

漫画アクション2013年1号から連載が開始された土山しげるの「闘飯」は、前代未聞の料理漫画とも言う作品になっています。
何がすごいか。それは、あたかも熱戦が繰り広げられているであろう冒頭の引用部分では、実際に料理を食べていないのです。本当なの? と思われた方はこちらから第一話を試し読みすることができます。

落語の名人が食べる演技をすると、本当に食べているように見えます。その芸のみを磨き上げた「闘飯師」が、互いに食勝負をする。それが「闘飯」なのです。
実際に食べずに、食べている演技で圧倒するのですね。凄腕の闘飯師の技は、野次馬にすら皿の中に料理を見せてしまうのです。

もちろん強烈に食べ物をイメージしないとできない技ですから、相手の食べる勢いに圧倒されて集中力が乱されると、自分の料理が見えなくなります。一度そうなると再びイメージするのは容易ではありません。向き合って食べる闘飯では、そういった駆け引きも見所になるのです。

この世界では「闘飯」はきちんとプロ組織化されています。
闘飯連盟という組織があり、将棋のように○段とか、食聖というタイトルがあるのです。もちろんタイトル戦ではテレビ中継もされます。また、アマチュアの闘飯師もいて、アマ○段とかもいるのです。そして、表があれば裏があるように、裏闘飯の世界があり、そこでは「裏飯会」という組織が牛耳っていて賭け闘飯が日夜行われているというわけです。

主人公の飯森留吉はギャンブルにはまって借金がかさみ、それを返却しようと(何せ大金が動くのです!)闘飯の世界に入ります。そこで出会った”独眼竜”伊達竜之介に導かれ、全国の強者と戦いのし上がっていくのです。


ここまででも相当わくわくする設定なのですが、出てくるキャラクターがまたすごい。いろいろな料理漫画のオマージュというかパロディというか、まあ、ちょっと紹介しましょう。

・九隅六段
新聞にこっそり載っている。キャッチフレーズは『孤独の闘飯師』。もちろんオールバックです。

・地井敏太(読みは「ちいびんた」)
天才少年アマ闘飯師。
△○□の形に串にさしたおでんが大好きな12歳。付き人は「ザンス」という眼鏡でスーツで変な髪型の人

・新井岩太郎(新井主任)
博多の会社で主任をやっている、大きなしゃくれているアゴが特徴の男性。すごく料理が上手で、ついたニックネームが「食キングパパ」

・阿部信也
留吉と新井主任の戦いの判定人を行う夜型の食堂を経営していて、左目のところに傷がある

元ネタは全てわかりますでしょうか。連載開始時の予告編では、どう見ても至高の陶芸家っぽい人の絵もありましたので、今後の登場に期待大です。

前作にあたる「極道めし」も、いわばエア食事対決マンガでした。刑務所の中で思い出の料理の話をし、喉を鳴らせば勝ちというものです。
「闘飯」はその最終盤にあった「話王編」をさらに昇華させ、「大食い甲子園」のように日常生活に料理バトルが溶け込んだ世界を構築した、土山料理漫画ワールドの集大成なのでしょう。古今東西の料理漫画のキャラクターへのオマージュが登場しているのも、そういった理由なのではないかと思われます。「喰いしん坊」で料理漫画に大食いという金字塔を打ち立てた土山ワールドがどこまでいくか、今後の展開が楽しみです。

さて、この作品。現在は単行本1巻までしか発売されておりません。2巻の発売を心待ちにしていたのですが、12月6日に発売されたのはコンビニコミックス版でした。
こちらは1巻の内容プラス6話分と、おまけに「男麺(おとこメ〜ン)」が少し収録されています。1巻には新井主任の顔が出てくるところまでしか描かれていません。

コンビニコミックスは店頭での入れ替わりが激しいので、今を逃すと手に入らないかもしれません。また、2巻が出る前に廉価版が出たということは、これが売れないと2巻が出ないということなのかもしれません。新たなる土山ワールドの、そして新井主任の活躍が気になる方は今すぐ買いに行きましょう!
(杉村 啓)