
《ストライクゾーンど真ん中に豪速球を投げているような感じ》
─── 改めてフリーザの偉大さを感じる映画になっていました。今回、フリーザを敵役として起用した背景を教えてください。
林田 前作『神と神』がおかげさまで国内だけでなく海外からも高い評価をいただきました。その結果、「続編を作ろう!」「次回は鳥山先生に脚本を書いていただこう」という流れになりました。そんな中で鳥山先生が出会ったのがマキシマム ザ ホルモンさんの「F」という曲です。この「F」はまさにフリーザのことを歌った曲。この曲を聴いた鳥山先生が触発されて、「そうだ! フリーザ復活っていうのはあるよね」と。そこから先生のシナリオの発想が生まれました。
─── フリーザを敵役にした効果、反響はいかがですか?
林田 『ドラゴンボール』の敵役について様々な人気調査があるのですが、1位はやっぱりベジータ。次によく名前が挙がるのがフリーザなんです。キャラクターが立っているだけに、やっぱり反響は凄いものがあります。と同時に、製作陣の間では、人気キャラであるフリーザを扱うことの重みも実感しています。

(C)バードスタジオ/集英社 (C)「2015 ドラゴンボールZ」製作委員会
─── 鳥山先生のシナリオを読んだ時はどんな感想を抱きましたか?
林田 原作の漫画を読んでいる気になるくらい、非常に面白かったです。ストライクゾーンど真ん中に豪速球を投げているような感じで、原作ファンの方も「これだよ、これ!」と納得のいくものになっていると思います。特に、キャラクターそれぞれが発する言葉のひと言ひと言が非常に説得力があるんです。それは、他のシナリオライターには表現しきれない原作者ならではのものだと思います。
─── 前作の『神と神』は18年ぶりの『Z』作品だったこともあり、同窓会的な「フルキャストそろい踏み!」といった感じがありました。それに対して今回は、登場するキャラクターを絞った印象があります。
林田 あの絞り方が結果的によかったと思っています。たとえば、ピッコロやクリリンなんかはこれまでバトルシーンがなかなか描けず、語り手役になることも多いのですが、今回は登場したキャラクターそれぞれ、活躍する姿を描けていると思います。主人公の悟空だけでなく、キャラクターごとにファンがいる作品ですので、その点でファンの皆さんに満足いただけるものになっているんじゃないでしょうか。
─── ヤムチャがいない! でも亀仙人にはバトルシーンがあるなど、「そうきたか!」というのがたくさんある内容になっていました。
林田 そうですね。ヤムチャのことはみんな言いますね(笑)。

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─── そして、昨年コミックが発売されたばかりの『銀河パトロール ジャコ』のジャコ本人が出演。これも鳥山明ファンにとってはたまらないものがあります。
林田 『銀河パトロール ジャコ』という作品は『ドラゴンボール』に繋がる話として描かれたものです。鳥山先生の中にも、どこかのタイミングで登場させたいという気持ちがあったんだと思います。もう何年かした後ではインパクトが弱いでしょうし、彼を出すタイミングとしては「ここしかない!」という絶妙なものになったと思います。
《特にこだわったのがアクションシーン》
─── プロデューサーという立場で特にこだわった点は何でしょうか?
林田 今回、テーマとして掲げたのが「原点回帰」。先生のシナリオを拝見して、「『ドラゴンボールZ』という作品はこうなんですよ、というのを旧来のファンだけでなく、今の若い世代にも観て欲しい」という先生の狙いが感じ取れました。その狙いや期待に応えるために、制作スタッフにはこれまでの『ドラゴンボール』シリーズに深く関わった方々を選びました。監督の山室直儀さんも原画や作画監督としてずっと関わってきた方です。
─── 歴戦の『ドラゴンボール』スタッフをもってしても大変だった点は何かありますか?
林田 今回はアクションシーンがとても多くなっています。そのため、描く枚数がもう尋常じゃないんですよ。
─── その分、納得のいくものに仕上がった?
林田 山室監督が「核心に迫るものにしたい」と特にこだわったのがアクションシーンです。ご自身も少林寺拳法の経験者で(私も昔やってまして)、カンフー映画も凄く好き。だから、今回の作品の突き・受け・払い・蹴りといった表現は、格闘家の人が観ても正確な動きになっていると思います。これまでの『ドラゴンボール』と比べても明らかに違う点です。その結果、アクションシーンは何回観ても新しい発見があり、飽きないものになっていると思います。

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《今の子どもも楽しめるように、と何かを変える必要が全くない作品》
─── これだけ長く続いている作品、ターゲットはどの層になるんでしょうか?
林田 現在放送中のTVシリーズ『ドラゴンボール改』の視聴者層は、当時の現役世代、すなわち30代後半から40代、そしてそのお子様、というところがメインになっています。私も何度か劇場に足を運んでいるのですが、本作もそこは共通していると感じています。
─── 親世代と子ども世代、その両方に刺さるっていうのはかなり大変なことじゃないでしょうか?
林田 そうなんです。逆にいうと、そこが『ドラゴンボール』の凄いところ。皆さんが原作を今読んでみても、そんなに古さを感じないと思うんです。それは○○の都といった都市部、戦う荒野、学校の描写……どれをとっても現代の世界のどこかにありそうな情景です。
─── それは、世界で『ドラゴンボール』が受けた理由とも通じますよね。
林田 そう思います。だから、今の子どもも楽しめるように、と何かを変える必要が全くない作品なんです。そのままの世界観でいつでも楽しめる作品。こういう作品は数少ないというか、とても希有な存在だと思っています。
─── 同時に、よりファン層を広げるという意味では、ももいろクローバーZ(ももクロ)の起用など、新たなチャレンジもしています。
林田 初日の舞台挨拶は凄かったですねぇ。ももクロさんって他の女性アイドルさんと違って老若男女を問わずファンがいらっしゃいます。よりファン層を広げるというところでの意義はあったと思っています。
─── ももクロメンバーも、グループ名に「Z」が入っている私たちがようやく……と以前の取材でおっしゃっていました。
林田 今回の主題歌の曲名が「『Z』の誓い」。
《ベジータがいなければ、悟空はここまで成長はできなかった》
─── 先ほど、敵役におけるフリーザとベジータの人気ぶりの話がありました。そのベジータのポジションが年を追うごとにより強固なものになっている気がしています。今回の映画ポスターでも、もう悟空と二枚看板くらいの印象になっていて。

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林田 今回は特にそうしている部分はあります。やっぱりベジータの人気は凄いし、悟空にとってなくてはならない好敵手なんです。ヒーロー物には必ず彼のようなライバルが必要です。やっぱり好敵手がいるから主人公が育っていくので、『ドラゴンボール』でもベジータがいなければ悟空はここまで成長はできなかった訳ですし。
─── そう思います。
林田 ただちょっと他の作品と違うのは、ベジータのほうが常に半歩、いや一歩遅れていることですね。悟空のほうが常に少し上を行っているところがあります。
─── 普通は、主人公のライバルの方が少し上で、そこを超えていく過程が見どころだったりします。そう考えると、確かにベジータは異質なライバルです。
林田 ベジータファンからすると、そこはちょっと悔しい部分だと思うんですよ。なんでいつも悟空にちょっと力及ばずなんだよ! と。今回は今までにも増してベジータの活躍シーンが多くなっているので、そこはベジータファンに限らず楽しんでいただきたい点ですね。

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─── これから映画を観る場合は、特にどこを注目して欲しいですか?
林田 先ほども触れましたが、アクションシーンは特に丁寧に描けていると思いますので、ぜひ楽しんでいただきたいですね。そして、悟空はもちろんのこと、個々のキャラクターに活躍シーンがありますので、何回も楽しんでいただける作品になっているはずです。元々のファンに向けては、ストライクど真ん中に思いっきり投げ込んだ作品になっていると思いますし、初めてドラゴンボールを観る、という方にとってもキッカケとして入りやすい作品に仕上げています。何よりも、鳥山先生自身がシナリオを書いていますので、『ドラゴンボール』はこういうものなんなんだよ」というのを新しいファン、特に子どもたちに知ってほしいですね。
─── この先を期待したくなる内容でもあったと思います。
林田 前作もそうでしたが、今回もまだまだ続きがありそうな予感を残しています。私たち制作スタッフとしても、これからも長く続けていきたい作品だと思っています。
◆映画『ドラゴンボールZ 復活の「F」』
原作・脚本・キャラクターデザイン:鳥山明/監督・作画監督:山室直儀
全国ロードショー中。世界74の国と地域での公開も決定。
林田師博(はやしだのりひろ)プロフィール/東映アニメーションプロデューサー。『地獄少女』(2005年)、『地球へ…』『のだめカンタービレ』『もやしもん』(200 7年)などのTVアニメを手がけている。『ドラゴンボール』では、映画『ドラゴンボールZ 復活の「F」』および、TVアニメ『ドラゴンボール改』でプロデューサーを務める。
(オグマナオト)