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選考委員の本音を聞け。高橋源一郎『デビュー作を書くための超「小説」教室』

2015年5月8日 10時50分 ライター情報:千野帽子

『デビュー作を書くための超「小説」教室』高橋源一郎/河出書房新社

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小説家はみんないい小説を書くことで、どういう小説がいい小説か、という問いに答えようとしている。
でも、小説作品以外のところで、小説についてはっきりと語った小説家もたくさんいる。
小説家が小説について語っているのを読むのは、おもしろい。みんな実作者として語るし、ときには、教室で小説を教えてる作家のばあい、そこにコーチあるいはトレーナーとしての視点が加わることもある。

高橋源一郎の『デビュー作を書くための超「小説」教室』(河出書房新社)は、その点で少し違う。
高橋さんは小説の実作者だけど、この本にかぎっては、実作者としての小説論ではかならずしもないし、教師としてとしての小説論というわけでもない(高橋さんも大学で教えているけれど、小説の書きかたを教えてるわけじゃなさそう)。
この本は、新人文学賞の選考委員という立場からの小説論なのだ。
ここには、具体的な技術論はなにも書かれていない。
プロットの立てかた、視点の操作、文体の問題、世界設定の構築など、そういった「メイキング」の話は、ほとんど出てこない。
わずかに、作品の題名と、筆名(つけるならば)の話が出てくるくらいだろうか。
あ、筆名のつけかたって、技術の話じゃなかったな。ごっちゃにしてゴメン。
では、この本にはなにが書いてあるのかというと、小説の公募新人賞の選考委員は、こういうことを考えていますよ、ということが書いてある。

なお、この本の後半は2000年以降に著者が書いた新人文学賞の全選評が集められている。
選評というものは、多くは賞の発表時に雑誌に載って終わり、というものだ。
だから、ひとりの選考委員がこの15年間に、朝日新人文学賞(もう終了)、群像新人文学賞、すばる文学賞、中原中也賞(これだけは詩の賞で、詩集=単行本が対象)、文藝賞、坊っちゃん文学賞の選評でなにを言ってきたか、をまとめ読みする機会は珍しい。
この新人文学賞の全選評は、ページ数的には「後ろ半分」だけど、この「後半」は前半よりのフォントが小さい。
いっぽう「新作」である前半の小説教室は字が大きくて、おまけにまるで現代詩のように改行だらけなので、字数から言ったら3分の1くらいではないだろうか。
こういう構成だから、文学賞に応募しようと考えている小説家志望者が、『超「小説」教室』という題に惹かれて、なにか具体的なアドヴァイスが書いてあるかと思って本書を読むと、本書はひょっとしたら、
「前半は言ってることが抽象的で、結局どうしたらいいのかわからない」
「後半(分量的には3分の2)はありものの原稿で水増し」
という感想を抱くかもしれない。

ライター情報

千野帽子

文筆家。著書『読まず嫌い。』(角川書店)『文藝ガーリッシュ』(河出書房新社)『俳句いきなり入門』(NHK出版新書)など。公開句会「東京マッハ」司会。

URL:Twitter:@chinoboshka

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