ところが最近は状況が大きく変わってきた。ラジオをインターネットで配信する「radiko」が全国のラジオ番組を有料配信するサービス「radikoプレミアム」を開始したからだ。月々350円支払えば、北海道だろうが、大阪だろうが、名古屋だろうが、九州だろうが、どこのローカル番組も聴ける!

そんな新たなラジオ環境を反映しているのが雑誌『ケトル』(太田出版)最新号の特集「いつでもどこでもラジオが大好き!」だ。サブタイトルは「24時間ラジオ生活特集」。
「スマスマ」といってもSMAPは一人も登場しない福岡の番組
特集のメイン記事「いま聴くべきなのは この人のこの番組」でピックアップされている21番組のうち、8番組が東京圏以外の番組だ。これまでだったら「こんな番組もあるんだなぁ……」と思うだけだったが、今ならradikoプレミアムのおかげで即聴くことができる。
「よなよな…水曜日」(ABCラジオ)のパーソナリティ、近藤夏子は3時間の生放送なのに台本もネタ帖も用意せず、打ち合わせを5分するだけで臨む。オープニングトークも直前まで何も考えていないというのだから、大胆すぎると言うしかない。
一方、山下達郎にも認められる音楽通・クリス松村は「クリス松村のザ・ヒットスタジオ」(MBSラジオ)の構成・選曲を一人ですべて考え、音源も用意しているという。クリス松村は現在、週に3つの音楽番組を持っている売れっ子だ。
愛媛の南海放送でオンエアされている「友近ママ 千鶴の部屋へようこそ」は、芸人・友近の実母、友近千鶴がパーソナリティ。タレントではなく「素人のおばちゃん」だ。彼女が1時間の生放送を一人で仕切っているというのだから驚く。
ラジオの大御所たちも登場している。46年続く「毒蝮三太夫のミュージックプレゼント」(TBSラジオ)の毒蝮三太夫は、今日も「ババアは化粧をしてきたの? 無駄遣いしちゃって」と毒を吐いて爆笑をかっさらう。41年続く「ありがとう浜村淳です」(MBSラジオ)の人気コーナーは浜村淳が40分かけて新作映画について語る「映画サロン」。大切なポイントは「景色と人物のファッション」で、語りにくいのはアクション映画なのだという。
ページの上下の余白には、全国のラジオに関する豆知識がびっしり。
「ぎふちゃん『お茶の間ステーション2時~6時』で放送されている『岩津徹征の玄関占い』は玄関の向きによって運勢を占う」
「FM岩手『BRA-BAN!』は、岩手県内の吹奏楽にまつわるトーク番組」
「福岡のLOVE FM『Street Noiz』『On Sundays』に出演しているDJの松井伸一は76歳。DJ生活50年を超えている」
「福岡のRKBラジオ『スマスマE-kids』は『スマスマ』といってもスマップの番組ではなく、福岡のベテランパーソナリティーの林田スマが出演する教育情報番組」
心からどうでもいい情報ばかりだが、はからずもラジオの自由さをあらためて感じる。「スマスマ」なんてタイトル、テレビだったら絶対怒られる。
「KISS FM KOBE『Kiss Music Presenter』のクイズコーナー『イントロドン・ドン・ドン!』は正解者の中から抽選で、ターザン山下の私物か、女性ADの私物がジップロックに入れられてプレゼントされる」
って、欲しいのか、それ?
「ラジオ聴いたよ」と言われるとうれしい高田純次
「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」(TBSラジオ)の宇多丸は、自分の番組を雑誌に例え、「これだけ自由にできるのもフットワークの軽いラジオだからこそ」と語っている。
一方、「高田純次 日曜テキトォールノ」(文化放送)のパーソナリティを務める高田純次は、「街中で『テレビ観たよ』と言われるより、『ラジオ聴いたよ』って声をかけられたほうがうれしい」と語る。理由は「(ラジオのほうが)距離が近い感じがするから」。
ラジオの魅力は、“身近さ”と“自由さ”。これに尽きるだろう。それを体現するのが、パーソナリティである。「司会」でもなければ、ただの「DJ」でもない。文字通り、全人格=パーソナリティをさらけ出しているからこそ、リスナーは番組を身近に感じることができる。特集のタイトルが「この人のこの番組」となっているのも、ラジオの中心にあるのが「人」だからだろう。
ちなみに、スマホでradikoのアプリを起動させて、いつでもどこでもラジオを聴いているような人のことを「ネオラジオリスナー」と呼ぶらしい。名付け親は、表紙を飾る女優の松岡茉優(「松岡茉優ト文化的交流」文化放送)。
学生時代、ほとんど“ぼっち”だった彼女は、ラジオを聴くことで寂しさを紛らわしていたのだという。ああ、思い出した。
(大山くまお)