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朝ドラ「ごちそうさん」で描かれた大阪大空襲・救援電車の真実

2014年3月7日 11時00分 ライター情報:近藤正高

NHKドラマガイド『連続テレビ小説 ごちそうさん』Part2(NHK出版)
いよいよ最終回まであと1カ月を切った人気ドラマ『ごちそうさん』の後半の展開を徹底ガイドした一冊。劇中、ヒロイン・め以子(杏)の夫の西門悠太郎(東出昌大)は、国の防空政策に逆らったことが原因で満州(現在の中国東北部)へ飛ばされ、また息子2人と娘婿は戦地に赴く。彼らは無事に帰ってこられるのか、気になる視聴者も多いことだろう。筆者としては、悠太郎はきっと戻ってくるものと信じている。東出君が好きだという落語家・古今亭志ん朝の父の古今亭志ん生も、戦争末期に決死の覚悟で慰問に出かけた満州から無事に帰ってきたのだから。

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NHKの連続テレビ小説「ごちそうさん」の今週火曜(3月4日)放送の第128回では、大阪大空襲のさなか、ヒロイン・め以子(杏)たちが地下鉄の心斎橋駅構内に逃げこみ、さらにはホームに入ってきた電車に乗ってより安全な梅田方面へ避難するという場面があった。そもそもめ以子が地下鉄駅に避難したのは、夫で大阪市職員として地下鉄建設にかかわった悠太郎(東出昌大)から渡された手紙に「地下鉄に逃げれば安全だ」と書かれていたからだ。

このエピソードは、実話にもとづくものである。1945年3月13日夜から翌日未明にかけての米軍による大阪大空襲(第1次)の際、街が火に包まれるなか、大阪市営地下鉄の心斎橋駅に避難してきた人々を救うべく、電車が梅田方面や天王寺方面へ運行されたというのだ。

もっとも、空襲下に地下鉄を走った救援電車について公式な記録は一切残っていない。というのも、戦時中の地下鉄は軍事輸送に使われることも多く、その運行ダイヤや職員の勤労内容などは「機密扱い」の対象であり、それら事業資料は戦争が終わると、アメリカをはじめ連合軍からの戦争責任の追及を恐れてすべて処分されてしまったからだ。これ以降、救援電車の話はあくまで噂レベルで、人づてに語られるにとどまっていた。

それがあらためて世間に注目されることになったのは1997年、「朝日新聞」に京都大学名誉教授の村松繁(免疫学。当時64歳)が空襲下での自らの体験を投書、掲載(3月11日付「声」欄)されたことがきっかけだった。

投書によれば、市街を周囲から中心へと渦巻き状に爆撃が続けられるなかで、退路を断たれた被災者の多くは中心部に逃げざるをえず、村松が心斎橋にたどり着いたときには周囲は完全に火の海であったという。そのとき地下鉄のシャッターが開き、村松たち被災者は駅員から「早く入りなさい」とホームに誘導され、ほどなくしてホームに入ってきた電車に乗り無事に梅田へ避難することができたのだった。村松は投書を、《あの大惨事に際して、当時の地下鉄関係者の冷静で適切な措置には、今もって感謝と敬服の念でいっぱいである》と結んでいる。

この投書に触発され、大阪市交通局の職員で組織される大阪交通労働組合は、地下鉄を含む市営交通が空襲で受けた影響について公営交通研究所に調査を依頼、経験者の証言や数少ない資料によって事実を解明することにした。同時に「毎日新聞」などを通じて情報を募った。

ライター情報

近藤正高

ライター。1976年生まれ。エキレビ!では歴史・科学からドラマ・アイドルまで手広く執筆。著書に『タモリと戦後ニッポン』(講談社現代新書)など。愛知県在住。

URL:Culture Vulture

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