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原作ファンも大丈夫。傑作小説『わたしを離さないで』の見事な移植ドラマがはじまる

2016年1月15日 09時50分

ライター情報:杉江松恋

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1954年に長崎で生まれたカズオ・イシグロは1960年、5歳のときに家族と共に渡英した。1980年に英国フェイバー社のアンソロジーに3作の短篇が採られ、作家としてデビュー、1982年には初の長篇『遠い山なみの光』を上梓した。作家活動の初期から賞には恵まれ、注目されていたイシグロだったが、第3長篇の『日の名残り』(1989年)ではついに英国文壇の最高峰ともいえるブッカー賞を獲得、その名声を不動のものとした。
『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ著、土屋政雄/ハヤカワepi文庫

2005年に第6長篇『わたしを離さないで』を発表すると、「タイム」誌が選出したオールタイムベスト100(1923〜2005年)に選ばれたほか各文学賞の最終候補作になるなど、その年いちばんの話題を振りまくことになった。同年のうちに邦訳され、翌2006年末には「このミステリーがすごい!」(海外部門10位)、「週刊文春ミステリーベスト10」(海外部門9位)のランキングでも上位に選ばれた。純文学のみならず、ミステリーなどのジャンル文学ファンからも強い支持を集めたのだ。垣根を越えて愛される物語となった。2010年にはマーク・ロマネク監督で映画化されており、日本国内では2014年に蜷川幸雄演出で舞台化も実現している。そちらをご覧になった読者も多いだろう。

その『わたしを離さないで』が、連続TVドラマとして放送される。人気作品の映像化、しかも英国を舞台として描かれている物語を現代日本に移した内容ということで不安を抱いている原作ファンも多いはずだ。
そういう方を代表して、ドラマ第1回を先に見させてもらった。結論から申し上げれば、原作ファンの期待を裏切らない内容である。ドラマ化ゆえのアレンジはある。小説の語りをそのまま映像へと写し取るのではなく制作者は、視点の変更と、日本の観客に向けての世界観の改変を行った。まだ第1回を観ただけの判断だが、その変更は吉であったと思う。

未読の方のために、原作の冒頭を少し紹介しておきたい。物語は「わたしの名前はキャシー・H」という文章で始まる。「介護人をもう十一年以上やっています」とキャシーは語る。ここで言う介護人とは一般的なものではなく、特殊なものであることがすぐにわかる。彼女はヘールシャムと呼ばれる施設の出身だ。そこは全寮制の教育施設で、日本で言う小学生から複数年にわたる学年の子供たちが一緒に暮らしている。キャシーの回想は最初、ある日の出来事に焦点を結ぶ。

ライター情報

杉江松恋

1968年生まれ。小説書評と東方Projectに命を賭けるフリーライター。あちこちに連載しています。

URL:Twitter:@from41tohomania

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