二度、三度と映画館に足を運ぶリピーターも増えてきた『シン・ゴジラ』。ネット上には熱心なファンによるネタバレ前提の情報提供や評論家たちによる読み解きが飛び交い続けている。


ところで現在発売されている『シン・ゴジラ』関連の雑誌や書籍にも多くの情報が記されていることも忘れちゃいけない。公開前に発売されたものは基本的に「ネタバレなし」なのだが、今あらためて読むと「なるほど」「そんなことがあったのか」と首肯する情報も多い。ここではその中でも特筆すべき3冊をピックアップして紹介してみたい(たぶんネタバレはありません)。
「シン・ゴジラ」竹野内豊語りまくる「精神がぶっ壊れるぐらいの人じゃないと、おそらく作れませんよ」

ビジュアルたっぷりの『シン・ゴジラWalker』


まずは、公開1週間前の7月22日に発売された『シン・ゴジラWalker』(KADOKAWA)。『東京ウォーカー』のようなカジュアルなガイド本かと思って書店のレジに持っていったら2600円もしたので驚いた。

大判で120ページの内容は『シン・ゴジラ』に関する記事が1/3程度で、残りはこれまでの『ゴジラ』シリーズのアーカイブ。とはいえ、単なる作品紹介にとどまらず、バラエティに富んだ独自企画がラインナップされている。


『シン・ゴジラ』関連記事としては、カラーグラビア(鎌倉に上陸するゴジラの勇姿&武蔵小杉でのタバ作戦の模様)、登場人物紹介、ゴジラの特徴を解説する記事、竹谷隆之造形によるシン・ゴジラ1号雛形、前田真宏によるゴジラのイメージデザイン画、林田裕至によるイメージボードなどが並ぶ。

前田真宏のイメージデザイン画はパンフレットにも収録されているが、こちらには頭部のアップや正面からのカットも収録。前田がインスパイアされたという原爆のキノコ雲をイメージした54年版『ゴジラ』の頭部ギニョールの写真も比較対象として並んでいる。林田裕至のイメージボードには、火砕流のような煙をまとったゴジラの姿も描かれており、ゴジラは天災の一種であるというイメージをスタッフが共有していたことを伺い知ることができる。

監督・特技監督の樋口真嗣インタビューでは、巧みに具体的な内容を避けながらも「現在の日本を舞台にした“大変なことが起きてる”映画を作りたかったんですよ」とズバリ。また、怪獣の魅力として「尻尾」を挙げ、「獣らしさだったり人間がどこかで失った遺伝子だったりを思い出す物で、人間はそれを見て圧倒されたりして、食い入るように見るわけですよ」と尻尾の魅力を説いている。
たしかに、住宅街の上空を尻尾が横切る予告編やゴジラの登場シーン、そして本編のラストカットを考えると、『シン・ゴジラ』は尻尾に始まり尻尾に終わる映画だと言うこともできる。

竹野内豊が語りまくる『シン・ゴジラ』


長谷川博己、竹野内豊、石原さとみによる鼎談では、それぞれの役柄についての話や撮影の裏話などが語られている。長谷川がレイ・ハリーハウゼンの特撮映画の大ファンとは初めて知った。本編(未完成版)のクライマックス部分を観た長谷川が、自ら演じた矢口蘭堂について「あ、矢口って本当は狂気の男なんだな」と感想を述べているところが興味深い。このくだりはもう少し詳しく聞いてみたいものだ。

米国大統領特使のカヨコ・アン・パタースンを演じた石原さとみには賛否両論あるようだが、「最初の本読み顔合わせの時に、彼女はセリフを全部(頭に)入れてきてたんですよ」(竹野内)というのだから、石原さとみ、ちょっと凄すぎるんじゃないの?

3人の中でもっとも発言がヒートアップしていたのは、冷徹な首相補佐官・赤坂を演じた竹野内豊。庵野秀明総監督について、「とにかく庵野さんの考えていることは奥が深すぎて。
そりゃ『エヴァ』で壊れもしますよ」とデリケートな話にさらっと触れると、「精神がぶっ壊れるぐらいの人じゃないと、おそらく『シン・ゴジラ』は作れませんよ」と追い打ちをかける。撮影現場で携帯ゲームをしている庵野総監督を見ても「庵野さんが自信をコントロールするために、そうやって調整されているんじゃないかな」と深読みしているのだが、庵野総監督は何のゲームをしていたんだろう?

ゴジラそのものについても竹野内は、「僕は、ゴジラっていう物体を、歴史の中のいろんなものに比喩してみることができたんですよ。それはここでは言ってはいけないのかな……」と一歩踏み込んだ発言。なお、パンフレットでのインタビューでは「(ゴジラが都市を破壊するシーンについて)敗戦国にしか描けない何かがある」とも語っている。

また、3人が異口同音で語っているのは「『シン・ゴジラ』は人間ドラマがすごい」ということ。人によって見方はそれぞれだと思うが、少なくとも役者たちは説明的な長セリフを言うだけの役を演じたつもりは毛頭ないということがよくわかる。
記事に添えられた、長谷川、竹野内、石原の3人がゴジラの真似をしている写真がチャーミング。

『シン・ゴジラ』以外の記事では、54年版、84年版、95年版(『ゴジラVSデストロイア』)のゴジラ東京上陸後の足取りをマップ化した「ゴジラ上陸ハザードマップ」が面白い。『シン・ゴジラ』のゴジラの足取りと比較してみるのも一興だろう。

大森一樹(『ゴジラVSビオランテ』『ゴジラVSキングギドラ』脚本・監督)と金子修介(『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』脚本・監督、平成『ガメラ』シリーズ監督)の対談では、両者が噛み合わない怪獣映画観を披露している。

大森一樹は「ゴジラって何のかんの言ったって、ファミリーピクチャーですから」と説き、『ゴジラ』シリーズを司った大プロデューサー、田中友幸の「大人しかわかんようじゃダメだし、子どもだけ喜んでもダメだ」という言葉を大切にしているのだという。会議シーンは「切れ、切れ」とプロデューサーらに言われていたというのだから、『シン・ゴジラ』がいかに初志貫徹、横紙破りな映画だったということがよくわかる。


一方、金子修介は「(怪獣映画は)リアルに見えなきゃダメだ」という考えの持ち主。『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』でゴジラが太平洋戦争で亡くなった死者の魂という設定だったことについては、「怪獣映画ってのは、戦争映画のメタファー」だから考えついたとのこと。映画に出てくる怪獣とは、元来、戦争や政治と強く結びついた存在だということを思い出させてくれる発言だ。
「シン・ゴジラ」竹野内豊語りまくる「精神がぶっ壊れるぐらいの人じゃないと、おそらく作れませんよ」

『シン・ゴジラ』情報も特濃!『特撮秘宝』Vol.4


2冊目は『別冊映画秘宝 特撮秘宝』Vol.4。さまざまなマニアの中でも最もうるさ型だと思われる熟年特撮ファンにして「濃すぎる」「バイブル」「特撮愛に満ちている」と言わしめる(Amazonレビューより)濃厚さを誇るシリーズ。珍奇なスチール満載、スタッフ・キャストへのインタビュー満載、A5判ながら280ページを超えるボリュームでありながら1500円とは原価率を疑うレベルの安さだ。

『シン・ゴジラ』特集では、竹谷隆之(キャラクターデザイン)、尾上克郎(准監督・特技統括)、林田裕至(美術)、桜井景一(B班撮影)、三池敏夫(特撮班美術)、岩谷造(自衛隊担当)、佐藤敦紀(VFXスーパーバイザー)、井上浩正(白組プロデューサー)のロングインタビューを収録。
こうやって並べるだけで凄いが、撮影に携わったスタッフにはいちいち使用したカメラの機種まで聞いているのだからかゆいところに手が届きすぎている。撮影にiPhoneが使われたことは知られているが、尾上によるとコブラのコックピットのシーンはほとんどがiPhoneによる撮影だったとか。10式戦車にはGoProをつけて撮影していたという。また、桜井によるとミニチュアの撮影でもiPhoneが活用されていたそう。AndroidのカメラじゃなくてiPhoneでないといけない理由は本誌を参照のこと。

竹谷隆之インタビューでは、庵野総監督から提示された54年版『ゴジラ』の資料を参考にして『シン・ゴジラ』のゴジラがデザインされたことが明らかにされている。特に、パンフレットでの前田真宏インタビューでも触れられていた「(ゴジラの頭部が)キノコ雲っぽく見えるイメージ」に関しては、竹谷もかなり意識して雛形を制作したという。

庵野総監督からのさまざまなアイデアを受け取った竹谷によるゴジラの解釈は「生物の身体が崩壊しながら再生しているという、グズグズした感じや痛々しさを感じられるような雰囲気を狙った造形」。完成した本編でのゴジラの様子を思い返してみると、竹谷の言っていることはよくわかる。

「なぜうちに石原さとみは来ないのだ」とボヤいた司令官


林田裕至インタビューでは、『シン・ゴジラ』の見どころの一つとも言える会議室が「すべてセット」だったと明かされている。どれも本物にしか見えなかった……。会議室の壁はすべて取り外し可能になっており、あらゆるアングルからカメラで撮影できるようになっていたとのこと。自在なカメラワークと小気味良い編集によって会議室シーンさえカッコ良く見えたのは、こうした美術の工夫があったからだ。また、予告編でも印象的に登場した倒壊した街に矢口が立ちすくんでいるカットは、空き地に組んだ実物大のセットに細かいガレキを敷き詰めたもので、奥の風景や大きいガレキ、残っている建物はすべてCGなのだという。

自衛隊担当の岩谷造インタビューでは、庵野総監督の脚本には自衛隊の装備が最初から全部書かれていたというエピソードや、戦車やヘリは実機をスキャニングしてCGにしたというエピソード、自衛隊の制服を作ったものの実際のものとは違ったので結局一式借りたというエピソードなどが語られているが、練馬駐屯地の司令が「うちにはなぜ(石原さとみが)来ないのだ」とボヤいていたというエピソードが心温まる。

また、スタッフインタビューを通して、『シン・ゴジラ』の制作においてはプリヴィズ(プレヴィジュアライゼーションの略。実際の映像を撮影する前に作成される絵コンテのような映像)の役割が非常に大きかったことがよくわかる。『シン・ゴジラ』のプリヴィズがどのように制作され、どのように使われていったのかは、本誌を読んでもらいたい。

『シン・ゴジラ』の特集記事のほかにも、『ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃』でミニラの声を演じていた内山みどりへのインタビューや、『キングコング対ゴジラ』で南の島の少年チキロ役を演じていた平野治男へのインタビュー、円谷プロでミニチュアセットを作るときに使う「石膏」を担当していた照井栄のインタビューなど、どうかしている記事が目白押し。繰り返すが1500円は安い。
「シン・ゴジラ」竹野内豊語りまくる「精神がぶっ壊れるぐらいの人じゃないと、おそらく作れませんよ」

ゴジラが蒲田の街を襲った理由とは? 『東京人』


3冊目は『シン・ゴジラ』特集ではないが、/「特撮と東京 1960年代」という特集を組んだ『東京人』8月号を挙げたい。こちらは7月2日発売で、すでに9月号が発売されているため、バックナンバーを取り扱っている書店かAmazonで入手されたし。

特集の内容は、1950~60年代の『ゴジラ』シリーズや『ウルトラマン』シリーズに登場する怪獣と東京の土地を紐付けていくというもの。たとえば、ゴジラは隅田川にかかっている勝鬨橋を破壊するが、背後で炎上する下町の風景は東京大空襲を模したものだったという。ほかにも下北沢の商店街を歩くカネゴン、銀座のデパートに現れたピグモンなどがスチールつきで紹介されている。

コラムニストの泉麻人、森ビルで巨大都市模型を作る矢部俊男、『シン・ゴジラ』監督の樋口真嗣の鼎談では、樋口が「新宿みたいに手垢がついていない街を選ぼう」という思いが強くあって蒲田を選んだというエピソードを披露している。最初は二子玉川にしようとしたが、実際に見に行ったところ二子玉川から見た川崎側がスカスカで絵にならず断念。次に北品川の旧東海道を考えたが、きれいになりすぎていてダメ。結局は樋口がよく飲みに行くという蒲田になったという。「もう蒲田に犠牲になってもらうしかないなと(笑)」(樋口)。

劇中で人々が避難する品川神社の富士塚は、実は撮影許可が降りずに、実際の撮影は市谷亀岡八幡宮で行ったとか。聖地巡礼の場合はどちらへ行くのが正解なんだろう? ゴジラ再上陸の場所となった鎌倉での撮影の際は、鎌倉在住の庵野総監督の張り切り具合が尋常ではなかったという。

また、泉の『キングコング対ゴジラ』で後楽園の丸ノ内線の車両が出てくるところ(後楽園で一瞬地上に現れる)をキングコングが襲うシーンが好きという発言を受けた樋口が、「怪獣映画には、鉄道が絶対に必要なんです」と力説するくだりも、公開後の今となっては重要なヒントだったんだなと思うことしきり。
「シン・ゴジラ」竹野内豊語りまくる「精神がぶっ壊れるぐらいの人じゃないと、おそらく作れませんよ」

ネットにはさまざまな情報が大量に飛び交っているが、それだけを読んですべてわかっていたようになっていてはいけない。こうやって書籍、ムック、雑誌を3冊ひもとくだけでも情報は大量に溢れ出してくれる。そして情報に触れれば触れるほど、もう一度劇場に行きたくなるのが『シン・ゴジラ』の持つ魔力だろう。これから発売される真打ち、庵野総監督へのインタビューだけで6万字から7万字あるという大著『ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ』を楽しみに待ちたいと思う。
(大山くまお)