松本人志による芸人たちの笑わせあいバトル『HITOSHI MATSUMOTO Presentsドキュメンタル』が、11月30日にAmazonプライムビデオで公開された。

密室のなかの「無法地帯」
松本人志からの招待を受け、100万円を払って参加したのは宮川大輔、FUJIWARA藤本、野性爆弾くっきー、東京ダイナマイト ハチミツ二郎、とろサーモン久保田、トレンディエンジェル斎藤、マテンロウ アントニー、天竺鼠 川原、ダイノジ大地、ジミー大西の10名。
参加費100万円は自腹のため、あまりの高額に招待を断る芸人もいるなか、ダイノジ大地は嫁に頼み込み、野性爆弾くっきーは吉本ファイナンスから全額を借金し、アントニーは先輩のバイク川崎バイクに50万円を借りた。最後の1人に残らないと、100万円は全てパーになる。
10人が呼び出されたのは巨大なリビングのセット。四方が壁で覆われ、観客はおろかスタッフの姿も無い「密室」。制限時間は6時間。衣装や小道具の持ち込みも可能で、相手を笑わせるなら何をしてもいい。笑ったかどうかは松本人志が別室のモニタで監視しており、レッドカードを受けた者は即退場だ。
こうした「笑わせたら勝ち対決」はこれまでもいくつか存在するが、『ドキュメンタル』が他と一線を画すのは「10人が自由に過ごす」点にある。相手を笑わせる強烈なボケに対し、FUJIWARA藤本やハチミツ二郎などの「ツッコミ」でも十分戦えるルールなのだ。
ボケなくても勝てます
多くの「笑わせたら勝ち対決」は、「笑わせる人」と「我慢する人」がはっきり別れている。『オモバカ』はリングの上で交互に笑わせあった。
『ドキュメンタル』の場合、芸人10人が同じリビングで自由に過ごしている。いつ何を仕掛けてもいいので、誰もがいつでも「笑わせる人」と「我慢する人」になりうる。ここにさらに登場するのが「ツッコむ人」という第3の勢力だ。
例えば、芸人Aが芸人Bを笑わせようとして滑ったとする。その状況を芸人Cが上手くツッコめば、ABもろとも笑わせて勝つこともできる。笑わせるツッコミがあれば、ボケを仕掛けなくても勝てるのだ。事実、スタート前の段階でFUJIWARA藤本は周囲の芸人に事細かにツッコミを入れ「(笑っちゃうから)やめてくださいよ!」と遮られていた。
「もしかしたらこれが1番シンプルで、ホントに『一番面白いやつ』を決めるには適しているのかもしれない」と松本は言う。作り込んだネタでもない、磨き上げたトークでもない、地肩の強さがものを言う戦い。自由度が高いからこそ、その場で何ができるかが試される。
「テレビでは間違いなく視聴率取れない」
さて、松本人志と「笑ったら負け」といえば、真っ先に思い浮かぶのが年末恒例の『笑ってはいけない』シリーズ(日本テレビ系列)だ。
「『笑ってはいけない』ってのを年末に毎年やってて。あれはホントにショーとして、エンターテインメント性が非常に高く……良くも悪くもなってしまって」
「(今回は)無駄な部分を一切削ぎ落とした、なんもないけどちょっとした瞬間に笑ってしまうというのを、なんかやってみたいなと」
毎回ド派手な仕掛けと豪華ゲストで笑わせる『笑ってはいけない』シリーズに対し、芸人10人が密室のなかでひたすら笑わせあう『ドキュメンタル』。作り込まれたエンターテインメントとは真逆の企画であり、松本自身も「テレビでは間違いなく視聴率取れないでしょうね」と自覚している。そこで選ばれたのがAmazonプライムだった。『ドキュメンタル』はAmazonプライムのオリジナルコンテンツなのだ。
「本当に好きな人は、のめり込むように見てもらえるんじゃないかと。そういう意味ではこれくらいのターゲットに絞り込む感じでね。やっぱりAmazonってそんな簡単に観れないでしょ?その……ジジイにはなかなかできないでしょ?」
ターゲットを絞り、自分がやりたいことを表現する場としてネット動画配信サービスを選んだ松本人志。それはかつてコント集『HITOSHI MATUMOTO VISUALBUM』をVHSビデオでリリースした姿とも重なる。テレビのしがらみから自由になった松本人志が、これから何を見せてくれるか楽しみだ。
『HITOSHI MATSUMOTO Presentsドキュメンタル』は全4話のシリーズ。
(井上マサキ)