「西村さんはシャボンのいいにおいがするんです」
「それ風俗だよ!」


大森望と豊崎由美が文学賞を批評していく『文学賞メッタ斬り!』シリーズ(杉江松恋レビューを書いているので、詳しくはそちらを参照!)。
8月14日(火)、シリーズ最新作『文学賞メッタ斬り! ファイナル』の刊行を記念して、「最初で最後の『文学賞メッタ斬り!』ナイト!!」が新宿ロフトプラスワンで開催された。


大森望豊崎由美、そして編集者としていつもふたりを陰ながら支えてきたアライユキコが登壇。

『文学賞メッタ斬り! ファイナル』は、帯にある「さらば、石原慎太郎」のとおり、石原慎太郎特集が組まれている。
イベントスタート時の挨拶も。
「石原慎太郎に乾杯!」だ。
おれは、文学賞については全然知らないので、石原慎太郎がいままでなにをやってきたのか、大森、豊崎となんの因縁があるのかもわからない。95年から芥川賞選考委員を勤めてきたんだけど、前回の選考会でなんか怒ったとか切れたとかで、石原、選考委員をやめちゃったってよ。


1部では、2003年からはじまったメッタ斬りの歴史を振り返る。
豊崎が飲み会で「今回の芥川賞は〜、直木賞は〜」とクソミソに言っていたのをいつも聞いていたアライが「これはちゃんとまとめたら面白いのではないか」と企画、相方として豊崎が大森を誘ったそうだ。

メッタ斬りは流浪の番組(?)だ。
「アライさんがケンカして別の場所にうつったんだよね」
「いつもそれにくっついて行っているんだよ〜」
と、大森と豊崎が声を揃えて言う。
まず、エキサイトブックスでスタートし、日経BPへうつり、最終的にパルコに落ち着く(現在はラジオ日本「ラジカントロプス2.0」)。
おれも、アライさん(いまは和解してエキサイトレビューを仕切っている by大森)がいろいろなところとケンカしているのはよく見ているので、「あ〜……」とひとりうなづきながら話を聞いていた。
あ、殺気を感じるのでこの話はもうやめとこう。


2部からは、2011年1月にそれぞれ芥川賞、直木賞を受賞した朝吹真理子(『きことわ』)、道尾秀介『月と蟹』)が登場。
文学賞のことをまったく知らないおれでも、この回のことはさすがに覚えている。
受賞の報告を受けたときになにをしていたか聞かれた西村賢太が「自宅でそろそろ風俗に行こうかなと思っていたんですが」と答えた。このシーンのキャプ画像はネットにもかなり出回っていて、毎日どこかしこで見ていた。
第144回芥川、直木賞は西村賢太がすべて持っていった。

「これ作ってきたんですよー」
この日のために、道尾秀介は「西村賢太被害者の会」と書かれた特注たすきを朝吹の分までつくって持ってきていた。
豊崎はふたりを「西村賢太被害者の会です!」と紹介。そうか、このふたりはせっかく受賞したのに、西村賢太があまりに目立ってしまったから、割りを食ってしまったということなのか。

もう一度受賞記者会見を行えるならどうする? という問いに、道尾は答える。
「もっと目立つことをすればよかったかな。僕たちの次の受賞者に田中慎弥さんがいて、どのチャンネルつけても田中さんしか映らないし、『共喰い』だけが売れる。
ツイッターでもらった案に、裸で桶をふたつ持って交互に股間を隠しながら登場すればとあって。それやれば、部数も5倍になったかも」
「100倍くらいになったかもしれないですよー。かわりに大きな何かを失うでしょうけど(笑)」と、豊崎がつっこむ。

会場のモニタで、当時の受賞記者会見を流しながら思い出を語っていくふたり。だけど、モニタに西村賢太映像が流れるたびに会場は大笑い(リンク参照)。もう、どうしたって賢太(豊崎さんがうれしそうに賢太賢太いうので、俺もつい名前で呼んでしまう)の話にならざるを得ない。


「朝吹さんと賢太が結婚したら面白いよねって無責任に話してるけど、可能性はゼロ?」
豊崎が聞く。
「西村さんのことは好きですよ」「朝吹さん、(対談企画で)西村さんが面白いことを言ったときにボディタッチしてるよね。あれやめたほうがいいよ(笑)」
注意する道尾。
「面白いって言ったほうがいいです。好きはヤバイ」
豊崎も真剣な表情だ。「賢太の新作のヒロインの名前が真理子になっちゃうよ」
朝吹が賢太を好きな理由のひとつは、いつもシャボンの清潔なにおいがするからだそうだ。
冒頭の会話はそれ。道尾、大森、豊崎全員がそれは風俗帰りだからだろうと瞬時に突っ込んだ。


これこそがいつものメッタ斬りなのかなと思った場面があった。
朝吹が尊敬している書き手として、川上弘美の名前を出したときのことだ。
「川上さんは(朝吹さんの)お父様と一緒に詩の同人誌をやっていますよね。川上さんから同人誌を何冊も送ってもらったことがわたしの自慢のひとつで……」
と豊崎が語りだすと、間髪入れずに大森。
「川上弘美は19歳のときから会っていてね」
「大森さんは会ってるだけでしょ。私は川上さんが好きな人しかいない〈川上弘美が好きな人星〉に住んでいるんです。そこに入れてもらっていることが、生きるよすがになっているの」
「まあ、山田弘美のころから読んでいるから」
「わたしもサンリオSF文庫で書いている解説を読んでます!」
ゲストふたりをそっちのけで張り合い出し、「川上弘美は俺のものだ合戦」をはじめる大森と豊崎。ああ、こうやってメッタ斬りはつくられているんだろうなあ。


現在新作の執筆中だけど、書いては消しの繰り返しで先に進まないという朝吹への道尾からのアドバイスでイベントは締められた。
「句読点って人に見せるためのものでしょ。一度、句読点を打たないで落書きしてみたら面白いと思うよ。改行の箇所も適当に、ワーって。寝て起きると頭がクリアになるから、翌日読みなおしてそれを文章にするとすごく面白いものができることがある」
「おかゆのまま?」と朝吹。
「そうそう」
炊き上がる前のまま出しておけということらしい。
なるほど、おれも勉強になった。書いたあとに少し置いておいて、読みなおすというのは、以前米光一成からも聞いたことがある。ただ、これはかなり締め切りの余裕がある状態じゃないと出来ないんだよねえ。


会場では、「社長のメッタ刺し!セット」「メッタ斬り!焼きそば(辛口)」「腹黒大森丼」など限定メニューも出ていた(リンク参照)。せっかくなのでメッタ刺しを注文。たこ焼きや磯辺揚げなどが串に刺さっている。味も濃くておいしい。

打ち上げで、豊崎さんにメッタ刺しのネタ元はなにか聞いてみた。
「ああ、あれね。磯辺揚げが渡辺淳一のチンコで、たこ焼きが石原慎太郎のキンタマ」
(加藤レイズナ)