日本の就活が非効率なのは、合コンで出会いが無いのと仕組みは同じ【勝部元気のウェブ時評】


3月1日、2018年卒の就職活動が解禁しました。エントリーを行う一部のサイトがアクセス集中でダウンする等、早速就活生による激しい戦いが始まっているようです。


ですが、このような日本の就活シーンは大変異様な光景だと感じている人も、かなり多いのではないでしょうか? 

悪いのは青田刈りではなく採用の仕方


まず、私が疑問に感じていることは、解禁日を設けて一斉スタートをすることです。ボジョレー・ヌーヴォーも日本人の消費がかなりの割合を占めていると言われますが、どうも日本人は「みんな一斉に解禁」が好きな傾向にあると感じています。

確かに青田刈りを防止するためで、「青田刈りが横行すれば大学生が大学の勉強に集中できなくなるから」という理由から導入している主旨はよく分かります。ただし、それは大学の勉強に集中できなくなるような採用の仕組みに問題があるわけであって、決して青田刈りそのものが悪いわけではないと思うのです。

集中できなくなる仕組みの最大の要因は「メンバーシップ型採用」でしょう。採用には仕事ありきでそれに見合ったスキルを持つ人を採用する「ジョブ型」と、自社にふさわしい人を採用してから適当な職務を割り当てる「メンバーシップ型」の2種類があると言われていますが、「新卒一括採用」の形態を取る日本の企業は典型的なメンバーシップ採用です。

企業側は見知らぬ学生を「自社のメンバーとして相応しいか」という視点で隅々までチェックするために、様々な選考方法や選考基準を取り入れて、何度も何度も面接を重ねて、人となり等を判断して行くことになります。
だからジョブ型以上に採用に多くの時間を要することになるのです。

学生側はさらに大変で、このようなプロセスをたくさん踏まなくてはなりません。ジョブ型と違って相手が求めているものが不明確ですから、「自分が合っている会社はこれだ!」と判断がつかず、とりあえず片っ端から数何百社も情報を収集して、何十社も応募することになるわけです。これではかなりのコストが発生し、授業の多い3年生以前では学業を脅かすことは明白でしょう。


新卒採用は合コンでの恋人探しに近い


このメンバーシップ型新卒一括採用の非効率さは、たとえるならば合コンで恋人を見つけるようなものだと思います。2つが重なるポイントは、「お互いが相手に対して情報不足の状態にあること」で、とりわけ「お互いが相手に求めるものが不明瞭になりがちなこと」です。

たとえば、「とにかく可愛い人ならば他はさほどこだわらない!」という男性が合コンで彼女を探すことは、人にもよるでしょうが、さほど難しくありません。
それは相手に求めているものが少なく、かつすぐに判別のつくことだからです。

ところが多くの人はそうは行かず、相手に求めるものが複数あり、それゆえパートナー探しは難航します。何回も合コンを重ねてたくさんの人と会い、合いそうかもしれないと思った人は後日デートをしてみて、それでようやくマッチする人が見つかるかどうか、というのが合コンでの恋人探しの流れでしょう。大変長く非常にコストのかかる選考過程ですね。

ですから、合コンの場でも判断がつくようなこと(外見やその場の振る舞い)しか求めていないような人を除いて、基本的に恋人が欲しい人は合コンで探すことは非常に不向きだと言えます。採用に関しても同様で、求めているものが明確なジョブ型と不明確なメンバーシップ型では、必要な時間にかなり差が出るわけです。



「半径5m」から始めるメリット


では、合コンではない場でどのようにして恋人を見つけるかといえば、最もオーソドックスなケースは周りから探すことでしょう。自分の生活の半径5mにいるような、職場やサークルや友人の友人等、既にある程度接点があって、人となりがある程度把握できた状態で恋人に発展していくわけですから、「情報収集のコスト」が合コンよりも圧倒的に低い。

また、自分の生活の半径5m内にいる人というのは、収入や育った環境が近しい人も多く、半径5m外にいる人に比べて圧倒的に価値観がマッチする確率は高いと言えますから、余計な情報収集はする必要が無いわけです。

これは採用においても同様で、ジョブ型採用がメインの国々では、リクルーター(人事から要請を受けて出身大学の就活生にアプローチ・面談を行う人)が日本以上に活躍しているケースもあり、これが「情報収集のコスト」を下げる効果があります(実際日本でも外資系中心に取り入れられている)。

日本以外の国には合コンもあまり無いと言われていますが、新卒一括採用と合コンという2つの非効率的な「相手選び」がどちらも日本に根付いてしまっているのは、悪い意味で2つに通じるところがあるからではないかと思うのです。

就活が激しくなるほど金太郎飴化が進む


また、選ぶ側が減点方式で見ているところも、日本の新卒一括採用と合コンの共通だと思います。そして何が減点されるか分からないために、選ばれる側は「無難な方向にしておかなければ…」と考えがちになるのも致し方ありません。その結果が、全員金太郎飴のような黒のスーツというわけです。


さらに女性はこれに加えて、「就活メイク」等も事実上要求されます。また、決められているわけではないですが、ヒールは何cmまでが好ましいか等のことまで気にしなくてはならないわけです。「合コンで(マジョリティーの)男性ウケのコーデはこれ!」と謳ってひたすら減点しないようなコーディネートを押し付ける雑誌のキャッチコピーと大差無いことがおわかり頂けたでしょうか?

なお、ちょっと昔の就活では様々な色のスーツを着る等、もう少しコーディネートの自由があったとのことですが、当時は今ほど何十社も受けるようなことも無かったわけです。つまり、就活における「合コン的要素」が少なかったからという面が大きいと思います。



不採用を通知された就活生に伝えたいこと


最後に、就活生に伝えたいことは、「以上のように、日本の採用の仕組みは合コンのようなものだから、不採用通知をたくさんもらっても、全く気にしなく良いんだ!」ということです。どんなに素晴らしい人でも合コンですぐ恋人が見つからないのと同様に、仕組み自体に問題があるわけですから、マッチする会社が簡単に見つからないのも当然です。


なので、難しいとは思うのですが、不採用になったとしても決して自分自身を責めるということはしないで欲しいのです。

確かに内定をどんどん獲得していく人も一部にはいます。もちろん実力という人もいるでしょうけれども、「さほど実力に差が無いはずなのに」と感じるのであれば、彼は合コンだけやたらモテる「合コンマスター」ではないでしょうか? 

合コンマスター的に企業にモテる方法を極めるというのも一つの選択肢かもしれませんが、自分に合った会社とマッチするためには、それは必ずしも必須ではありません。恋愛も勝ち負けはなく、結局は合うか合わないかですが、就職も同じです。決して自分を見失わずにいて欲しいと思います。

そして強制はしないですが、無事就職をしたあかつきには仕事の「実務スキル」をたくさん身に着けて、どうか日本社会の成熟の足を引っ張っているこの「メンバーシップ採用」という悪弊に変革をもたらすリーダーに育って欲しいと心から願うばかりです。

(勝部元気)