「千客万来施設」だけじゃない豊洲市場問題 臨海エリア全体に影響も
開業の見通しが立たない豊洲市場(青果門)

混迷を深める豊洲市場問題にまた新たな火種が生まれた。
豊洲市場に設けられる予定の観光施設「千客万来施設」の運営主体である「万葉倶楽部」(神奈川県小田原市)が、運営から撤退する方針を明らかにしたのだ。


そもそも、この「千客万来施設」とは一体どういったものなのか。
「千客万来施設」だけじゃない豊洲市場問題 臨海エリア全体に影響も
「千客万来施設」予定地(豊洲市場5街区)。奥に見えるのは豊洲市場「青果棟」


「商業施設・温泉・ホテル」で構成される大型観光施設


「千客万来施設」は、簡単に説明すると現在の築地場外市場のような物販・飲食機能に加えて、温浴・宿泊施設も備えた大型の複合商業・観光施設だ。
東京都の公募の結果、当初は「喜代村」(「すしざんまい」運営企業)と「大和ハウス工業」により運営される予定であったが、条件が折り合わなかったとしていずれも2015年に撤退。再公募の末、2016年3月に、全国で温浴施設を運営する「万葉倶楽部」の運営となることが決まっていた。
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豊洲市場概略図
「千客万来施設」だけじゃない豊洲市場問題 臨海エリア全体に影響も
「千客万来施設」(豊洲市場6街区)完成予想図(東京都中央卸売市場プレスリリースより)。
概略図中の「環状二号線」の文字がある辺りから見たかたちと思われる。


万葉倶楽部では、千客万来施設の運営コンセプトを「豊洲江戸前市場」と定めており、施設は「商業ゾーン」と「温泉・ホテルゾーン」の2つに大きく分かれる。
そのうち「商業ゾーン」(地上3階/地下2階)には江戸の街並みを再現した飲食街と物販施設(合わせて200店舗前後の規模)、そして「温泉・ホテルゾーン」(地上10階/地下2階)には24時間営業の温浴・宿泊の機能を兼ね備えた建物を新築する予定で、国内外から年間193万人の来場者を見込んでいた。
「千客万来施設」だけじゃない豊洲市場問題 臨海エリア全体に影響も
「商業ゾーン」館内。江戸の街並みが再現されたオープンモールも設置される計画(東京都中央卸売市場プレスリリースより)
「千客万来施設」だけじゃない豊洲市場問題 臨海エリア全体に影響も
「温泉・ホテルゾーン」の屋上には晴海埠頭や東京タワーを望む足湯が設けられる予定だった(東京都中央卸売市場プレスリリースより)


「築地にも同様の施設を」「補償は行わない」都との対立も


これほどの大型計画でありながら万葉倶楽部が撤退を決めた理由は、言うまでもなく「豊洲市場の開業時期が明示されない」こと。さらに大きな要因として、小池知事が豊洲に移転したあと築地を「食のテーマパーク」として再開発する基本方針を示したため、築地と豊洲に同様の施設ができれば互いに客を奪い合うことになり事業の前提条件が崩れたことを挙げている。


また、千客万来施設の地下には大型駐車場が設けられることになっていたが、都側はいわゆる「土壌汚染問題」が解決するまで地下工事の中止を求めていた。千客万来施設には物販機能も備えられているため、大規模小売店舗立地法に基づく開業許可が必要だが、原則として店舗の規模に応じて必要な駐車台数を確保しないと開業許可が下りない。もともと万葉倶楽部は商業施設部分の先行開業を予定していたというが、土壌汚染問題の推移によっては予定されていた駐車場台数を確保することができず、開業さえ危ぶまれる可能性があった。

万葉倶楽部は都に対して説明を求めてきたが明確な回答が得られず、さらに都からの補償が受けられる見込みもないとして、同社の高橋弘会長がFacebookで「都の担当者は正式に契約してないから一切保証など知らないと言ってうそぶいて居る(中略)ああいやんなっちゃった驚いた」と苦言を呈する事態となっていた。
現在、豊洲市場本体の工事がほぼ終了しているのに対し、千客万来施設は運営者再公募の時点で開業が延期されたうえ、豊洲市場の供用開始延期により工事着工も再延期されており、更地のままとなっている。

環状2号線もBRTも延期…先の見えない市場問題、臨海エリア全体に影響も


築地市場の移転・豊洲市場の開業延期に伴うかたちで延期となっている事業は「千客万来施設」だけではない。

築地市場の移転延期により、一部区間が築地市場内を通る環状2号線(汐留―豊洲新市場間)の開通が延期されているほか、同区間を運行する予定であった虎の門・新橋と東京臨海部(晴海・豊洲・有明方面)を結ぶ新たな交通機関である「バス高速輸送システム」(BRT)の新会社設立が延期されることも決まっている。
BRTは連接バスや燃料電池バスなどを用いて運行されるもので、2019年頃の開通を目指していた。開通後は通勤・通学の足として、そしてコミックマーケットなど東京ビッグサイトでのイベント輸送や2020年の東京オリンピック輸送にも活躍。将来的には需要を見て一部区間でのLRT運行なども検討するとしていたが、予定通りに運行を開始できるかは不透明な状況となっている。
「千客万来施設」だけじゃない豊洲市場問題 臨海エリア全体に影響も
築地市場内を通る予定の環状2号線。
BRTは手前の虎の門・新橋方面と臨海部(晴海・豊洲・有明方面)を結ぶ地域の足にもなる予定だった


環状2号線やBRTについては、タワーマンションが多い晴海や月島の住人からも早期の開通を求める声が大きい。このまま築地市場の移転・豊洲市場の開場時期が決まらなければ、東京オリンピックの関連施設整備や選手・観客輸送のみならず、東京臨海エリア全体の開発にも大きな影響を及ぼすことは必至だ。

あらゆるところに影を落とす市場移転問題。小池知事は、豊洲市場の開場時期について早くても「2018年5月以降」としているが、詳しい時期については現時点では未定のまま。
落としどころが見えないまま完成後はじめての夏を迎えた豊洲市場の植栽には、夏草が元気に生い茂っていた。
(都市商業研究所)