なぜ僕は「年収偏差値チェッカー」を作ったのか 「年収」にまつわる日本の歪んだ常識

スマダン読者のみなさんこんにちは。
いつも「メンヘラ.men's」を連載させて頂いているわかり手です。

突然ですが、最近、「年収偏差値チェッカー」http://nenshuhensachi.com/)というサービスをローンチしました。

なぜ僕は「年収偏差値チェッカー」を作ったのか 「年収」にまつわる日本の歪んだ常識
「年収偏差値チェッカー」よりキャプチャ


思いつきで作ったプロダクトだったのですが、ローンチ1週間で130万PVを獲得、Twitterトレンドの2位にまで浮上するなど、作成者の自分の予想を超えるバズを引き起こしております。
なぜ僕は「年収偏差値チェッカー」を作ったのか 「年収」にまつわる日本の歪んだ常識



本稿では、この「年収偏差値チェッカー」作成にまつわる裏話と言いますが、なぜ僕はこんなサービスを作るに至ったのか、というお話をさせていただければと思います。

さてさて、突然ですがみなさん、ご自分の年収って「上中下」で言うとどんな感じだと思いますか?

「上の上!」と即答できるようなハイスペックエリートビジネスマンの方も読者の方には多いと思いますが、大半のひとは「中の中」もしくは「中の下」あたりの解答に収束するのではないでしょうか。

そもそも、「ふつうの年収」がわかりにくいですよね。

あるひとは「年齢×15万円はもらってて当たり前」なんて言いますし、「氷河期世代なら300万円もらえてれば御の字」みたいなお話もありますし、「○○県なら手取り20万円あれば勝ち組」みたいな地方独自の年収観もあることでしょう。

「ふつうの年収」ってなんだ?

自分の年収は「ふつう」なのか?


こんな問いについて、みなさんも、一度は悩んだことがあるのではないでしょうか。


「ふつうの年収」を考える上での様々な困難


年収に関する話題は、極めて無責任かつ属性を考慮しない考え方が流布しています。

例えば「年収500万円ないと結婚できない!」的な煽り記事、大手メディアを中心によく見ますよね。

でも「年収500万」の意味は、24歳で島根県に住んでいる男性と、37歳で東京都に住んでいる女性では全く異なります。なぜならそれぞれの地域・年齢・性別で「ふつうの年収」の意味が全く異なるからです。

例えば、まずは「地域」に関する差異で考えてみましょう。厚生労働省が出している平成28年度版の「年賃金構造基本統計調査」によれば、全国の平均賃金が30万4000円なのに対し、東京都の平均賃金は37万3100円。しかし例えば宮崎県の平均賃金は23万4600円です。

宮崎県と東京都を比べると、平均賃金に約1.6倍もの格差があることがわかります。これでは宮崎県の「ふつうの年収」と東京都の「ふつうの年収」を比べることはとても不可能です。

次に、年齢差と性別差について考えてみましょう。以下は国税庁による平成27年度版「民間給与実態統計調査」のグラフです。

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年齢、性別によって給与平均は最大で3倍以上も違うことがわかります。

地域、年齢、性別によって「ふつうの年収」はこれだけ違う。そんな中で、自分の年収が「ふつう」であるのか、それとも中の下なのか、上の上なのか、判断することは極めて難しいと言えるでしょう。


「ふつう」を考えるためのモノサシを作りたかった


さて、それでは私たちは自分の収入についてどのように判断すればいいのでしょう。どのように考えれば自分の年収が「ふつう」なのかそうでないのかを判断できるのでしょう。

こういう時、役に立つのが「偏差値」という概念です。

「偏差値」とはある一定の母集団の中で自分がどのくらいの位置を占めているのかを表す指標です。受験などで、この偏差値の上がり下がりに一喜一憂した方も多いのではないでしょうか。日本人にとって馴染みの深い数値と言えると思います。

ここまでは「地域」「年齢」「性別」ごとに「ふつうの年収」がバラバラなので、自分の年収が「ふつう」であるのかそうでないのかを判断するのは極めて難しいというお話をしてきました。

であるならば、自分と同じ母集団──自分と同じ地域、同じ年齢、同じ性別──の中での自分の年収の偏差値を知れば、自分の年収が「ふつう」であるのか否かについて判断することができるということです。

自分が「ふつう」なのかどうか知りたい。

そして全国のあらゆる年齢の男女が、年収について誤った認識を持つ現状をなんとかしたい。

あらゆる人間が、年収に関する認知の歪みを正す機会がなければ、雇用や婚活にまつわる今の混乱した状況は、永遠にこのままなんじゃないだろうか。

そんな思いから作成したのがこの「年収偏差値チェッカー」(http://nenshuhensachi.com/)というサイトでした。


年収偏差値チェッカーを使って、「年収」に関する認知の歪みを解消する


それでは実際に「年収偏差値チェッカー」を使って、「年収」に関する認知の歪みについて考えてみましょう。

今回は「年収300万円は普通か、普通以下か」というテーマを設定してみます。

まずは、東京に住む35歳男性の場合を考えてみます。

この場合だと、年収偏差値チェッカー上では母集団は「東京都在住、男性、35-39歳」となります。この数字を入力して、年収偏差値を算出してみましょう。

以下が、実際の結果画面です。

なぜ僕は「年収偏差値チェッカー」を作ったのか 「年収」にまつわる日本の歪んだ常識



「東京都在住、男性、35-39歳」の母集団のとき、年収偏差値は41.82となります。偏差値の平均は50ですので、これは「普通より下」という結果です。


それでは今度は母集団を変えて、「宮崎県、女性、25-29歳」の場合をチェックしてみます。当然年収は300万円のままです。

なぜ僕は「年収偏差値チェッカー」を作ったのか 「年収」にまつわる日本の歪んだ常識


この場合、出てくる偏差値は51.04。なんと平均以上です。しかも、偏差値も10近くも上昇しています。

このように、「年収300万円は普通か否か」は、「地域」「年齢」「性別」といったバックグラウンドを考慮しなければ全くわからないわけです。

地域、年齢、性別での賃金格差がある以上、これらを視野に入れない年収論は、とても正鵠を射たものにはならないでしょう。

しかし、今の日本の「年収」をめぐる議論は、このような考慮がなされているとはとても言い難い状況です。特に大手メディアが東京に集中しているからか、年収の地域性という観点がすっぽり抜け落ちた年収論を多く目にします。

これは、日本の未来を考える上で、あまりよくないことなのではないかと自分は思います。


年収について考えるとき、気にしなければいけない2つの指標


今まで見てきたように、ある年収が適正なものなのか、平均より高いものなのか、平均より低いものなのかは、母集団と比較して判断しなければ正確な答えは見つかりません。

しかし、多くのひとが母集団を考慮せず、金額だけを見て判断を下しているのが現状だと言えます。

婚活や転職など、人生の大きな節目になるイベントでは「年収」について考えなければならない場面も多く出てくるはずです。しかし、母集団──「地域」「年齢」「性別」──を考慮せず年収について考えれば、例えば、あまりに高い(低い)目標を設定してしまうなどの、賢明でない判断を多く下してしまうはずです。

「年収」について考えるなら「母集団」と「偏差値」を考えよう。

そんなメッセージを末尾に添えて、本稿の〆とさせて頂きます。
(小山晃弘)


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