いま、福岡県内のレンタルビデオ店で爆発的ヒットとなっている『許されざる者』というビデオがある。これは今から4年前、福岡県警が指定暴力団撲滅のために自主制作したドラマ仕立ての啓蒙映像作品で、制作期間2カ月、制作費30万円、家庭用ビデオカメラを片手に撮影から編集まですべて自分たちで行い、総勢30名の出演者はすべて現役の警察官と警察職員だというから驚きだ。

 映画の内容は、懲役刑を終えて刑務所から出所した暴力団員・奥村が、幹部組員からある人物の襲撃を指示され、発砲事件を起こすも失敗。流れ弾が近所の住人にあたり、大ケガをさせてしまう。逮捕された奥村は暴力団組織との関係を頑なに否認するも、唯一の家族である妹とその婚約者を守るため、徐々に関与を認めていく、というもので、暴力団の悪質さや末端組員の過酷な生活、家族の苦悩を描いている。

 組織犯罪対策課の現職の警官たちが演じる幹部組員はホンモノ顔負けのド迫力。普段から暴力団と接しているだけあって、そのリアルさはハンパない。ドスの効いた脅し文句や暴力シーンなど、思わず目を覆いたくなるような過激なシーンも多数盛り込まれている。

 そもそもは、マンガやドラマなどで美化された暴力団のイメージに青少年が間違った憧れを抱かぬよう制作されたビデオで、県内の中学校や高校で上映しようとしていたものの、「子どもたちには刺激が強すぎる」「暴力団組員の子どもがいじめに遭う」とクレームが教育委員会に入り、お蔵入りになってしまっていた。

 福岡県は全国22の指定暴力団のうち、5つの暴力団があり、その数は全国一(2位は東京)。また、平成16年度から5年連続で発砲事件発生件数も全国一と、日本でも稀に見るデンジャラス地域なのだ。県警ではこの状況をなんとか打破しようと地道な取り組みを続け、ついに今年4月1日、全国初となる「暴力団排除条例」が施行された。

 この条例では、(1)事業者が暴力団員と商取引すること、(2)暴力団事務所に使用されることを知って不動産取引を行うこと、(3)学校等周辺区域における暴力団事務所の開設・運営することを禁止し、(4)暴力団を相手とする民事裁判への県の支援が強化され、(5)青少年が暴力団事件の被害に遭わないような教育が中学・高校で行われるよう、県が指導・支援するというもの。

 条例の施行を受け、現在このビデオは、福岡県内の150店舗のレンタルビデオ屋で無料レンタルされているが、どの店でも大人気でなかなか借りられない状況が続いているという。また、4年前は頓挫した中学・高校への配布も進んでおり、県内すべての公立中学・高校に配布する予定だという。

 ちなみにタイトルの『許されざる者』とは、組織への裏切り行為が決して許されない、ヤクザの世界の裏切り者のことを指す。素人が作った作品なので、作品としてのクオリティは何とも言えないが、福岡県警の本気度が伝わるこの作品。ポリスチャンネルで全編公開されているので、ぜひチェックしてもらいたい。
(取材・文=編集部)

ポリスチャンネル『許されざる者』
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制作・著作:福岡県警察/(財)福岡県暴力追放運動推進センター



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