現在までに刊行されたコミックス計5巻が累計発行部数200万部を超え、松田翔太主演の映画版も好評公開中の『イキガミ』(小学館)。ただ一方で、本作が、作家・星新一のショートショート『生活維持省』(『ボッコちゃん』新潮文庫)の剽窃に当たるのではないかという疑惑が生じ(記事参照)、ネットなどで「パクリか否か」という騒動を巻き起こしたのも記憶に新しい。

 主に問題となっているのは、両作に共通している"国家による無作為に選ばれた国民の殺害"という設定。『生活維持省』がこれをオチで明かしているのに対し、『イキガミ』では死亡を予告された人間のドラマに焦点を当てているという違いはあるのだが、確かに物語の根幹となっている設定が酷似していることは間違いない。この問題について、自身のHPでも詳細な検証を行っているミステリ作家の藤岡真氏は次のように語る。

「この2つの作品は、基本的にまったく似ていません。『生活維持省』は美しく平和な生活を維持するために国家が国民を間引いて人口を減らしているという話で、一方の『イキガミ』は星新一公式HPに掲載されている小学館の公式見解にもありますが、"余命24時間と宣告された若者が、死と向き合ってどう生きるのか"というドラマを描くものです。これって、いわゆるお涙頂戴の"難病モノ"と同じなんですよ。

このように全然違う話であるにもかかわらず、国家が個人を無作為に選んで殺害するという設定だけが酷似している。つまり"余命24時間"というシチュエーションを作りたいがために、『生活維持省』から"国家による無作為殺人"という設定を安易に持ってきたのではないかと。細かいことを挙げればキリがありませんが、特に必要性もないのに『生活維持省』と同じく死を告げる人物が主人公になっていることや、"国家繁栄維持法"という設定にまつわる数々の破綻や矛盾もそれを物語っています。そもそも国家繁栄維持法の"維持"とは、何を維持するためのものなのか。『イキガミ』で描かれる世界は、さまざまな問題を抱えた現代社会と何も変わりません。これも『生活維持省』が念頭にあったからではないかと思えるのです」

 ちなみに前述した小学館の公式見解によれば、『イキガミ』の作者・担当編集者共に、最近になるまで『生活維持省』を読んだことがないと主張し、似ているのはすべて偶然であるとしている。

これに対して藤岡氏は「小学館は2005年に日本文藝家協会から両作品が似ていると指摘され、そこで2作を比べてみたが問題ないと判断したということですが、それなら08年9月付の見解で"最近になるまで『生活維持省』を読んだことがない"とはどういうことなのでしょう。作者と担当編集者が、当該作品を読みもせずに似ていないと判断したんですかね」とチクリ。

 しかし──と藤岡氏は続ける。

「『イキガミ』に著作権侵害が成立するかといえば、これはしないだろうと思います。物語のアイデアや設定は、基本的に著作権で保護されるものではないからです。ただ、こうした態度は星新一が残した素晴らしい小説を冒涜していると思うし、またオリジナルを超えるものを描く自信がなければ、同じような設定を使うべきじゃないと考えます」

 星新一氏の次女で星作品の著作権を管理している星マリナ氏も、HPで「納得はできないが、これ以上の抗議はしない」と表明していることなどから、この問題もこのまま沈静化していくと思われる......。

はたして今回の騒動、星新一は草葉の陰で何を思うのだろうか?
(橋富政彦/「サイゾー」11月号より)



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