現在日本全国で性風俗に従事している女性は約30万人と言われています。キャバクラ嬢などのいわゆる「水商売」がタブー視されることは少なくなってきたものの、風俗嬢は、依然として周囲に打ち明けづらい職業です。

そういった職業だからこそ、困っていても相談できない――そんな風俗嬢のならではの悩みに対し、相談事業やセカンドキャリア支援を行っているのが、埼玉県越谷市に拠点を置く一般社団法人GrowAsPeople(以下GAP)。今回は、GAP代表の角間惇一郎さんに、夜の女の子たちのリアルな声や、今まさに現在直面している課題について伺ってきました。

風俗嬢たちに必要なのは、何でも話せる相談相手

――「性風俗産業に携わっている女性への支援活動」とは、具体的にはどんなことをしているのですか?

角間惇一郎さん(以下、角間):具体的な活動内容は、現役風俗嬢を対象にした相談事業とセカンドキャリア支援、そして社会に向けた情報発信です。性風俗に従事している女性の中でも、搾取や人身売買の結果としてではなく、本人の意思で性風俗産業に携わっている女性たちが対象です。今までの性風俗支援は、「搾取であるから、女性たちを救済すべきである」もしくは「本人たちはプロ意識を持っているのだから、職業として認められるべき」、というような性風俗の「是非論」に陥りがちだったのですが、私たちGAPは、事情はなんであれ、自分の意思で働いている現役風俗嬢の声に耳を傾けることで、それらのニーズに答えていくという活動をしています。

――現役風俗嬢の方が一番困っていることとは、何なのでしょうか?

角間:まず第一に「風俗嬢としての立場を周りに明かせない」ということです。

『王様の耳はロバの耳』の童話にもあるように、人というのはどこかにぶちまけたいという思いがありますが、風俗で働いている女性たちは、なかなか今の立場を外部に公表できません。家族や友人、パートナーにも理解されることが少なく、立場を明かそうものならとりあえず「やめろ」といわれる。社会に公開しようものなら、セクハラ対象にもなりうる。そんな中、現状は、風俗嬢が立場を明かして安全に相談できる相手は風俗店のスタッフや、スカウトマンに限られています。

意外と知られていない「風俗嬢」と「風俗店」の雇用関係

――風俗店のスタッフやスカウトマンが、彼女たちの一番の相談相手ということでしょうか?

角間:誤解が多いのですが、風俗店のスタッフからしてみると風俗嬢は「お客さん」で、「部下」ではありません。これは、風俗嬢の雇用形態に関係があります。

実はそもそも、風俗店で働いている女の子たちはお店側に雇用されているわけではないのです。国内の風俗産業のトレンドであるデリヘル(デリバリーヘルス)は現在、全国でおよそ1万7千店あって、そこに女性たちが登録する形になっているのですが、あくまでも「登録」であって、「雇用」ではありません。具体的に言うと、風俗嬢が源氏名でお店側と業務委任契約をし、お客さんからもらった費用のうち40から50パーセント程度を風俗嬢がお店側に対して「報酬」として支払っている形になっているんですよ。

――お店側の方が「立場が上」という訳ではないんですね。

角間:だから、お店側も気持ちよく働いてもらえるようできる限りのサポートをします。風俗嬢の方も、風俗で働いている前提で話ができるし、相談もできます。

互いの信頼関係が最重要です。また、風俗で働くということは大変な仕事です。身の安全も守らなければなりません。安全に働くために女性が自分自身を自己管理するだけではなく、スタッフの方もその責任を担っているのが日本の現状です。

しかし、実際には、風俗店のスタッフやスカウトマンというのも、社会からつまはじきにされてしまった方も散見されます。特に、土地の利権がからまないデリヘルはリストラ組とか、脱サラ組の人たち、ないしは中卒で他に雇用先がなかったような人たちが運営していることが多い。

だからこそ、女の子たちのしんどさを共感できるし、話も聞いてあげられる――だけれどもその一方で、具体的な解決方法を促すスキルは持っていないことも多いのです。例えば、弁護士が必要なケースや、親族・恋人・配偶者などからDVの被害 を受けている、というような場合の対応は、それなりの知識が必要です。

――なるほど。スタッフだけは解決してあげられない複雑な問題も多いという事ですね。

角間:また、風俗店側も少人数のスタッフで運営しているので「手が回らない」という現状もあります。一つのお店あたり平均30人の風俗嬢が在籍しており、大きいお店だと何百人という規模のところもあります。

このような状況を踏まえて、風俗嬢としての立場を安全に明かすことができ、複雑な状況にも対処可能な、ノウハウのある相談場所が必要だと考えました。それが私たちが運営するNPOなのです。

風俗嬢なら誰でも直面する「40歳の壁」

――「セカンドキャリア支援」を行っているとお聞きしましたが、実際にそういったニーズがあるということでしょうか?

角間:もう一つ、風俗嬢が最終的に直面することになる問題として「40歳の壁」というのがあります。これも誤解が多いので先にお話しすると、「性風俗は“女性の一発逆転のカード”である」「女性ならば誰でも性風俗で稼げる」などと思い込んでいる人もいますが、お店に所属して働くうえでは、容姿や体型、精神的な健康状態、そして年齢を考慮した選抜があるため、誰もが風俗嬢になれるわけではありません。

風俗産業というのは“個人の経験談”が独り歩きしやすい業界で、「90歳でも働いてる人、知ってるよ」だとか、「40歳はもう無理でしょう」など、様々な意見が独り歩きしがちですが、そもそも、選ぶ側が存在している以上、年齢が高めの人からの応募は、電話やメールで問い合わせが来た時点で落とすことが多いのが実状。現在風俗嬢として働く女性も、実際に稼げるのは40歳くらいまでです。

これは、やはり加齢とともに風俗嬢としての市場価値は下がっていくこと、そして、長く働いていると、業界に若い子がどんどん入ってくるので、お客側が新しい子に流れていくことが理由です。性風俗の仕事を続けているうちに、1日2~3万円稼げていたのが、1日1万円になって、5千円になって……場合によっては、時給換算するとマクドナルドのバイトより稼ぎが悪くなったりすることもあります。

――なるほど。性風俗の仕事には年齢的なリミットがあると。

角間:そうやって稼げなくなることのほかにも、30代のうちに親族に知られてしまったり、子どもができたり、怪我をしてしまったり、精神的な健康を害したりして働くことができなくなってしまう人も多いです。つまり、風俗嬢としてのキャリアは遅くても40歳ころには終わる。日本人女性の平均寿命は86歳ですから、性風俗引退後の46年間はどうするのか、という問題が残ります。これを私たちは「40歳の壁」と呼んでいます。

後編では、実際に彼女たちが「40歳の壁」にぶつかってしまう前に必要な「セカンドキャリア支援」について、具体的なお話しを伺います。

>>>【後編はコチラ】風俗嬢の平均収入は30万円 支援団体代表が200人に調査してわかった、彼女たちの「しんどさ」

(取材・文=ケイヒル エミ)

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