内田良さん
ネット上で大きな反響を呼んだ「ドッジボール問題」をご存知でしょうか? コラムニスト勝部元気氏の「ドッジボール、学校での強制参加を禁止にするべきでは?」という発言に端を発し、ドッジボールという競技自体にまで賛否が巻き起こりました。勝部氏によるとドッジボールの危険性と問題点は「ドッジボールには暴力性が内包されており、怪我やいじめの助長する可能性が極めて高い競技で、強制的に児童にやらせるのは問題なのではないか?」というのもの。
新刊『教育という病 子どもと先生を苦しめる「教育リスク」』(光文社)を上梓した内田良先生に、ドッジボールをはじめとする、「教育という善良なものに潜む危険性」についてお話しを伺いました。
ドッジボールは「危険なスポーツ」なのか?――ドッジボールの危険性が議論の対象となっている今の状況をどのようにお考えですか?
内田良さん(以下、内田):どんなことでも危険かどうかを検証することはとても大事なことだと思います。ドッジボールの危険性について考えたこともなかったという人も多いので、そもそも危険なものなのかどうか、危険だとすればどの点に留意すべきかについて、議論することは重要なことです。
――ドッジボールの危険性というのは以前から問われていたものなのでしょうか?
内田:高校の養護教諭(保健室の先生)からは、ドッジボールでの怪我は多いと聞いたことはありますね。その学校ではボールを柔らかいものに変える対策をしたら怪我の割合がグッと減ったようです。
――先生ご自身はドッジボールの危険性についてどう思われますか?
内田:柔道やラグビーなどのコンタクトスポーツ(プレイヤー同士が接触する競技)っていうのは暴力が内包されていてもわからないんですよね。投げたりぶつかったりしているなかに、意図的な暴力が潜んでいても、その悪意が見えにくいわけです。でもドッジボールはコンタクトスポーツではないのでそういう悪意のある暴力はないだろうと思っていましたが、実はターゲットに向かって思いっきり投げるだとか、ボールが飛んでくるのが怖かったという人がいるわけですから、暴力的なもの、あるいはいじめ的なものが内包されている可能性があるというのが見えてきたのではないかと思います。
目に見えない「悪意」は防ぎようがない――勝部氏の発言の中にあった「ドッジボールに内包される『悪意』」についてどう思われますか?
内田:教育現場において子どもたちの悪意のあるなしを判断するのは非常に難しいことだと思います。
――ドッジボールを選択制にすべきという意見が出ていましたが。
内田:選択制はとっても合理的な考え方です。苦手な子は他の種目を選択すればいいのですから、嫌な思いをする子は減りますよね。
――スポーツには「怪我をするのは当たり前」という論調が多いように見受けられますが。
内田:そもそも、「スポーツに怪我がつきものだ」というのは意味のない議論だと思っています。それってほとんど思考停止状態ですよ。それだったらどんなことでも「怪我はつきもの」になりますよね。柔道の死亡事故は毎年3、4人起きていて、30年間で118人の児童・生徒が亡くなっています。
――それを変えるにはディスカッションしたり、問題点を考えるということが大切だということなのでしょうか。
内田:そうですね。ドッジボールに関しては、実際怪我のケースを見ても全然多くないし、唯一高校のドッジボールだけは考えなくてはいけないけれども、小中、とくに小学校のドッジボールを再考すべきかどうかはかなり疑問です。
>>【後編はこちら】学校で怪我をしても感動話にすり替わる リスクが美談で見えなくなる教育現場の病
(橋本真澄)