ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第485回)

軽乗用車EV(電気自動車)の市場は先月、中国メーカーBYDの「RACCO(ラッコ)」が登場し、俄然にぎやかになってきました。そして、軽市場でトップセラーを争うスズキも2026年秋に初となる軽乗用車EVを発表する予定です。

昨年のジャパン・モビリティショーでコンセプトカー「Visione-Sky(ビジョンイースカイ)」が公開され、期待が高まっていました。

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e SKY(イースカイ)プロトタイプ

投入されるEVの車名はコンセプトカーから「Vision」を除いた「e SKY(イースカイ)」。そのプロトタイプ(試作車両)の試乗会があるサーキット場で開かれ、参加してきました。

■活性化が期待される軽乗用車EV、スズキの乗り味は?

この日は炎天下の一日でした。試乗したのは青の車両。自然光の中でさわやかな印象を与えます。ドアは前後4枚ともヒンジ式のドアで「バンっ」と安心感のある開閉音。室内はディスプレイを採用した計器など、最近の潮流は押さえているものの、奇をてらったものではなく、何も言われなければ普通の軽自動車と変わらない印象。インパネには陶器風の仕上げが施され、清潔感があります。

シフター(シフトスイッチ)は見慣れたレバー式で「P-R-N-D-B」のポジションが縦に並びます。ガソリン車とほぼ変わらぬ感覚で、ステアリングの左奥にあるスタートボタンを押すと、チャイムのような音が鳴って初めてEVであることを認識できます。

さて、走り出します。走り出しはEVらしく静かですが、加速すると「ヒューン」という音を奏で、クルマが確実に進んでいることを感じさせます。

直線では100km近くまでアクセルを踏んでもスムーズにスピードは上がっていきますが、速度相応の音は聞こえてきました。とは言え、ガソリン車のようなにぎやかな響きとはまた違います。カーブは高めの速度で入ると、さすがに大きめの横G(重力加速度)を感じますが、底に敷き詰められたバッテリーのせいか、四輪がしっかり接地しているような安定感がありました。

試乗を終えて感じたのはいい意味での「がんばっていない感」です。開発担当者に正直に印象を伝えると、担当者は「最高の誉め言葉」と、わが意を得た表情で顔をほころばせました。

「生活に寄り添う軽EVをつくろう」

こう話すのは 開発担当の津幡知幸チーフエンジニア。「まずは軽自動車であること。EVになったから最先端というアプローチではない」と開発の狙いを明らかにしました。

軽EVからにじむ、揺るぎないスズキの“哲学”

左上:親しみのもてる室内
右上:シフター(シフトスイッチ)は見慣れたレバー式
左下:インパネには陶器風の仕上げ
右下:シートの座面はやや高めでEVを感じさせる部分

■音、価格……、軽自動車であるためのこだわり

そのためにこだわったポイントがあると津幡さんは主張します。

まずは「音」。「ヒューン」という加速音などはあえて残したと言います。EV化により、ロードノイズなど、エンジン音で隠れていた音が聞こえてくるようになりました。津幡さんによれば、「裏に引っ込んでいたものが出てきた」。

しかし、軽自動車である以上、音を完全に消すにはコスト面で限界があります。また、無音にすれば「運転している感覚がない」という声も。周波数計なども駆使し、「“耳障りで不快な音”と、“聞こえていても問題ない音”のバランスをとるのに苦労した」と話します。

そしてもう一つが車両価格。「価格が最大のお客様のハードル」と津幡さんは話します。最近はガソリン車でも200万円を超える軽自動車が少なくない中、「ちょうどいいEVを出す」ことにこだわったということです。ただ、具体的な数字はこの時点では明らかにされませんでした。全高1700mmを超える「スーパーハイトワゴン」ではなく、一段低い1600mm前後の「ハイトワゴン」としたのもその一環。スーパーハイトワゴンは室内の広さで人気のカテゴリーですが、スライドドアなどでコストが上がるほか、車重も上がります。重くなればその分補強も必要で、走りや電費(燃費ではない!)に大きな影響が出ます。「限られたリソース(経営資源)の中で新しい商品をつくる時に、お金を抑えるのは歴史上やっていること」と津幡さん。アルトやワゴンRと同じく、「スズキの哲学」と言えるかもしれません。

軽EVからにじむ、揺るぎないスズキの“哲学”

コンパクトなEVシステム

■RACCOはライバルなのか? 違うカテゴリーで「正面対決」を避ける

ちなみに車重はスーパーハイトワゴンであるBYDのRACCOは約1200kgに対し、e SKYは1030kg(プロトタイプ参考値)。「1トンを切りたかったのでは」と少し意地悪な質問をすると、津幡さんは軽くはできるが、遮音性能など客の求めるものを重視した上で、「次の課題」と苦笑交じりに話していました。
バッテリーは外部調達である一方、クルマの土台となるプラットフォームはスズキの「完全オリジナル」。バッテリーの部分も車体剛性の一部を担う構造としています。これはRACCOも同様の手法を採っており、今後のEV開発のトレンドとなりそうです。一回の充電で可能な走行距離は約310km(プロトタイプ参考値)で、RACCOの最大320km(WLTCモード)には一歩譲りますが、津幡さんは「このサイズであれば300あれば十分ではないか」と話します。当初は200km台でしたが、開発を進めるにつれ、バッテリー構造の軽量化も進み、300km台を達成したということです。

時期が時期だけにどうしてもBYDとの比較になりがちですが、取材では、車両のタイプはもちろん、何よりも両社の軽EVにおけるアプローチが全く違うと感じました。「人気カテゴリーにもてる技術を投入したRACCO」「EVながら軽自動車の本分を押さえたe SKY」といったところでしょうか。それぞれの個性であると思います。

むしろ、スズキの車種でカニバリゼーション=同士討ちが生じるのではないか……、そんな懸念さえ浮かびます。これについて、営業企画担当の日本営業企画部・田慎課長は「食い合いはすると思うが、スズキの中で食い合ってくれればどちらでもいい。他社に行かないように丁寧に販売する」と話します。

販売戦略も管理顧客=スズキのクルマに乗っているユーザーに声をかけていく方針です。

試乗会の2日前にはスズキの第一四半期決算会見がありました。この中で、石井直己副社長はBYDに対し、「お客様が本当に欲しいものは何か、スズキには膨大なデータがある。副代理店という強い味方もいる。全国津々浦々、BYDと切磋琢磨できる商売をやれるのではないかとワクワクしている」と、強い自信を示していました。

軽EVからにじむ、揺るぎないスズキの“哲学”

サーキット場を走る車両

■決算会見から見えるスズキ独自の道のり

ところで、決算会見では第一四半期は増収増益、過去最高を記録したことが明らかにされました。一方、私が決算資料で目についたのはアンゴラで販売シェア1位だったこと。アンゴラはアフリカ南西部の国。石油を生産し、1人当たりのGDP(国内総生産)は約3000ドルとアフリカの平均を上回っているそうです。会見では「インド同様、燃費が良く品質が良く、頑丈で手ごろな小型車が求められており、インド製のモデルがアンゴラ市場に非常に合っている」とトップの理由を分析していました。インド同様、新興国を見定める眼は確かなようです。

スズキと言えば海外でインドに強いというイメージが定着していますが、実はインドを含め10カ国でシェアトップを誇ります。

関係者によれば、インド、アンゴラのほかに、パキスタン、コートジボアール、ジブチ、セーシェル、モーリシャス、ブータン、バルバドス、ボリビア……、渋いラインナップです。鈴木修元会長が1978年社長就任時に発した言葉が「どこの国でもいいから一番になりたい」(スズキ「鈴木修が残した言葉」より)。まさに修イズム(俊宏社長はこのフレーズ、あまり好きでないようですが)が息づいており、こうしたニッチ(すき間)を狙うのが、スズキの真骨頂なのかもしれません。つくづく、面白いメーカーだと思います。

(了)

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