この2冊の本はそれぞれ違うものを扱っている。『曖昧な弱者の時代』は現代日本の社会状況と政治状況について。
『曖昧な~』は、「ひろゆき論」や安倍晋三元首相を狙撃した山上徹也被告のツイート分析、「石丸現象」「財務省解体デモ」などについての論考があるが、先の総裁選挙を扱った第7章「『曖昧な弱者』とその敵意」が興味深い。
書名にもなっている「曖昧な弱者」とは何なのか。伊藤は、貧困層やマイノリティなど一般に社会的弱者として認定されている層を「明白な弱者」、中間層やマジョリティに属しながら「何となく弱っている層」を「曖昧な弱者」とする。
先の総裁選挙での高市早苗首相や参政党の主張はこの「曖昧な弱者」によく響いた。
『曖昧な弱者の時代』(岩波書店)著者:伊藤 昌亮Amazon |honto |その他の書店
イギリスの状況も似ている。サルカールは「白人労働者が少数派によって迫害されている」という妄想がどのように発生し、広まったのかを語る。キーワードは「アイデンティティ政治」と「アテンション・エコノミー」だ。アイデンティティ政治とは、少数派の権利を重視した政治のこと。反差別の政治と言い換えてもいい。反差別は当然のことだが、左派の誤りは経済的不平等の解消よりもこちらを優先したこと。伊藤が指摘する日本のリベラル派と似ている。
アテンション・エコノミーは、乱暴に言い換えるなら炎上商法か。顰蹙(ひんしゅく)を買おうが誰かが傷つこうが、注目を浴びてアクセス数さえ稼げばいいというメディアやSNSの振る舞いだ。
伊藤もサルカールも結論はほぼ同じだ。分断された社会を修復するには、再分配を強めて経済的弱者を支援していくしかない。
【書き手】
永江 朗
フリーライター。1958(昭和33)年、北海道生れ。法政大学文学部哲学科卒業。西武百貨店系洋書店勤務の後、『宝島』『別冊宝島』の編集に携わる。1993(平成5)年頃よりライター業に専念。「哲学からアダルトビデオまで」を標榜し、コラム、書評、インタビューなど幅広い分野で活躍中。著書に『そうだ、京都に住もう。』『「本が売れない」というけれど』『茶室がほしい。
【初出メディア】
毎日新聞 2026年7月18日