近年、大学入試の景色は大きく変わりつつあります。文部科学省のデータを見ても、今や大学入学者の半分以上が、いわゆる一発勝負の「一般入試」ではなく、推薦や「総合型選抜」といった方法で進学する時代です。


同時に、高校生の約10人に1人が通信制高校で学んでいるというデータもあり、学びの形も本当に多様化しています。

これだけ選択肢が広がっているにもかかわらず、現場では「通信制高校からでも本当に大学に行けるの?」「特別な実績がないと難しいのでは?」「不登校の経験はマイナスになるんじゃ……」と不安を抱える生徒や保護者が後を絶ちません。

そこで、自身も高校中退から神戸大学に総合型選抜で合格し、現在は専門塾「キャリナビ」を運営する嶋崎まあやさんに話を伺いました。多くの高校生や保護者の進路相談に携わる中で見えてきた、通信制高校生だからこそつかめる「独自の強み」と「具体的な受験戦略」があるといいますが、それは一体何なのでしょうか。

■最初の壁は「勉強」ではない。通信制の生徒が真っ先にやるべきこと
通信制高校からの大学受験というと、まずは「一般入試に向けて予備校で猛勉強しなければ」と考えがちです。しかし、選択肢はそれだけではありません。嶋崎さんは、「総合型選抜は通信制の生徒にこそチャンスがある」とした上で、「総合型選抜の対策をする前に、絶対にやらなければいけない決定的なステップがある」と指摘します。

「総合型選抜に挑戦するなら、勉強よりも先に『徹底的な情報収集』が必要です。なぜなら、総合型選抜は大学によって試験の内容が180度異なるからなんです」

小論文を重視する大学、プレゼンテーションや面接を重視する大学、英語資格が有利に働く大学もあれば、これまでの活動実績や大学での研究テーマとの相性を重視する大学もあるのが総合型選抜。

一般入試のように「模試の結果(偏差値)」という1つの基準だけで測れないのが、総合型選抜の特徴です。各大学が掲げる「アドミッション・ポリシー(求める人物像)」と、自分の相性を見極めることがスタートラインになります。


「どんな大学があり、どんな学部があり、どんな入試方式があるのかを調べ、自分に合う選択肢を探していくことが非常に重要になります」

しかし、ここに通信制高校ならではの落とし穴があります。通信制高校の場合、全日制高校のように進路情報が自然と入ってくる環境ではないことも多いのです。だからこそ、自分から情報を集める姿勢が必要です。

「総合型選抜では、『どれだけ勉強したか』だけではなく、『どれだけ自分に合う大学を見つけられたか』が結果を左右することも少なくありません。だからこそ『自ら情報を取りに行くこと』そのものが、努力の第一歩になります」

■通信制高校の生徒だけが持つ、最大の武器は「時間」
一見、受験情報の面で不利に思える通信制高校。ですが、嶋崎さんはこう言葉を続けます。

「実は、通信制の生徒には、全日制の生徒にはない『圧倒的な武器』があるんです」

その武器とは、自分で自由に使える「時間」の存在です。

「総合型選抜では、志望理由書や面接対策ももちろん重要ですが、その前に必要なのは、自分自身への理解を深めることです。自分は何に興味があるのか。どんな課題に関心があるのか。なぜその大学で学びたいのか。こうした問いに向き合うには時間が必要ですし、さらにテーマが決まれば行動する時間も要ります。


総合型選抜の準備は、ビジネスの『PDCAサイクル』にとてもよく似ています。まず考え、行動してみる。振り返り、修正してもう一度挑戦する。その繰り返しの中で、自分の考えやテーマが少しずつ磨かれていきます」

実際に合格する生徒を見ていても、最初から明確な答えや研究テーマを持っている生徒はほとんどいなかったそう。活動してみた結果、「思っていたのと違った」と気付くことや新しい視点を得ることの方が圧倒的に多かったといいます。その試行錯誤の回数こそが、自分自身への深い理解につながっていきます。

「全日制の生徒は、朝から夕方まで学校の授業や行事に縛られていますよね。一方で、通信制の生徒は自分でスケジュールを自由に決められます。このアドバンテージを生かして、何度も挑戦と振り返りを繰り返せる環境は、総合型選抜において大きな強みになると思っています」

■大学が見ているのは「レールから外れた事実」ではなく、その後の歩み方
通信制高校への転校や不登校、高校中退といった経験を気にする生徒も少なくありません。しかし、嶋崎さんは、総合型選抜ではその出来事そのものが評価されるわけではないといいます。

「大学側が見ているのは、レールから外れてしまったという『過去の事実』ではありません。なぜそうなったのか、その経験から何を学んだのか、これから何をしたいのか、という『これからの歩み方』なんです」

嶋崎さん自身、高校を中退した当時は、一般的な進学ルートから取り残されたような強い焦りの中にいました。
しかし今振り返ると、その立ち止まった時間があったからこそ、自分自身の価値観や「日本の教育を変えたい」という現在の活動につながる強い問題意識が芽生えたと言います。

「総合型選抜は、一度レールから外れたと感じている人が、自分自身と向き合いながら新たな進路を切り開くことができる入試でもあると思っています。

周囲の『当たり前』になじめずに悩んだり、挫折したりした経験は、一般的にはマイナスに捉えられがちです。しかし、裏を返せば、自分の人生や社会の在り方にそれだけ真剣に向き合ったという証拠でもあります。流されて生きてきた人には語れない、その人だけの強力な『志望理由』の種がそこには眠っています」

総合型選抜は、単なる受験方式ではなく、自分の過去を振り返り、現在の関心を整理し、未来を考える機会でもあるようです。

「通信制だから不利ということは一切ありません。自分で情報を集め、手に入れた時間で行動し、試行錯誤を重ねる。その積み重ねのプロセスそのものが、、総合型選抜での合格につながるのではないでしょうか」

お話を聞いたのは:嶋崎まあや さん
総合型選抜専門塾「キャリナビ」代表。神戸大学国際人間科学部在学。高校時代にアルペンスキーの強豪校へ進学するも、教育のあり方に違和感を抱き高校1年で退学。その後、カナダで競技生活を続けながら「自分で考え、選ぶ」教育のあり方に触れる。帰国後、高卒認定を経て神戸大学に総合型選抜で進学。
現在は総合型選抜専門塾「キャリナビ」を開校し、通信制高校生や不登校経験者を含む高校生の進路選択を支援している。

この記事の執筆者: 廣田 美絵子
大手化粧品会社で人事部にて採用・教育・広報を担当。その後教育系のベンチャー企業を経てフリーランスで取材・編集・執筆を行う。キャリアコンサルタントでもあり、人のキャリアや生き方にフォーカスした記事執筆を得意とする
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