老若男女問わず、幅広い世代に人気の「登山」。中でも気軽にハイキングを楽しめることから注目されているのが、標高の低い「低山」です。

しかし、ブームの一方で低山での遭難事故は年々増加傾向にあるといいます。警察庁が毎年発表している統計によると、遭難者が最も多い山は東京の高尾山だそうです。観光地としてのイメージもある標高599メートルの山で、それほど多くの遭難が発生していることを意外に感じる人も多いのではないでしょうか。

 今回紹介する書籍『低山遭難:「まさかの遭難」から生きて帰った人たち』は、フリーライター/長野県山岳遭難防止アドバイザーの羽根田 治さんが、低山遭難から生還した人たちに直接取材し、事故の一部始終を丁寧に記録した一冊。これを読むと、低山にはどのような危険が潜んでいるのか、生死を分けた瞬間はどこだったのか、生きて下山するためにはどうすればよいのかなど、さまざまな教訓を得られることでしょう。

 本書では、「標高1200メートル以下を低山とする」と位置づけ、さまざまな事例を収録しています。その中でも壮絶なのが、東京都・奥多摩三大急登のひとつである大休場尾根へ向かい、日帰り用の装備のまま5日間にわたって山中をさまよった68歳女性の体験です。

 山頂までは比較的余裕を持って登れたものの、下山ルートを間違え、スマートフォンを紛失。さらにさらに斜面を滑落し、周囲が暗くなる中で茫然自失の状態に陥るなどして、遭難してしまいます。5日目にようやく発見、救助され、奇跡的な生還を果たしました。女性はこの出来事を以下のように振り返ります。

「今までも何事もなく登ってこられたのだから、自分が遭難するなんて、まったく考えてもいませんでした。

だから準備不足だったし、装備も充分ではなかったし、山のこともほとんど勉強していませんでしたよね」(本書より)

 このように、低山で遭難事故が起きる背景のひとつとして「油断する」ということが考えられます。高尾警察署警備課長で山岳救助隊長の佐伯敏郎氏は、本書で以下のように話します。

「(高尾山のような低山であっても)服装を含め、地図や地図アプリ、ヘッドランプなどの基本的な装備を携行し、きちんと計画性を持って登っていただきたいですね」(本書より)

 ほかにも、滑落による怪我やクマとの遭遇、ハブによる咬傷、山での不思議体験(怪異!?)など、さまざまな低山での恐怖体験が記されている本書。標高が高くても低くても、山は山です。本書で取材を受けた人が語った「油断をすればどこででも事故は起こるし、命を落とすこともあります」という言葉どおり、低山であっても備えを怠ることなく、十分な準備を整えて登山を楽しみたいものです。

[文・鷺ノ宮やよい]

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