那須発祥の大ヒット銘菓「バターのいとこ」をご存じでしょうか。この商品のすごさは、味のおいしさだけではありません。
仕掛け人は、株式会社GOODNEWSで取締役CCO(Chief Creative Officer)を務める宮本吾一さん。その起業ストーリーは、1台のコーヒー屋台に始まり、ハンバーガー専門店の立ち上げやファーマーズマーケットの開催を経て、実店舗「Chus」(チャウス)の運営へと発展しています。
宮本さんは“食”を軸に、いかにして地元の人を熱狂の渦に巻き込み、地域を活性化し、課題を解決していったのでしょうか――。
今回は、こんまり(R)メソッドを世界に広め、片づけを日常の家事から世界的ムーブメントへ押し上げ、地域創生にも幅広く関わっているプロデューサー・川原卓巳が、宮本さんのプロデュースの極意に迫りました。
○銘菓「バターのいとこ」はなぜ大ヒットしたか――人のために無我夢中で取り組む
――「バターのいとこ」は大好きで、僕にとって、もらって嬉しいお土産ランキング1位です。あんなおいしいものが、どうやってできたか教えてください。
ありがとうございます。酪農家の仲間から、牛乳からクラフトバターをつくりたいとの話を受けたんです。小規模酪農家にとっては大量生産や販路の確保が課題でした。生乳からバターを作る際、バターになるのはわずか4%ほど、90%以上はスキムミルクになるため、その全てを有効活用するのが難しい。そこで生まれたのが「バターのいとこ」なんです。
――加工品をつくる際、副産物として未利用品が大量に出て、廃棄にもお金がかかる状況はよく耳にします。それをこんなにきれいに解決している例は、世界でも類を見ないのでは。開発はスムーズにいったんですか?
はい、トントン拍子で。友だちに天才のパティシエがいて、「スキムミルクで土産菓子をつくりたい」と相談したらやる気になってくれて、1週間ほどでできあがってきました。食べてみたらめちゃくちゃおいしい。レシピも初期段階から変わりません。現在、那須地域の酪農家だけでなく全国の酪農家からスキムミルクを買い取り、「バターのいとこ」として全国販売できています。
――それはすごい。2018年の3月の発売から8年。どのように認知を拡大してきたんですか?
最初は、友だちのコーヒースタンドの一角を間借りして販売し、7万人のフォロワーをもつ友人のSNSで告知してもらいました。
あとは、展示会でサンプルを300円で販売しながら、未利用品の話や商品開発に込めた想いを1人ひとりに語り続けました。約100人の行列ができてお客さんからクレームが出ても、説明をやめなかった。
――発売初期に買う人は、開発者の想いも含めて買いたいんですよね。今はメジャーになったので、人気があることで興味をもってくれて買ってもらえる。ちなみに、現在の売上や雇用状況は、いかがですか?
現在、売上は約50億円です。全国での雇用は約700人、そのうち那須だけで約450人と、町の人口の2%が働いています。お子さんが小さくて就職が困難なお母さんや、障がいをもつ方たちの就労支援施設も兼ねています。酪農家の応援はもちろん、地域の課題解決もできる座組になっているのは、僕にとっても自慢なんです。
――売れて喜ばれる状態を作れたのはなぜだと思いますか?
人のためだと本気になれる、というのがまず1つあります。僕は「しあわせは他者にある」という言葉を大事にしているんです。自分の周りが幸せになることで、自分が幸せになれる。それを科学するような会社でいたいと思っています。
もう1つは、課題と向き合うとき、眉間にシワを寄せるのではなく、文化祭の準備のようにワクワクしながらやること。そういうときが一番力を発揮できる。想いを伝えるのも、100人に1人でも深く刺さった人がいれば、と思っていましたから。そんな泥臭いやり方が良かったのかもしれません。
今後は、商品開発により集中したいと考えています。そのため、2025年10月より、社長を退いて取締役CCO(Chief Creative Officer)に就任。経営の数字は得意な人にお願いすることで、商品開発に専念しています。
○地域の価値で熱狂させ、人を巻き込む――“食”を軸に信頼関係を育む
――那須が事業拠点になるまでのいきさつは?
19歳のときに、友人がいるオーストラリアにワーキングホリデーで行った経験が、すごく良くて。その後も海外へ行くお金を稼ぐため、20歳からリゾートバイトを始めたのが、たまたま那須高原のホテルのレストランでした。
僕は東京生まれですが、人口密度の高い東京は息苦しく、高校時代は満員電車に乗れず、毎日遅刻していました。
オーストラリアでは、パーソナルスペースがあって、まったく違う価値観に触れられた。その後4年ほど、半年バイトして海外へ行くパターンを繰り返していました。
同じリゾートバイト仲間は、独立や、お店をもちたいなどの夢をもってお金を貯めに来ている人たちが多かった。感度も高くて、カッコいい。それで僕も自然と「なんかお店やりたいな」と思うようになったんです。
――起業は何から始めたのですか?
食べることは好きなんですが、料理はできないし、お金もない。それで最初はリヤカーを改造してコーヒー屋台をやりました。昼間はリゾートバイト、夜だけ開店しましたが、2年やっても全然人気が出ない。そこで那須には1軒もなかったという理由から、2005年にハンバーガー専門店「Hamburger Cafe UNICO」を開業しました。
ハンバーガーといえばファストフードの代名詞ですが、反対にスローフードで出せないか。そこで決めたコンセプトが「地産地消」。地元には那須和牛、高原野菜やおいしいパン屋さんのバンズもある。
――“食”にシフトして、どのように人を巻き込んでいったんですか?
試作もせずに店をオープンしたら全然おいしくなくて、まったく売れませんでした。ホテルのシェフや料理に詳しい人に食べてもらい、ダメ出しと改良方法を見せてもらいながら、徐々にアップデートしていったんです。するとお客も増え、11年たった今も人気店として営業しています。
――なるほど。このときのご縁が、ファーマーズマーケット「那須朝市」や実店舗「Chus」(チャウス)につながるわけですね。
最初はハンバーガーをよりおいしくするため、農家さんに「どうやって作っているか知りたいので、畑に行きたいです」と電話しまくりました。でも、全員から「ダメだ」と言われて。それでハンバーガーではなく、「ファーマーズマーケット(以下、マーケット)をやるので、来てほしい」という言い方に変えたんです。すると、7件目でやっと話を聞いてくれる農家さんが現れた。その方の口利きで他の農家さんも全員OKになりました。
1回目は、軽トラックに山盛りの野菜を積んで駐車してもらうだけでしたが、約300人が来てくれて感動しました。
その後も参加者が増え続け、最終的に5,000人規模に成長。農家さんに無料で出店してもらえるのも限界となり、運営も大変になったため解散しました。
代わりに、収益が出せるよう設計して2014年にできたのが実店舗「Chus」です。那須で採れた生産物や加工品の販売、地元の食材を使ったレストラン、宿泊できるゲストハウスも併設しています。オープン時にはマーケットの関係者が300人くらい来てくれて。これまで関わってきた人たちのつながりが、すごいエネルギーになると体感できました。
○イノベーションは「弱さ」から生まれる――心の「衝動」に素直になる
――人と違う発想ができるようになったのは、なぜだと思いますか?
人と違うことができるというより、人と同じようにできなかったんです。そんな「弱さ」が、逆に「強さ」を生んでいるのではないかと。
学校では勉強も友だちの話題にもついていけません。だから「学校を卒業したら会社に入社する」が当たり前ではなかった。その劣等感が東京を出るきっかけになり、那須での事業につながっているわけです。
魚の進化にたとえたら、フナのようなもの。海での生存競争をやめて、川にフィールドを移した結果、独自の生き方になった。イノベーションも同じで、生き残るために変わろうとすると、人と違うことができるようになるのかもしれません。
――みんなと違う選択をして人を巻き込むには、どんなことを心がけていますか?
心の中の「小さな自分」の気持ちを大切にしています。大多数の意見が正解とは限らない。みんなが「そうじゃない」と言っていることを、自分だけが「そうだ」と思ったとき、勇気を出して主張してみる。すると、実はみんなも表に出さないだけで、同じことを思っていた。そんなことって結構あると思うんです。
たとえば、那須は冬の来客が夏の5分の1ほど落ち込みます。事業者もそういうものだと思って動かない。
でも、「冬は那須に行くべき価値がない」という前提は誰かの思い込みに過ぎない。だから「絶対にお客は来る」と先に思って「那須冬市」を企画しています。「面白い人、来るよ」って言って。
最初はホラ吹きのように見えても、1人ずつ誘って本当に面白い人に来てもらい、参加者を増やしていく。まず夢を語り、後から現実にしていけばいいんです。
――あらゆる環境が変化し先の読めない時代に、ビジネスパーソンは何を大切にしたらよいでしょうか?
自分の「衝動」を無視してはいけない。「どうしても、やりたくない」「やりたい」「なんか違う」など、心の声を大事にすること。信頼している人が、自分と違う意見の場合もあるでしょう。社会性を磨くには、そういう人の言うことを聞くことも大事です。でも、成功するかどうかより、自分が納得できる選択をすることにこそ、意味がある。そういう人生のほうがいいな、と僕は思うんです。
宮本さんは、見過ごされてきた可能性に光を当て、課題を希望へと変えてきました。農家や酪農家の想い、就職困難者の雇用――お互いの価値をかけ合わせて活かし合える、奇跡の場を作り上げています。
正直で愛嬌ある人柄が人を惹きつけているのは間違いありません。しかし、それ以上に宮本さんは生産者への愛とリスペクトに満ち溢れています。自分の本音にふたをせず、地に足をつけた泥臭い生き方をすることこそが、価値を生みます。僕も那須に足を運んで、その良さを体感したいと思います。
今回お話をうかがったのは…
株式会社 GOOD NEWS ファウンダー、取締役 CCO 宮本 吾一氏
1978年東京生まれ。オーストラリア滞在を経て2000年に那須へ移住。2004年コーヒー店を開始。翌年ハンバーガー専門店「Hamburger Cafe UNICO」を開業。ファーマーズマーケットなどの運営を経て、2014年実店舗「Chus」、2018年銘菓「バターのいとこ」を手がける。2022年には那須町にある5万平米の森で複合施設「GOOD NEWS」を開業。2025年、北海道での新ブランド展開に加え、「第20回ニッポン新事業創出大賞」経済産業大臣賞を受賞。食と地域の循環をテーマに事業を拡大中。
※本記事は対談内容をもとにライターが構成・執筆しています
川原卓巳 かわはらたくみ KonMari Media Inc. CEO / Takumi Inc. Founder / プロデューサー / プロデュースの学校創設者。広島県生口島生まれ。2016年にアメリカ移住後、シリコンバレーとハリウッドを拠点にKonMariのプロデュースとブランド構築、マーケティングを手がけるほか、日本発コンテンツの海外展開もプロデュースしている。本記事以外の2人の対談の様子は、以下の動画でご覧いただけます。川原卓巳のビジネス戦略ch【自分らしいプロデュースメソッド】▶︎https://www.youtube.com/@kawaharatakumibusiness この著者の記事一覧はこちら











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