俳優・佐藤二朗が主演する予定だった、映画『踊る大捜査線 N.E.W. メトロポリスを駆け抜けろ!』のスピンオフドラマが、制作中止になったと複数のメディアが報じた。背景にあるとみられるのが、佐藤と橋本愛がW主演したフジテレビ系ドラマ『夫婦別姓刑事』の撮影現場で起きたトラブルだ。
一方、NHKは佐藤が出演する番組について「現時点で出演継続」と明言。テレビ局によって対応が分かれる形となった。

【関連写真】佐藤二朗がその演技を「怪物」と呼んだ若手女優

佐藤は『踊る大捜査線 N.E.W.』で、警視庁クリニックの医師・指方輝を演じている。スピンオフは9月18日公開の映画と連動し、指方を主人公として複数回放送される予定だったという。当初、佐藤の降板が取り沙汰された際には、本広克行監督がSNSで「降板じゃないから! 一旦中止して整えてるだけ」と否定。しかし、最終的にスピンオフドラマの制作中止が関係者に伝えられたという。

佐藤をめぐっては、『夫婦別姓刑事』で共演した橋本との間にトラブルがあったことが明らかになっている。橋本側は身体接触を伴う演技について事前に配慮を求めていたが、その要望が佐藤本人に共有されないまま撮影が進行。その後の佐藤の言動について、フジテレビ側は外部弁護士の見解を踏まえて「ハラスメントと評価される」との認識を示した。一方、佐藤の事務所はハラスメントに該当する事実は確認されていないとしており、双方の主張は大きく食い違っている。

これを受けて、佐藤は自身のSNSで「フジテレビは、なぜ、そこまで片方だけに寄り添うんでしょうか。残念です」「僕は心から、もうフジとは関わりたくないです」と不満をあらわにし、両者の信頼関係に深い亀裂が入ったことをうかがわせていた。


フジ側には、慎重にならざるを得ない事情もある。同局は中居正広氏をめぐる一連の問題で人権意識を厳しく問われたことで大きなダメージを負い、コンプライアンス体制の立て直しを進めてきた。そんな中、自局のドラマでハラスメントをめぐる問題が浮上したため、疑義が残る状況で佐藤主演のドラマを制作することに慎重になった側面もあるのだろう。

対照的だったのがNHKだ。

同局の井上樹彦会長は7月末の定例会見で、佐藤と橋本について「ともにNHKの番組に多大な貢献をしていただいている俳優」とした上で、出演者の選定は「NHKとして自主的な編集判断のもと、その都度判断」すると説明。佐藤が出演する歴史教養番組『歴史探偵』などについて「現時点で出演継続としています」と明言した。さらに『歴史探偵』を制作するNHK大阪放送局も、番組について「現状予定に変更はございません」としている。

これはNHKがハラスメントに甘いという話ではない。同局は出演者の人権尊重に関するガイドラインを設け、デリケートなシーンなどではインティマシー・コーディネーターを導入。収録前には、関係者が互いを尊重する意識を共有する「リスペクト・トレーニング」も取り入れている。

先述したように、ハラスメントをめぐる問題についてはフジテレビ側と佐藤側で見解が大きく食い違っている。NHKはハラスメントや人権への厳格な意識を持つからこそ、現状を鑑みて佐藤を一方的に排除せず、出演継続という判断をしたのではないだろうか。


これに対して、ネット上では「NHKは客観的、中立的な対応だと思う」「フジテレビの立場も理解できるけど難しい」「何かあったら右へならえで排除に動くより、各局が独自に判断する方が健全」といった意見が集まり、賛否が巻き起こっている。

ハラスメント問題を軽視することは許されない。一方で、疑惑が生じた瞬間にテレビ各局が一斉に出演者を排除する社会も健全とは言い難い。事実関係と本人の主張、制作側の問題などを検証したうえで、各局が責任をもって判断する――。今回の一件は、コンプライアンス時代のテレビ界が「人権を守ること」と「一方的に断罪しないこと」をどう両立させるのか、その難しさを浮き彫りにしている。

【あわせて読む】「静養中」だからこそ観たい、俳優・佐藤二朗の"怪演"が光る名作4選
編集部おすすめ