●科学では説明不能な連続殺人事件に挑むクライムサスペンス
連続ドラマW-30『ALIUS(アリウス) -特定事象捜査ファイル-』(全6話/19日スタート、毎週日曜22:00~)でWOWOWオリジナルドラマへ24年ぶりの出演にして、初主演を務める佐々木蔵之介。本作は、人類の常識を越える謎の存在「ALIUS」をめぐり、科学では説明不能な連続殺人事件に挑むクライムサスペンスだ。
理系出身でありながら、「解明できないところにドラマがある」と語る佐々木。その言葉の背景には、若き日の不思議な体験や、俳優として積み重ねてきた試行錯誤、そして、年齢を重ねたからこそたどり着いた柔軟な思考があった。作品の話を入り口に、未知のものを拒まず、常に門戸を開いてきた一人の俳優の姿が見えてきた――。
○「見たい夢が見られた」学生時代の不思議な能力
『ALIUS』で佐々木が演じるのは、警視庁捜査一課の刑事・佐野省吾。昔かたぎで、自らの目で見たものを信じ、足で真実を追うタイプの刑事だ。科学では説明のつかない出来事に直面しながらも、「そんなはずはない」と常識にしがみつこうとする。
「最初に台本を読んだ時は、“もしアリウスというものが存在したら”というところまで、すぐには考えが至らなかったですね。でも撮影しながら、佐野として事件を追いかけていくうちに、“いや、そんなわけない”、“でも、そうかもしれん”って、進んでは後退して、進んでは後退して……。じわじわと受け入れていく感覚がありました」
理系出身の佐々木自身は、科学で証明できるものしか信じないタイプなのだろうか。
「僕は何を信じる、信じないではなくて、解明できないところにドラマがあると思っています。現場で芝居をしていても、“あ、今ちょっと空気が変わったな”と思う瞬間があるんですよ。何かゾワッとする。
目に見える事実だけではない、人の感情や空気の揺らぎ。解明できないものを否定するのではなく、創作のヒントとして受け止める。それが、佐々木の芝居の原点なのかもしれない。
「予知夢みたいなものはありましたね」佐々木には、若い頃ならではの不思議な体験もあった。
学生時代、就職活動中に見た夢が、そのまま現実になったことがあったという。
「ある日、翌日受けるはずだった“最終面接”の夢を見たんです。起きたら時間がギリギリで、“うわ、どうしよう”って慌てている夢で。目が覚めたら、本当にまったく同じ状況になっていて(笑)。“なんやこれ”と思いました。ありがたいことに、その面接では合格を頂きました。良いことが起きる前兆だったんですかね(笑)」
さらに驚くのは、「見たい夢が見られる能力」まであったことだ。
「その頃、格闘技のUWFが好きだったんですよ。今日はこういう夢が見たいなと思ったら、本当に見られるんです。藤原喜明さんとか高田延彦さんとかと一緒にプールで泳いでたり(笑)。あれはすごい能力でしたね。夢の中で“推し”に会えていたんですから(笑)」
作品では孤高の刑事を演じる一方、好きだったレスラーとプールで泳いだ夢の話も、嬉々(きき)として語る――。そのギャップもまた、佐々木蔵之介という人の魅力だろう。
「でも今はもう、そんな特殊能力はないですよ(笑)」
○「できないことのほうが分かってくる」経験を重ねて得たもの
俳優として長く第一線を走り続けてきた佐々木だが、経験を積んだからこそ感じるようになったことがある。
「前よりも、自分の“できないこと”が明確になりましたね。若い頃は、とりあえずやってみようという感じだったけど、今は“ああ、これはきっといくらやってもうまいこといかんな”って、分かることも増えてきた」
だからこそ必要なのが、“諦める技術”だという。
「それこそ昔だったら“この方法しかない”と思って突っ込んでいました。でも今は、一回諦めて別の方法を探すこともできる。失敗もいっぱいありますけどね。
そんな考え方は、『ALIUS』への向き合い方にも表れていた。
「設定としては、すごくチャレンジングな作品でした。でも“難しいけど、とりあえず乗っかってみよう”と思ってやってみたら面白かった」
もっとも、本人は笑いながらこう続ける。
「ホンマはできるだけ楽したいっすけどね(笑)」
●「できるか、こんなもん!」それでも難題に挑みたくなる理由
『ALIUS』は、人類の進化という壮大なテーマを扱いながらも、1話30分という気軽さも特徴であり、いわゆる大作映画のようなスケール感だけに頼った作品ではない。
「SFって、お金をかけようと思ったらいくらでもかけられる。でも今回は、そうじゃないやり方で課題を乗り越えようとしていたところが良かったなと思っています」
本作は完全オリジナル脚本である上、現場に入ってからも、試行錯誤の連続だった。
「僕が入る前の段階から、きっとスタッフの皆さんには乗り越えなきゃいけないハードルがたくさんあったと思うんですよ。だからこそ、現場ではスタッフ・キャスト一丸となって、“知恵を振り絞りながら乗り切りましょう!”みたいな感じで、みんなで喧々諤々(けんけんがくがく)やってましたね」
その過程そのものに価値がある。
「結果がいいか悪いかは別として、そこに向かっていくことに意味はあったと思います。ただ、分かる人だけが分かればいい、という方向には行きたくないんです。今回に関しては、ある程度制限がある中でも、とことん考えることができました。
今回のような連続ドラマのみならず、映画や舞台であれば、興行として成立させなければならない。座長を担う佐々木は、その責任も含めて、作品づくりだと考えているのだ。
「ただのアーティストとしてではなく、作品に携わっている人間として、僕は常々そうありたいと思っているんです。“無茶をやりたい”ということではなくて、演じることと、その作品をちゃんと成立させること。その両方を持っていなきゃいけない。ある程度両立できないと、プロデューサーも次の仕事ができなくなってしまうと思うので、“なんでこんなことやってもうたんや!”ってなったら、仕事が続けられなくなってしまう。ちゃんと仕事が継続できる範囲のものを作っていくためにも」
「持続可能な範囲で精一杯振り切る」――そんな現実感覚と理想のせめぎ合いこそが、佐々木蔵之介の考える“プロの仕事”なのだろう。だから、次にWOWOWオファーを受けるなら、今度は24年も待たずとも、「また“これ、誰に言うても無理やろ”みたいな企画を持ってきてほしいですね(笑)。“できるか、こんなもん!”って思いながら、“まあ、やってみましょうか”って」
○「何でも取り込んでみる」門戸を閉ざさない俳優論
一方で、「これをやってみたい」という強い願望は、自身の中には特にないという。
「“ぜひともこの役は佐々木さんに…!”と言っていただいたなら、僕なりのことをやります。セリフはもちろん台本通りに言いますけど、句読点でちょっと息継ぎを変えるとか、その程度でも、僕なりの読み方ができたらいいなと思っています」
それは自己主張ではなく、作品への誠実さだ。
「“自分がやりたいから”ではなくて、“あくまで登場人物として”ですけどね」
台本の言葉を勝手に変えることもほとんどない。
「アドリブとか、自分が言いやすいように語尾を変えるとか、あまりしたくないんです。台本に誤字脱字があったら、“ありがとう!”って思いますもん(笑)。“だってほら、ここにそう書いてありますよ”って、誤字脱字もすべてそのまま読みますから」
そう茶目っ気たっぷりに話す佐々木が何より大切にしているのは、「閉じないこと」だ。
「何でも取り込んでみる。常にちゃんと門戸は開いておこう、聞く耳は持っておこうと思っています。“これをやりたい”と思っていても、誰かの違う意見が入ったら、結局それを選ばなかったとしても、出力は変わってくると思うんです。“いらん、いらん”って最初から閉じるんじゃなくて、別の選択肢が入った上で選ぶ方が、よりいいものになる気がするから」
かつて、実家の老舗酒造を将来継ぐために、日本酒造りに直結する微生物学や農学を学んだ理系出身でありながら、説明できない感覚も否定しない。できないことを認めた上で、新しい挑戦にも飛び込む。そして、自分とは異なる考えにも耳を傾ける。
『ALIUS』について、「見終わった後、街中の風景が少し違って見える…かも?しれません」とコメントしていた佐々木。それは、謎の存在への恐怖だけではないのだろう。
分からないものを、頭ごなしに否定しないこと。たとえどんな時でも思考停止せず、常識の外側にあるものにも、一度耳を澄ませてみること。未知のものに出会った時、門戸を閉ざすのではなく、まずは受け止めてみる。その柔軟さこそが、長く第一線を走り続ける俳優・佐々木蔵之介の強さなのかもしれない。
●佐々木蔵之介1968年生まれ、京都府出身。俳優としてドラマ、映画、舞台で幅広く活躍し、NHK連続テレビ小説『オードリー』などで注目を集めた。主な出演作に、ドラマ『白い巨塔』、『ハンチョウ~神南署安積班~』シリーズ、『医龍-Team Medical Dragon-』シリーズ、映画『超高速!参勤交代』シリーズ、『空母いぶき』など。
スタイリスト:勝見宜人(Koa Hole inc.)
ヘアメイク:高橋幸一(Nestation)
渡邊玲子 映画配給会社、新聞社、WEB編集部勤務を経て、フリーランスの編集・ライターとして活動中。国内外で活躍する俳優・映画監督・クリエイターのインタビュー記事やレビュー、コラムを中心に、WEB、雑誌、劇場パンフレットなどで執筆するほか、書家として、映画タイトルや商品ロゴの筆文字デザインを手掛けている。イベントMC、ラジオ出演なども。 この著者の記事一覧はこちら

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