生前贈与の「7年ルール」を踏まえ、孫への贈与や住宅取得資金などの非課税特例を活用した資産移転が注目されています。しかし、せっかく贈与を行っても、税務署から「名義預金」と判断されれば、相続対策は水の泡になりかねません。
本記事では、税務調査で実際に問題となりやすい名義預金の典型例と、デジタル時代に求められる実務上の対策について、岩永悠税理士に聞きました。
○実例に学ぶ「名義預金」のリアルな否認事例

――近年のデジタル化などにより、税務署の把握能力が飛躍的に高まり、「名義預金」が税務調査で指摘されるケースが増えていると聞きます。どのように名義預金と判断され、高額な追徴課税につながるのでしょうか。また、回避するためのポイントも教えてください。

岩永氏:税務調査で最も否認される財産は、今も昔も「名義預金」です。

ご指摘のとおり、マイナンバーとの紐付けや金融機関データのデジタル化、AIを活用した国税当局の分析システムなどにより、税務署の把握能力は大きく向上しています。

調査官は「調べるため」に来るのではなく、「答え合わせ」をするために来ます。親族の口座情報は事前に把握したうえで調査に臨んでいるケースがほとんどです。
○なぜ見抜かれるのか? 高額な追徴課税につながる典型例

よくあるのが、祖父母が善意で「幼い孫」や「別居している子」の名義で口座を開設し、毎年110万円ずつ振り込んでいたものの、通帳や印鑑は祖父母が保管していたというケースです。

税務調査では、調査官から次のような質問が投げかけられます。

「お孫さんは、この口座の存在を知っていましたか」
「このお金を自由に使うことはできましたか」

このケースでは、孫は口座の存在すら知らないため、実質的に贈与が成立していたとは認められません。

さらに、

出金元と同じ印鑑を使用していた
口座開設が孫の住所地ではなく、祖父母宅近くの金融機関だった

といった客観的な事実も確認され、「名義は孫でも、実際に管理していたのは祖父母」と判断されます。


その結果、10年以上かけて移転した数千万円が相続財産へ持ち戻されるだけでなく、過少申告加算税や延滞税が課されることがあります。

さらに税務署は、名義預金を「他人名義を利用した財産隠し」とみなし、重加算税を視野に調査を進めることもあります。不要な疑いを招かないよう、名義預金と判断されない対策が欠かせません。

○デジタル時代に「名義預金」と判断されないための3つのポイント

――名義預金と判断されないためには、どのような実務を徹底すべきでしょうか。

岩永氏:贈与契約書を作成することはもちろん重要ですが、それだけでは十分ではありません。

税務署に「もらった人が自由に管理・利用している」と判断してもらえる実態を残すことが重要です。

特に孫・曾孫への贈与では、次の3点を徹底してください。
○(1) 未成年の孫への贈与は親権者と契約する

受贈者が未成年の場合、法律上の意思表示は親権者が行います。

そのため、贈与契約書は「祖父母(贈与者)」と「孫の親権者(受贈者代理)」との間で締結し、親が子どものために贈与を受けたことを明確に記録しておきます。
○(2) 通帳・印鑑は親権者が管理し、実際に使う

通帳や印鑑を祖父母が保管し続けるのではなく、孫の親へ完全に引き渡します。

さらに、その口座から習い事の月謝を支払ったり、証券口座で積立投資を行ったりするなど、「孫のために実際に利用されている」実績を作ることが重要です。
○(3) あえて111万円を贈与し、贈与税を申告する

年間110万円の基礎控除を少しだけ超える111万円を贈与し、1,000円の贈与税を受贈者名義(未成年なら親権者が代理)で申告・納税する方法も有効です。


税務署は形式ではなく実態を重視します。

贈与税の申告記録は、契約書や資金管理の実態を裏付ける客観的な証拠として大きな意味を持ちます。
○「契約書だけ」では不十分、実態を残すことが重要

岩永氏:名義預金の課税要件は法律に明文化されているわけではありません。

これまでの裁判例などを通じて、

原資は誰のものだったか
通帳や印鑑を誰が管理していたか
なぜその名義になったのか

といった要素を総合的に判断する運用が定着しています。

贈与税には時効がありますが、名義預金と判断されれば、その財産は相続財産として扱われます。

「契約書を作っておけば安心」と考えるのではなく、税務調査で説明・立証できる実態まで整えておくことが、一族の資産を守るための大前提といえるでしょう。

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岩永悠 いわながゆう アイユーコンサルティンググループ代表/税理士法人アイユーコンサルティング代表社員。西南学院大学卒業。京都大学経営管理大学院 上級経営会計専門家(EMBA)プログラム修了。26歳で税理士登録。
税理士法人2社で経験を積み、2013年独立。15年法人化。資産税に特化した税理士法人として、わずか数年で西日本トップの相続税申告件数を誇るまでに急成長させる。現在はグループビジョンに掲げる「日本のミライに豊かさを」の体現に向け、相続・事業承継分野を基軸に企業の成長支援や海外事業など多角化を推進。社労士法人や行政書士法人等も擁する国内有数の総合コンサルティンググループを牽引している。主な著書「事業承継を乗り切るための組織再編・ホールディングス活用術」(26年6月第3版発刊) この監修者の記事一覧はこちら
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