8月の歌舞伎座は恒例の納涼歌舞伎。最近は「若手俳優の挑戦の場」というコンセプトが薄まったが、第1部の「牡丹燈籠」は、坂東巳之助と尾上右近を軸に若手が揃い競い合う。

「納涼」を意識してか、ラストは本水を使うなど、新しい演出。右近が演じるのは「平凡な女」だが、これを自然に演じてしまうのが、見事。


 第2部前半は昨年不慮の事故で亡くなった片岡亀蔵をしのぶ「らくだ」。兄の市蔵が亀蔵が得意としていた役をつとめる。主役は松本幸四郎と中村勘九郎。後半、小心者で幸四郎にふりまわされていた勘九郎が、酒を飲むと一変するのだが、そうなると分かっているのに、その変化に驚いてしまう。


 続いて、本興行は62年ぶりという「鬼神のお松」。最初は田舎娘として登場するが、実は盗賊の頭で、そうかと思えば子どもがいる浄瑠璃の女師匠でもある役を、中村七之助がつとめる。この女は、いくつもの顔を持つが、彼女のなかでは矛盾していない。外見は違うが、性根はひとつという難役。


 ストーリーも面白く、62年も上演されていないのが不思議だが、やれる女形がいなかったということだろう。七之助を得て蘇ったことを喜びたい。

右近が演じていた盲目の武士が、重要な役なのだけど、見せどころがなく、それが上演が途絶えた理由のひとつか。


 第3部は舞踊。前半は中村屋ファミリーで、勘九郎と七之助はひとりで、勘太郎と長三郎は2人で、それぞれ10分前後を舞う。後半は坂東玉三郎の地歌舞が2つ。休憩時間を除くと1時間ちょっとという短さだが、満足度は高い。


 玉三郎の舞台は装置も照明も最小限で、ミニマリズムの極致。あの横に広い歌舞伎座の舞台でこれができるのは、玉三郎しかいない。夢幻の世界とはこのことだ。


 終わって気づくのは、玉三郎と同じように、たった2人で10分前後を踊って飽きさせなかった、勘太郎と長三郎の見事さだ。2人は普通の芝居でも芸達者なところを見せていたが、舞踊でもここまでできるとは。


 新橋演舞場は7月と8月通して、ジブリを原作とした、スーパー歌舞伎「もののけ姫」。市川團子主演を前提とした初の新作で、澤瀉屋のメンバーが完璧なアンサンブルで若い團子を支える。

客演のポジションの中村時蔵、中村壱太郎も、自分を見せつつ、團子を引き立てている。それはいいのだが、4代目猿之助の「スーパー歌舞伎Ⅱ」が、なかったことにされているようなのが気になる。「ワンピース」あっての、アニメ・マンガの歌舞伎化のはずなのに。


(作家・中川右介)


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