南国フィリピンの巨大都市ダバオを訪れ、ラジオのチューナーを回すと、その賑やかさに驚かされる。日本の地方都市であれば、民間FM局は多くても2局か3局程度にとどまる。
しかしダバオでは主要FM局だけで13局が並立し、さらに地域密着のコミュニティFM局が電波を競い合っている。なぜこれほど多くの放送局が同じ街に共存できるのか。その背景にはフィリピン特有の文化や社会事情、そして地形的要因が深く関わっている。

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 ダバオがこれほど多くの電波を惹きつける最大の理由は、ミンダナオ島における圧倒的な経済・商業の中心地であることだ。人口規模が大きく、購買意欲の高い市民が集まるダバオは、企業にとって格好の広告市場となる。マニラを拠点とする大手メディアはこの巨大市場を見逃さず、次々とリレー局を開設してきた。さらにラジオの社会的地位の高さも見逃せない。1950年代の普及以来、ラジオは人々の生活に深く根付いてきた。特に「マサ」と呼ばれる大衆向け番組フォーマットは絶大な人気を誇る。DJの軽妙でコミカルなトークと、OPMと呼ばれるフィリピンポップスを組み合わせたもので、街の食堂やタクシーのBGMとして愛され続けている。

 言語の壁も局乱立を後押ししている。ダバオを含む南部ではビサヤ語が日常会話の主流である。
マニラ発の放送をそのまま流すだけでは現地の心をつかめないため、地元の言葉でローカル情報を届ける地域密着型の放送が求められる。1986年の民主化以降、メディア開設が自由化されたことも、民間企業や宗教団体、行政の参入を促す追い風となった。

 これほど多くの局が混信せずクリアな音声を届けられる背景には、独自の送信インフラがある。ダバオのFM局の多くは市内マティナ地区の高台「シュライン・ヒルズ」に送信アンテナを集中させている。そして小規模局を除く主要局のほぼすべてが出力10キロワットという強力な電波を放つ。アンテナ性能を加味した実効輻射電力に換算すると20キロワットから32キロワットに達する。日本のコミュニティFMが原則20ワット以下、県域FM局でも1キロワットから10キロワット程度であることと比べれば、その強大さが際立つ。ダバオ周辺は山や丘陵地帯が多く電波が遮られやすいため、高台から大出力で放射することで半径50キロから70キロ圏内の周辺地域までクリアな音声を届けているのだ。

 ダバオの空を飛び交う13の主要局の個性を周波数順に見ていこう。まず87.5メガヘルツの「ダバオ・シティ・ディザスター・ラジオ」は市が直接運営する行政・防災専門局で、近年出力を10キロワットに増強し市民の安全を守る。続く87.9メガヘルツの「レプリカFM1ダバオ」は政府系で最新ポップスを届ける。88.3メガヘルツの「エナジーFMダバオ」は地元ヒット曲を連発する大衆向けエンタメ局だ。
89.1メガヘルツの「XFMダバオ」は音楽とニュース報道を融合させたハイブリッド構成が特徴。宗教色の強さも目立ち、89.9メガヘルツの「スピリットFMダバオ」はカトリック系として心の安らぎを提供する。

 圧倒的なリスナー層を掴むのが、コメディトークとポップスを流す90.7メガヘルツの「ラヴ・ラジオダバオ」だ。92.3メガヘルツの「ワイルドFM」はダンスミュージック主体で若者を魅了する。報道に強いのが93.1メガヘルツの「ブリガダ・ニュースFMダバオ」で、鋭いローカルジャーナリズムを展開する。95.5メガヘルツの「レトロダバオ」は70年代から90年代の洋楽クラシック専門。96.3メガヘルツの「スターFMダバオ」はポップスの合間に短いニュースを頻繁に挟む。若者に支持される99.5メガヘルツの「モンスターBT99.5ダバオ」は最新洋楽ヒットを連発。さらに102.7メガヘルツの「マンゴー・ラジオ」はキリスト教系放送局であり、105.1メガヘルツの「イージー・ロックダバオ」はソフトロックでオフィスやドライバーを癒やしている。

 こうした13局の足元で地域に根を下ろしているのがコミュニティFM局だ。例えば105.9メガヘルツの「アンカー・ラジオ」のように2キロワット程度の出力で運用される局や、さらに小出力で特定コミュニティを対象にする局が点在する。大手商業放送が拾いきれない超ローカルなニュースや農業専門情報、特定宗教の講話を放送し、市民生活をきめ細かく支えている。


 日本のラジオ環境に慣れた身からすると、ダイヤルを回すたびに異なる個性を持ったトークや音楽が飛び込むダバオのラジオ風景は驚きに満ちている。各局は市民の笑顔と安全を守るために知恵を絞り、今日も熱い電波を送り続けている。ダバオのFMラジオの多さは、この街に生きる人々のエネルギーと多様性の象徴である。
【編集:Eula】
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