【その他の写真:2026年8月4日撮影】
車体に刻まれた名は「JAECOO EJ6」。中国の自動車大手・奇瑞汽車(チェリー)グループが展開する新興ブランド「ジェクー」の100%電気自動車(EV)だ。フィリピンといえば、長年にわたり日本車の独壇場として知られてきた地域だ。街を行き交う車の多くはトヨタや日産などの信頼ある日本ブランドだが、同じスペースで展示されているロングランモデルのトヨタ車、日産車を見る人は皆無その差は歴然だ。EVの普及もインフラ整備の遅れから発展途上とされてきた。しかし、今この現場で起きている現象は、そうした従来の常識を根底から覆す光景だ。
会場に設置された展示スペースでは、車のあらゆる角度から買い手候補が群がっている。フロントフードは開け放たれ、来場者たちが内部の電動パワートレインや補機類を覗き込んでいる。サイドドアを開ければ、上質なブラウンのレザーシートと超大型のセンタースクリーン、天井一面に広がるパノラマサンルーフが目を引く。リヤのラゲッジスペース(荷室)も開放され、ステンレス製のスカッフプレートに刻まれた「ALLROAD」の文字が、街乗りだけでなく悪路走破性も備えた本格派であることを主張している。
人々は単に珍しい車を眺めているのではない。現場のディーラー営業員が手にしているパンフレットや価格表を食い入るように見つめ、月々のローン支払額の試算に余念がないのだ。提示されている車両価格は186万9000ペソ(約480万円前後)。現地の大衆車と比べれば決して安価ではないが、高級SUVとしては破格のコストパフォーマンスを誇る。さらに20%程度の頭金と3年から5年の分割ローンを組み合わせたプランが提示されており、現実的な購入検討ラインとして現地の富裕層や中間層の上位の心を掴んでいる。
現地関係者によると、このショッピングモールでの展示イベント単体で、毎月10台以上が契約されているという。店舗を持たないイベントスペースでの直販実績としては驚異的な数値であり、南国の地方都市においてEVがこれほどのスピード感で売れる事例は極めて異例だ。
なぜこれほどまでに人々の心を捉えているのか。最大の要因は、圧倒的なデザイン性と機能性の融合にある。ジープやランドローバーを彷彿とさせる武骨でタフなボックススタイルの外観は、道路状態が必ずしも良好ではないフィリピンの走行環境において絶大な安心感を与える。高めの最低地上高と四輪駆動システムは、突発的な豪雨による冠水や未舗装路でも威力を発揮する仕様となっている。
同時に、室内空間のラグジュアリーさと最新ガジェット感覚の先進性が、所有欲を刺激する。
さらに見逃せないのが、維持費(ランニングコスト)に対する意識の変化である。フィリピンではガソリン価格の変動が家計を直撃するため、自宅や充電スポットで充電できる電気自動車の経済合理性が評価され始めている。政府によるEV普及推進政策や税制優遇措置も後押しとなり、「未来の乗り物」だったEVが「今買うべき現実的な選択肢」へとシフトしたのだ。
展示車両の周囲で繰り広げられる熱気あふれる商談の様子は、アジアにおける自動車市場の勢力図が大きく塗り替えられつつある現実を如実に物語っている。かつて日本車が築き上げた絶対的な王国に、先進的なデザイン、豊富な装備、戦略的な価格設定を武器にした中国系EVが猛烈な勢いで食い込んでいる。ショッピングモールの喧騒のなかで毎月飛ぶように売れていく一台のSUVは、東南アジアモビリティ革命の最前線を象徴する出来事と言えるだろう。
【編集:Eula】








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