「イヤよイヤよも好きのうち」――かつてはそんな言葉が当たり前のように使われていました。しかし今、その価値観は大きく見直されています。


「嫌だと言っているけれど、本当はうれしいはず」。そんな思い込みは、相手の気持ちや境界線を軽視することにつながります。そこで大切なのが、「同意」の考え方。私たちは日常のなかで、自分と相手にはそれぞれ心と身体の境界線があることを学んでいきます。そして、その境界線を越えるときには、相手の意思を確認し、その気持ちを尊重することが求められます。同意は自分の心と身体を大切にし、同時に相手の心と身体も尊重することなのです。

 しかし、「イヤよイヤよも好きのうち」という言葉が当たり前のように受け入れられていた時代があったように、私たち大人の多くも「同意」について十分に学ぶ機会がないまま育ってきました。だからこそ、この考え方を次の世代にどう伝えていくのかは、私たち大人が向き合うべき大切なテーマとなっています。

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 このテーマを子どもたちに伝える上で、心強い味方になってくれるのが、今年3月に出版された共著『10代のための「性と加害」を学ぶ本』(時事通信社)です。同書では、ソーシャルワーカーの斉藤章佳さんと助産師の櫻井裕子さんによる「同意」に関する話が、イゴカオリさんの漫画によってわかりやすく描かれています。
 同意の感覚を家庭のなかでどのように育んでいけばよいのでしょうか。斉藤さんと櫻井さんに話を聞きました。


「イヤと言ってもやめてくれない人」は、どうして生まれる? 親が“わが子との接し方”で気をつけたいこと<漫画>
『10代のための「性と加害」を学ぶ本』著:櫻井裕子、斉藤章佳、画:イゴカオリ(時事通信社刊)※以下同じ


「イヤと言ってもやめてくれない人」は、どうして生まれる? 親が“わが子との接し方”で気をつけたいこと<漫画>
10代のための「性と加害」を学ぶ本


「イヤと言ってもやめてくれない人」は、どうして生まれる? 親が“わが子との接し方”で気をつけたいこと<漫画>
10代のための「性と加害」を学ぶ本


「イヤと言ってもやめてくれない人」は、どうして生まれる? 親が“わが子との接し方”で気をつけたいこと<漫画>
10代のための「性と加害」を学ぶ本


「イヤと言ってもやめてくれない人」は、どうして生まれる? 親が“わが子との接し方”で気をつけたいこと<漫画>
10代のための「性と加害」を学ぶ本

「イヤよ、イヤよはまじでイヤ!」

――本書の中では、同意について学ぶ章がありますが、その中で紹介されている「イヤよイヤよはまじでイヤ!」という言葉が印象的でした。

櫻井裕子さん(以下、櫻井):今の中学生に「イヤよイヤよも好きのうち」という言葉を知っているか聞くと、ほとんどの子が知らないと言います。もうかなり昔の言葉になっているんですよね。でも私はあえてその言葉を紹介した上で、「昭和の時代には、女性が嫌がっていても本心ではうれしい。だから『女性の言う『イヤ』は真に受けなくてもいいんだ』と思われることがあった」と説明します。

 その価値観はだいぶ今の時代に合わせてアップデートしているかのように見えますが、実際のところ、まだまだだと感じています。相手が嫌だと言っているなら、それを尊重しよう!と子どもたちに伝えています。

斉藤章佳さん(以下、斉藤):子どもたちには、「イヤ」と言うことは悪いことではないと伝えてほしいですね。「空気を読む」という言葉があるように、断るのがあまり得意じゃない方は多いですよね。自分は嫌だと思っていても、空気を読んで受け入れてしまうことも。ですが、自分の心と身体を守るためには、「イヤ」と言わなければいけない場面があります。これは性暴力に限らず、どんな人間関係でも大切なことです。「イヤ」と言うのは、相手が嫌いだからではありません。
自分を守るためなんだ、自分を大切にしているということを子どもたちに知ってほしいですね。

――嫌われたくないという気持ちが強い思春期に、「イヤ」と言うのはなかなかハードルが高そうです。

斉藤:やはり練習が必要だと思っています。そのためには、家庭の中で「イヤ」と言える環境を整えることが大事です。イヤなことはイヤと言っていいんだよって。

 我が家の末っ子の娘は、上のきょうだいたちが写真を撮ろうとすると、撮られたくないときは「イヤよ、イヤよはまじでイヤ!」とちゃんと言うんですよ(笑)。日常の中でそういう言葉が自然に出てくる環境をつくっておくことが、いざというときに自分の意思を伝える力につながると思っています。

櫻井:私は、言葉で説明すること以上に、親が態度で示すことが大事だと思っています。たとえば、子どもの写真を撮るときに、「撮ってもいい?」と聞いたり、子どもの気持ちを確認しているでしょうか。

「あなたの身体はあなただけのものだよ」と伝えながら、親が勝手に写真を撮ったりSNSに投稿したりしていては、メッセージに一貫性がありません。まずは、「あなたの身体のことは、あなたが決める権利を持っている」ということを、親自身の行動で示す。それは立派な包括的性教育です。
そういったやり取りの積み重ねが大切だと思います。

――性の話に限らず、親が日常的に同意を確認する姿勢を見せること自体が、広い意味での性教育になるのですね。

斉藤:そう思います。前回もお話ししましたが、私のクリニックには性加害少年たちの受診者数が多いのですが、その子どもたちの加害行為で最も多いのは盗撮です。今の子どもたちは、生まれたときから何らかのデジタルデバイスで写真を撮られ、ときに本人の同意なく無断でSNSでも共有される環境で育っています。そのため、他人を同意なく撮影することへの暴力性への感度や抵抗感が薄くなっている面もあると感じています。

 だからこそ、親自身が写真を撮るときに、一手間かけることが大切です。「撮ってもいい?」と確認する。その姿勢を日常的に見せることが、「子どもであっても一人ひとりに意思があり、それを尊重することが大事」という感覚の育成につながると思います。どんな場面でも、まず同意を確認する。親のその姿勢そのものが、子どもへの大切な「生」教育になるのではないでしょうか。

子どもの身体には「声をかけてから」触れる

――同意の感覚は、いつごろから育てられるものなのでしょうか?

櫻井:生まれた直後から始められます。たとえば、おむつを替えるときに「おむつを替えるね」「おしりをきれいにするね」と一声かける。
着替えを手伝うときや、汗をかいた身体を拭いてあげるときも、声をかけてから触れる。そうした親や大人の態度によって、子どもは「自分の身体や意思は大切に扱われている」という感覚を身につけていきます。

 それは、「からだの権利」を、言葉ではなく身体で学んでいくプロセスなんです。

――なるほど。

櫻井:「からだの権利」を100回、1000回言葉で伝えるよりも、日々の関わりの中で体得していく方が、本当の意味で力になると思っています。そのためにも、小さいころから子どもと心地よい触れ合いをたくさん経験することが大切です。何が心地よくて、何が心地悪いのか。その感覚を知らなければ、いざ嫌なことをされたときに「これは自分にとって嫌なことだ」と気づくことができません。

子どもの話を聞くことが、防犯にもなる

――加害者にならないために、というテーマでお話を聞いてきました。性被害を防ぐために、親としてできることはありますか?

櫻井:性被害を完全に防ぐことは、とても難しいと思っています。加害者は用意周到にターゲットを選び、時間をかけて近づいてきます。とくに「グルーミング」と呼ばれる手口では、子どもの話を親身に聞き、信頼関係を築いたうえで犯行に及びます。そうした手口を見抜くのは簡単ではありません。
加害者は、子どもの「話を聞いてほしい」「わかってほしい」という気持ちを利用すると言われています。

――親としては、どうすればよいのでしょうか。

櫻井:保護者が日頃から子どもの話を聞く存在でいることが大切だと思っています。もちろん、「親が話を聞いていれば被害を防げる」という単純な話ではありませんし、「聞いていなかったから被害にあう」わけでもありません。でも、子どもをターゲットにする加害者は孤立していたり、満たされない何かを抱えている子を狙うと言われています。そういう子がグルーミングしやすいためです。

 保護者も何かと多忙なのでいつでも手を止めて子どもの話を聞けるわけではありません。前回記事でもお伝えしていますが、余裕がないときは、「今は難しいけど、あとで聞かせてね」でも良いと思います。ほんの少しの時間でも大丈夫です。「あなたの話を聞きたいと思っているよ」というメッセージだけはどうにか伝えておいてほしい。その積み重ねが、「話を聞いてくれる人がいる」という安心感につながりますし、不安や違和感を覚えたときに相談できる関係を育んでいくのだと思います。

性教育は「生き方の教育」

――最後に、お二人にとって性教育とはどのようなものなのでしょうか。
また、家庭で性教育に向き合う親御さんにメッセージをお願いします。


櫻井:性教育というと、生殖の仕組みや妊娠、性感染症の話を思い浮かべる人が多いと思います。でも、それは性教育のほんの一部にすぎません。本来の性教育は、自分と相手の心と身体を大切にすることや、人との関わり方を学ぶものです。自分のことも他者も尊重する生き方は、子どもだけでなく大人にとっても必要なものだと思います。

 親がすべてを知っている必要はありませんし、完璧である必要もありません。子どもと一緒に学んでいく姿勢が大切ですし、ときには子どもから教わることもたくさんあります。気負わずに、まずは生活のなかの小さな関わりから始められるといいですね。

斉藤:性教育の「性」は、「生きる」という字の「生」でもあると思っています。子どもたちはこれから、さまざまな壁や困難にぶつかっていきます。失恋をしたり、受験に失敗したり、思い通りにいかない経験もたくさんするはずです。そうした経験も含めて、生きていくうえで必要な力を育てることが、広い意味での性教育なのではないかと思っています。自分のことをきちんと語れる言葉を獲得し生きていってほしい。それが、今の私が子どもたちに伝えたいことです。

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 性教育は、特別な授業の中だけで完結するものではありません。おむつ替えのときの「替えるね」という一声や、写真を撮るときの「撮ってもいい?」というひと手間など、日々の何気ない関わりの積み重ねの中にこそ、その土台があります。

 親がすべてを知り、教える必要はありません。子どもと一緒に考え、一緒に学んでいこうとする親の姿勢。それ自体が、子どもにとって最も大きな生きる支えになるはずです。

【斉藤章佳(さいとうあきよし)】
西川口榎本クリニック副院長(精神保健福祉士/社会福祉士)
1979年滋賀県生まれ。大卒後、我が国最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、25年にわたりアルコール依存症を中心に様々なアディクション臨床に横断的に携わる。その後、2024年10月から現職。専門は加害者臨床で現在まで3500名以上の性犯罪加害者の治療に関わり、その家族支援も含めた包括的な地域トリートメントに関する実践・研究・啓発活動に取り組んでいる。最新刊として『校内盗撮』(集英社インターナショナル)が8月7日に刊行される。

【櫻井裕子(さくらいゆうこ)】
助産師(さくらい助産院開業)  
産後ケア、養育支援、看護・助産専門学校非常勤講師を務める傍ら、小中高大学生や保護者に包括的性教育やプレコンセプションケアについての講演を年間150回以上実践。2021年より斉藤氏と共に性犯罪加害者臨床で包括的性教育を行っている。
著書に『10代のための性の世界の歩き方』『性的同意は世界を救う』『10代のための「性と加害」を学ぶ本』共に時事通信出版局。

<取材・文/大夏えい>

【大夏えい】
ライター、編集者。大手教育会社に入社後、子ども向け教材・雑誌の編集に携わる。独立後は子ども向け雑誌から大人向けコンテンツまで、幅広く制作中。
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