恐竜と聞くと、どんな姿を思い浮かべるだろうか。ティラノサウルスやブラキオサウルスなど、太古の世界を闊歩する巨大な姿を思い浮かべる人も多いだろう。
だが、約1億8000万年にわたる恐竜の進化には、「なぜあれほど巨大になれたのか」とは正反対の謎がある。
「なぜネズミや小鳥のような、極小サイズの恐竜はいなかったのだろう?」というものである。
新たな研究により、その謎の答えは恐竜の生物学的な特徴によるものではなく、彼らが暮らしていた生態系にある可能性が示唆された。
この研究成果は、2026年8月5日付で国際学術誌『Evolution[https://doi.org/10.1093/evolut/qpag117]』に掲載された。
「小型の恐竜」はいても「極小サイズ」がいない理由
恐竜たちの歴史の中で、「小型の恐竜」がまったく存在しなかったわけではない。
たとえば、約1億2000万年前の中国に生息していた「ミクロラプトル」は、最小級の「非鳥類型恐竜」の1つとして知られている。
ここで言う「非鳥類型恐竜」とは、鳥類を除いた恐竜のことだ。分類学的には、現在の鳥類も恐竜の一系統とされているため、一般に我々がイメージする、絶滅した「恐竜」と区別する際にこの言葉が使われる。
アメリカ自然史博物館の解説では、ミクロラプトルや小型の植物食恐竜フルイタデンスの体重は、最小で約500gほど。大きなウサギほどだったとされている。
下はアメリカ自然史博物館で、ミクロラプトルの復元模型を展示室へ運んでいるシーン。人間と並ぶとかなり小さな恐竜だったことがよくわかる。
だが、これほど小さなミクロラプトルでさえ、現代に存在する極小の脊椎動物と比べれば、まだかなり大きな体をしているのだ。
最小級の非鳥類型恐竜といえど、成体の体重は約400gあり、現在生きている最小級の鳥類や哺乳類、爬虫類と比べると200~3000倍も重かったらしい。
例を挙げると、現在世界最小の鳥類マメハチドリ[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%A1%E3%83%8F%E3%83%81%E3%83%89%E3%83%AA]は約1.75g、哺乳類のコビトジャコウネズミ[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%93%E3%83%88%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%82%B3%E3%82%A6%E3%83%8D%E3%82%BA%E3%83%9F]は約1.8g、小型のヤモリにはわずか約0.15gしかない種までいる。
実際、現生鳥類の約90%、哺乳類の約75%は、最小級の非鳥類型恐竜よりも体重が軽いのだそうだ。
2026年8月5日、この謎に迫る新たな研究が発表された。研究を行ったのは、プリンストン大学のステファニー・C・レチキ氏と、アメリカ自然史博物館の古生物学者ロジャー・B・J・ベンソン氏である。
ベンソン氏は、これまでに発見された小さな恐竜についてこう語っている。
かなり小さな恐竜が見つかることもありますが、調べてみると、どれも子供だったことがわかります。もしネズミほどの大きさの恐竜を見つけたら、私はものすごく驚くでしょうし、大興奮すると思います
同博物館が過去に投稿した動画では、ベンソン氏が実際の化石や復元模型を紹介しながら、恐竜の体サイズにまつわるこの謎について詳しく解説している。
では、恐竜にはある程度より小さくなれない体の仕組みでもあったのだろうか? 今回の研究結果によると、どうやらそう単純な話ではないようだ。
それぞれの生き物で、繁殖上有利な体のサイズを予測
2人の研究者が使ったのは、繁殖上有利になりやすい体のサイズを予測する、「BMTモデル」と呼ばれる数理モデルだ。
このモデルは「生物の適応度」を、環境から得たエネルギーをどれだけ効率よく子孫へとつなげられるかという、「繁殖力」の観点から捉えるものだ。
動物は体が大きくなるほど、餌などから多くのエネルギーを得られるようになる。その一方で、体が小さいほど得たエネルギーをより速いペースで繁殖に回すことができる。
つまり、大きすぎても小さすぎても繁殖の効率は下がるため、その中間に「最も効率よく次の世代を残せる体の大きさがある」という考え方だ。
BMTモデルでは、このバランスから、それぞれの動物グループで繁殖上もっとも有利になりやすい体のサイズを予測するのである。
研究では哺乳類4062種、鳥類9385種、トカゲ類6275種、カメ類260種、ワニ類21種、そして非鳥類型恐竜515種などのデータを使い、このモデルの予測と実際の体サイズ分布を比較した。
その結果、哺乳類や鳥類、カメの仲間では、モデルの予測と実際の分布が比較的よく一致した。
一方でトカゲやヘビ、ワニなどの仲間、そして非鳥類型恐竜では、予測と現実との間にズレがあることが判明した。
つまり、こうした動物たちの体のサイズは、生理学的なエネルギー収支だけでは十分に説明できないということになる。
そこで研究者らは、現生動物から得られたさまざまな生理学的な数値を使って、恐竜の体のサイズを再現できるか試してみた。
BMTモデルが予測するのは、ある動物が到達できる最大の大きさではなく、それぞれの動物グループで「最も多くの種が集中すると考えられる体重」である。
ところが、どのような数値を当てはめても、モデルから予測される体のサイズの分布には、100~300gほどの小さな恐竜が含まれていた。
ところが実際の化石には、成体で300gを下回る非鳥類型恐竜は見当たらない。
つまり、モデル上ではもっと小さな恐竜がいてもおかしくないのに、現実にはそのサイズの恐竜が存在しないのである。
少なくとも、BMTモデルで扱われる体内のエネルギー収支だけでは、極端に小さな恐竜がいなかった理由をうまく説明できなかったのだ。
「小さすぎて化石にならなかっただけ」説
ここで当然浮かんでくるのが、「小さな恐竜も本当はいたけれど、化石として残らなかっただけでは?」という疑問だ。
小さな動物の骨は壊れやすく、そもそも化石として残りにくい。恐竜の化石が大型種に偏りやすいことは、研究者らも認めている。
だが恐竜と同じ時代に生きていた、彼らよりはるかに小さな哺乳類やトカゲ類、両生類などの化石は、実際に数多く見つかっている。
ベンソン氏も上の動画の中で、「本当にネズミほど小さな恐竜は、そもそも存在していなかった可能性が非常に高い」と説明している。
今回の研究では、小型脊椎動物の化石が豊富に保存されている中国東北部の熱河層群と、モンゴルのジャドフタ層の化石の調査も行われた。
すると、こうした小型動物の化石が発見されやすい場所では、恐竜の体のサイズ分布は、世界全体の化石記録よりもBMTモデルの予測に近づくことがわかった。
これは、数kg程度の小型恐竜については、まだ化石記録から抜け落ちている種が相当数存在する可能性を示している。
だが、今回問題にしている100~300g級の小さな成体の化石は、やはりここでも確認されなかった。
そのため研究者らは、極端に小さな非鳥類型恐竜が見つからない理由を、化石の残りにくさだけで説明するのは難しいと考えているという。
小さな世界にはすでに「哺乳類がいた」から?
恐竜の体内のエネルギー収支だけでは説明できず、化石の偏りだけでも説明しにくいなら、何が彼らの極端な小型化を妨げていたのだろう?
研究者らが注目したのが、競争や捕食、生態学的ニッチといった、体の外側から加わる「生態学的な制約」である。
生態学的ニッチとは、生息環境や食べ物、資源の利用方法など、その生物が生態系の中で占める立ち位置のことだ。
例えば、これまで恐竜と哺乳類の関係については、「恐竜がいたため哺乳類は大型化できなかった」という考えが知られていた。
だが今回の研究は、その逆もあった可能性を示している。
そのニッチに入り込もうとする恐竜は、資源をめぐって彼らと競争することになった可能性があるというわけだ。
さらに論文では、他種の恐竜の幼体との競争も、小型恐竜にとっての制約になった可能性が挙げられている。
「小さくなれない壁」を突破した鳥類
ところが恐竜の仲間の中に、「数g」という極端な小型化を実現したグループがいる。それが鳥類だ。鳥類もまた、現在まで生き残っている恐竜の一系統である。
そして前期白亜紀になると、初期鳥類の間に急激な小型化が起こり、それまでの非鳥類型恐竜には見られなかった小さな体を持つ種が現れた。
当時すでに、ラパクサヴィス(Rapaxavis pani)やクルラリスペンニア(Cruralispennia)など、推定10~20gほどしかない初期鳥類が存在していたのである。
ベンソン氏は、この奇妙な「進化」についてこう語っている。
恐竜の祖先は小さくなることができました。そして、現在生きている恐竜の子孫である鳥類も、小さくなることができています。
ところが恐竜そのものは、まるで小さくなることを禁じられていたかのように見える。私たちはその理由をまだ本当には理解していないのです
研究者らが注目したのは、鳥類の急激な小型化が、高度な飛翔能力が進化した時期とほぼ重なっていることだ。
非鳥類型恐竜では、成体で400gを下回る種が見られなかった一方、初期鳥類では30~100gほどの小型種が多く現れるようになった。
研究者らは、飛翔能力の進化によって、それまで小型化を妨げていた生態学的な制約から解放された可能性を指摘している。
空を飛べるようになれば、それまで利用できなかった新しい生態学的ニッチへと進出することができる。
それによって地上で暮らす他の動物との競争など、それまで小型化を妨げていた要因の一部から逃れられた可能性があるというのだ。
孤立した島で生きる動物たちから手がかりが
では本当に、競争や捕食といった周囲の生物から受ける影響が、動物の体サイズを左右することがあるのだろうか。
その手がかりを得るため、研究チームが注目したのが「島」である。島では大陸に比べ、捕食者や競争相手が少なくなり、それまで動物の体の大きさを制限していた生態学的な圧力が弱まる場合がある。
そこで研究チームは「大陸」と、そこから隔離された「島」という異なる環境で、現在生息している飛べない鳥とトカゲ類を比較した。
その結果、大陸に生息する飛べない鳥は小型種が少なかったのに対し、島では小型種の割合が増え、BMTモデルが予測する分布に近づく傾向がみられた。
トカゲ類でも同様に、島に生息する種では、大陸の種よりも実際の体のサイズとモデルの予測との差がわずかに小さくなったという。
これは、動物の体のサイズが体内のエネルギー収支だけで決まるのではなく、捕食者や競争相手など、周囲の生物との関係にも左右されているという考えを支持する結果となった。
なぜ恐竜だけが「極小サイズ」になれなかったのか
恐竜の祖先には、確かに小型のものがいた。そして現在まで生き残った恐竜である鳥類も、数gという極端な小型化に成功した。
それなのに、約1億8000万年にわたって繁栄した非鳥類型恐竜では、成体で数百gを下回るサイズだけが、ぽっかりと抜け落ちている。
今回の研究では、その理由が完全に解き明かされたわけではない。だが、恐竜の体内のエネルギー収支だけでは極端な小型種がいない理由を説明できず、化石の偏りだけでも説明しにくいことが示された。
となれば、恐竜が小型化することを阻んでいたのは、その体の内側にあるものではなく、彼らを取り巻く生態系にあった可能性が示唆される。
哺乳類との競争を含む生態学的な要因は、その謎を説明する有力な仮説の一つとなり得るかもしれない。
References: ew Study Asks: “Where Are the Tiny Dinosaurs?”[https://www.amnh.org/explore/news-blogs/new-study-asks-where-are-the-tiny-dinosaurs] / doi.org/10.1093/evolut/qpag117[https://academic.oup.com/evolut/advance-article/doi/10.1093/evolut/qpag117/8738986]











