時田秀一(本誌ライター)

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就職活動や転職活動において、多くの人が直面する問いは、「安定した基盤の中で働くか」、それとも「実力主義の環境で挑戦し、自己成長を追うか」という選択だと言われている。非常に日本人らしい選択と言えるだろう。
欧米では圧倒的に自己成長や実力主義、成長可能性といった「ハイリスク・ハイリターン」を求める人は多いが、日本人の場合はそこに「安定」という選択肢が加わる。一方で、日本でも欧米型の企業や急成長ベンチャーなど、大きな可能性を有する新興企業たちが伝統的大手企業を凌駕しており、「安定か、挑戦か」という選択で悩む若者は増えている。

大手企業であれば将来の安定性は見込めるかもしれないが、意思決定の場に立ち、大きな裁量権を得るまでに時間を要することも少なくない。一方で、ベンチャーは挑戦の機会は多いものの、収益基盤の不安定さから、短期的な数字に追われ続けるリスクが付きまとう。

この相反する2つの要素を両立させることは可能なのか。本誌では、編集部レポートとして、読者に参考となる事例を紹介しているが、今回はその第二弾。「安定か、挑戦か」という両立しがたい就労スタイルの実現に挑んでいる企業を取り上げてみたい。

東京の下町に拠点を置く「株式会社ファースト」(濱野浩代表取締役社長兼CEO、東京都江戸川区)。同社は、筆者の知人が役員を務める会社であるが、「安定と挑戦」の双方を叶えている企業だ。OA機器の販売から始まった企業だが、現在は定額で企業経営課題を解決する「アイコン事業」、企業の営業活動を支える「ビジネスパートナー事業」、環境ソリューション事業なども行っており、事業の幅が広い。ほかにも、自社で卓球の実業団チームを抱えており、国内最高峰の全日本選手権大会では見事3連覇を果たし、日本一に輝いている。さらに、単なる選手のスポンサーシップにとどまらず、都内に2箇所の卓球スクールをオープンするなど、しっかりと事業化まで実現しているのだから驚きだ。


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今年で創業33年(1993年創業)。社員165名(連結)/ 145名(単体)で大阪・名古屋・福岡に拠点を置き、2社の子会社を抱えるなど、しっかりとした経営基盤を確立している。それでいて、大企業にはない「ベンチャー特有の挑戦的な動き」を堅持している。まさに「大企業の安定」と「ベンチャーの挑戦」を絶妙なバランスで両立させている企業という印象だ。
以下、より具体的に説明はしてゆくが、同社は、「安定を取るか、挑戦を取るか」に迷う就職生にとっては都合のよい選択肢になっているという。

<多角的な事業展開と、地域密着の責任体制とは?>

OA機器事業からスタートして、アイコン事業や卓球事業に至るまで、ユニークなビジネスを展開する同社の特徴を整理してみたい。

まずユニークなのが、アイコン事業だ。聞きなれない言葉だが、一言でいうと、中小企業の経営者が抱える多種多様なお困りごとをヒアリングし、解決策を提示する、月額で経営課題を相談できる事業だ。これまでの盤石な企業基盤や実績がなければできない仕事だろう。
ちなみに商談相手の9割は社長だという。若手のうちから経営者の視点に触れ、課題を掘り起こす経験は、単なる営業スキルの枠を超えた「コンサルティング力」を鍛えてくれる機能もあるようだ。

次に、江戸川区という下町に本社を構える同社が掲げるはビジネスの柱は、「売って終わり」にしない、というモデルだという。
例えば、基幹事業であるOA機器の場合を見てみたい。顧客に販売した機器に不具合が生じた場合、通常の企業であれば、メーカーへの連絡や取り次ぎなどで対応することになるだろう。仲介となった代理店が直接対応することはほぼない。一方で、同社の場合は、不具合の連絡を受ければ、メーカーの対応を待たずに自社の社員が即座に駆けつける仕組みになっている。もちろん、最終的にはメーカーへの取次になってしまうこともあるだろうが、不具合で右往左往している現場に社員が直接来てくれることの安心感が絶大だ。

なお、そのような体制で作られている同社運営のコールセンターでは、一次対応で80%の課題を解決しているというから驚きだ。ちなみにコールセンター内には、販売したすべての商品を取りそろえ、問題が発生した機器と同商品を見ながら解決策を提示しているという。

<「自立した人材」の条件とは?>

安定企業とベンチャー企業、全国展開と地域密着という双方を両立させている同社を率いるのは、濱野浩代表取締役だ。濱野葛飾のワンルームマンションからビジネスをはじめ、風呂場を倉庫代わりにするような環境から、資本金1,000万円を、外部資本を頼らず稼ぎ出し、今のグループを作り上げたという。

濱野氏は次のように語る。

「既存の顧客を訪問していれば、確かに売上は立つ。しかし、それは環境に依存した成果であり、個人の実力とは言い切れない。
その環境に慣れすぎてしまえば、いかなる局面でも生き残れる人材にはなれない。『ゼロから信頼を勝ち取る力』こそが、将来にわたって通用する本物の財産になると考えています」(株式会社ファースト・濱野浩CEO)

この濱野氏の考え方は、同社の社員教員にも色濃く反映されている。
同社では、月に2件の新規開拓ができるまでは、既存顧客への営業活動を認めない、というルールを定めている。一般的な会社にありがちな「新規は若手の登竜門」で「先輩は過去の武勇伝を語る」という若者が最も嫌がるタイプの社員教育がない、いわば非常に合理的な設計になっているのだ。また、濱野氏は次のように力説する。

「既存顧客への訪問は、既に信頼があるため、一定の受容がある状態からスタートできます。しかし、全くの接点がない状態から、自分自身の言葉と提案だけで1件の契約を勝ち取る新規開拓では、ビジネスパーソンとしての純粋な力を身に付けることができるのです。」(濱野氏)

同社に新卒で入社し今年で12年目を迎える柏﨑さんは、月2件新規開拓ルールをはじめ、同社には「安定した環境で挑戦したい人」に適した環境が整備されていると語る。

「12年目を迎えた今も新規営業をやり続けているので、営業力には自信があります。また、商材のラインナップが非常に多いので、様々な角度から顧客の課題を解決する新しい提案ができる武器があるのも私たちの強みです」(同社・柏崎さん)
「成長とは、自身の慣れ親しんだ領域の外に出た時に最大化されます。ファーストは成長を志向する人材に適した環境であろうと常に心がけています。これは私自身の経験に基づいています。」(濱野氏)

取材を通して、同社が「安定と挑戦」のハイブリッド型企業であることを痛感した。実は、こういった企業は日本には驚くほど少ない。


濱野氏は次ように述べる。

「失敗を許容できる経営基盤と評価を持つこと。これが企業として何よりも重要であると考えています。若手社員たちが最初に直面する『稼ぐ難しさ』。ここで挫折しないよう、2年目までは売上金額だけでなく顧客数でも評価する制度を整えています。例えば、導入ハードルの低い商材からでも、頑張りをしっかり歩合として還元する。挑戦に伴うリスクを組織が吸収しつつ、個人の成功体験をサポートする仕組みになっています」(濱野氏)

このような同社の企業風土は、社内での人間関係でも効果的に機能しているという。前出の柏崎氏は言う。

「ファーストの特徴は『社長との距離が近いこと』だと思います。もちろん、社長だけでなく、最前線でがんばる先輩が身近にいて、直接的な指導を受けることができる点は大きな魅力ですね。さらに、ITサポートなどの専門知識を学ぶための資格制度も整備されていて、資格を取得しながら、プロとしてのステップを確実に登れるようになっている点も新入社員、若手社員にはやりやすい環境になっていると感じています。」(柏崎氏)

これまで本誌では様々な企業を取材し、レポートをしてきたが、今回の株式会社ファーストは、濱野社長自身の経験が色濃く反映された非常にユニークな若者ファーストな会社であると感じた。取材の中で濱野氏の「私たちは、株式会社ファーストを『自分の子供を入社させたい会社』にするというビジョンを持っています。」と言う言葉が印象的だ。


前出・柏﨑さんは「なぜ12年以上もファーストを続けているのか」という質問に「結局、とにかくこの会社が好きなんですよね」と迷いなく答えてくれた。なんとも象徴的な回答である。

「安定か、挑戦か」。多くの就活生たちに突きつけられる、いわば「究極の選択」に対して、双方を満たす回答を出してくる企業も今後はどんどん出てくるだろう。

一方で、どんなに建前で綺麗ごとを標榜していても、盤石な経済基盤がなければ、両立はできない。濱野社長は「変化し続けるための強固な基盤と、個人の自立を促す適切な負荷の両立が必要」と述べる。これは日本の企業ではなかなかないハイブリットな感覚だろう。

就職・転職活動において、決して知名度は大手ほどではなくても、同社のように恵まれた環境はある。「安定と挑戦のどちらかを諦めないといけない」と思い込まず、双方が手に入るような、そんな欲張りな選択肢を探してみるのもよいのではないだろうか。
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