キャッツミャウブックス 安村正也さん

最近、本屋さんに行ったのはいつですか?ネット書店で買ったり、電子書籍で読んだりが主流で、もうしばらく店舗には行ってないな……なんて方も多いのではないでしょうか。
お目当ての本を検索して購入するのであればそれで十分ですが「書店」という場所の魅力は、検索ワードだけでは辿り着けない思いがけない出会いがあること。この連載では、全国のさまざまな店舗で働く書店員さんが、プロの目線で担当ジャンルの「お金の本」をセレクトします。


今回お話を伺うのは、“猫本”だけを扱う「キャッツミャウブックス」の安村正也さんです。同店の定義では、本の中で「猫」が一文字でも出てくれば、猫本! 猫に関係あったり、なかったりするおすすめの「お金の本」とは?

漢字一文字でも出てくれば「猫本」。専門店が選ぶ、猫好きに読ん...の画像はこちら >>


会社員とのパラレルキャリアから始まった

私が店主を務める「Cat’s Meow Books(キャッツミャウブックス)」は、2017年8月8日、世界猫の日に東京・世田谷区にオープンしました。
コンセプトは、元保護猫を「店員」として迎え入れ、お店の売上の10%を保護猫活動に寄付をする「猫と本屋が助け合う本屋」。来年で10周年を迎えます。
50歳を前にオープンし、当初は会社員と並行してパラレルキャリアでしたが、現在は本屋専業です。
定年退職まで会社員として勤め続ける自分のイメージが湧かず、老後も続けられる自営業を始めたいと考えて挑戦しました。せっかくやるなら、扱う商品は自分が好きなものがいい。そうなると自然と「本屋」しか浮かばず、「猫と本」にたどり着きました。

1文字でも出てくれば「猫本」宝探しのような棚づくり

猫に関する本を扱う専門店はすでに先輩がいらっしゃったので、差別化を図るためにも、「1文字でも『猫』と出てくる本」を“猫本”と認定して販売することにしました。

漢字一文字でも出てくれば「猫本」。専門店が選ぶ、猫好きに読んでほしい「お金の本」


当初は1冊1冊私が読んで「どこかに猫、出てこないかな」と地道に探していたのですが、最近は出版社さんから「タイトルではわからないですが、実は猫本です!」なんておすすめいただけることも増えてきました。
一見無関係そうな見た目でも「どこかに猫が出てきますよ」と謳われていると、お客様も気になるじゃないですか。紙の本を手に取る機会が減ってきた時代に、いかにもかわいい猫ちゃんの本! だけでなく、ふと目にとまった1冊に宝探しのように手を伸ばしていただくきっかけを作りたかったんです。
猫の書籍専門と聞くと写真集やペット関連本が売れそうですが、実際には小説家さんのエッセイや、さまざまな作家さんの作品が入ったアンソロジーなどがよく手に取られています。開店当初からのベストセラーは『猫の文学館』(ちくま文庫)シリーズ。

太宰治や与謝野晶子、村上春樹など作家たちによる猫にまつわる作品集で、ヒグチユウコさんの装画が印象的です。

漢字一文字でも出てくれば「猫本」。専門店が選ぶ、猫好きに読んでほしい「お金の本」


個人事業主の愚痴から学ぶお金事情

今回「お金の本」というテーマをいただき、少しひねった視点も含めて4冊を選んでみました。まずは、カレー沢薫さんの『寝そべり錬金術』です。

漢字一文字でも出てくれば「猫本」。専門店が選ぶ、猫好きに読んでほしい「お金の本」
『寝そべり錬金術』(カレー沢薫、講談社)

この本の猫要素は、表紙の猫ちゃんのイラストです。ここだけです。これも猫本です(笑)。
作者は、漫画家・コラムニストのカレー沢薫さん。コミックの代表作に『ひとりでしにたい』などがありますが、エッセイもユーモアたっぷりの文体で魅力的です。
寝そべっていたらお金が儲かる? そんな夢のような方法があるのかな? と前のめりになってしまうタイトルですが、当然そんな指南書ではありません。「NISAは『積み立て』する余裕がある人しかできないじゃないか」「インボイス制度が始まって大変だ」など、個人事業主のお金にまつわる愚痴がさまざまな角度から書かれています。
私自身も会社員を辞めて個人事業主になった身。笑える文体ですが、共感できるからこそ笑えないリアルさがありました。これから独立を考えている方には特に必読の1冊です。



命を守るために知っておきたい、法律とお金

2冊目は『ねこの法律とお金 増補改訂版』です。

漢字一文字でも出てくれば「猫本」。専門店が選ぶ、猫好きに読んでほしい「お金の本」
『ねこの法律とお金 増補改訂版』(渋谷寛 監修/ライブ・パブリッシング)

猫を飼うともちろんお金がかかりますし、トラブルを防ぐために守るべき法律もあります。「愛猫が交通事故にあったら治療費は請求できる?」「災害時に避難所に連れて行ける?」「近所の金魚を殺してしまったら?」など、具体的なケースを交えながら、法律やお金の面から飼い主が知っておくべきことが書かれています。
ペットにまつわる法律の本は他にもありますが、この本は猫に特化しているのがポイント。自分が亡くなった時に、愛猫に財産を残すには? なんて、“飼い主の終活”への回答も載っています。
気持ちの上では愛する家族でも、法律上は「モノ」と扱われるのがペットです。だからこそ、人間は知識を持って守ってあげなければいけない、生涯責任を持って飼い続けなくてはいけない、と改めて思わせてくれる1冊です。もちろんトラブルはないに越したことはないのですが、いつかのために読んでおくと役に立つかもしれません。

「犬に最も似ている猫」とは?

3冊目は『数理モデルはなぜ現実世界を語れないのか』。この本を選んだ理由は、目次に「犬に最も似ている猫」という項目があるからです!

漢字一文字でも出てくれば「猫本」。専門店が選ぶ、猫好きに読んでほしい「お金の本」
『数理モデルはなぜ現実世界を語れないのか』(エリカ・トンプソン/白揚社)

「投資はAIに任せておけばいいのでは」なんて言説を最近はよく見かけますが、そのAIやシミュレーション(数理モデル)をどこまで信用していいのか?と警鐘を鳴らす本です。ある意味で、これからの我々の社会の根幹を知ることができる1冊かもしれません。
数理モデルはあくまで世の中を簡略化し、シミュレーションするためのもの。例えば、すべての猫の情報をインプットした上で「4本足で、耳があって、毛がフサフサしていて、この動物は何でしょう?」という条件で聞いても「犬」と出力されるかもしれない——これが「犬に最も似ている猫」の項ですね。
普段読むタイプの本ではないのですが、目次に猫とあったのと、「お金にまつわる本」をテーマにしたこの取材も控えていたので、気になって手に取ったら面白かったです。


本って、そういうところがありますよね。偶然手に取ったり、人にすすめられて半強制的に読んだりした1冊が、予想外に心に残ることもある。「猫本」だからという理由で出会った1冊が、お客さんにとってもそんな存在になったら嬉しいなと日々思っています。

猫本屋の懐事情を、赤裸々に公開

最後にご紹介するのは『夢の猫本屋ができるまで』。実はこれ、当店(キャッツミャウブックス)ができるまでを取材していただいた本なんです。

漢字一文字でも出てくれば「猫本」。専門店が選ぶ、猫好きに読んでほしい「お金の本」
『夢の猫本屋ができるまで』(井上理津子/ホーム社)

本屋を始めるための事業計画や初期費用、クラウドファンディングの進め方、オープン直後の実際の収支などを赤裸々に明かしています。

正直刊行当時は恥ずかしくて嫌だったんですけど……リアルな実情を公開することで未来の誰かの役に立てばいいなと。これからスモールビジネスや個人事業主として何かを始めたい人にとって、参考になる内容だと思います。

私が店を始めたのは50歳手前だったんですが、年を重ねていたからこそできたとも感じていて。これが30代だったら、自分に自信が持てなくて「いつかやろう」の夢で終わっていたかもしれない。長年会社員として仕事をする中で、できること、できないことの見極めもついてきたし、残りの人生に限りがある中でこれ以上“準備”ばかりしていても、と踏ん切りをつけられたのは大きかったです。

「あなただからできたんでしょ」と言われることもありますが、本当に普通の会社員でしたからね。

本当にやりたいことがある人は、まず公言して、何か小さなことでも始めてみてください。一歩を踏み出してみてください。私の経験やキャッツミャウブックスの存在が、背中を押す一助になったら嬉しいです。

編集部おすすめ