ビタミンや食物繊維が豊富なフルーツとして人気のキウイ。国内消費量は年間約12万トンに達する一方、国産生産量は最盛期の約3分の1まで激減している。
農業ライターの鈴木雄人さんは「冬期は毎月100億円もの“チャンスロス”が発生し、この空白に目をつけた外資が国内生産に参入している。需要があるのに国産を増やせない背景には、農産物の“ご当地ブランド戦略”の落とし穴がある」という――。
■「消費量2倍」人気フルーツの危機
スーパーのフルーツコーナーでお馴染みのキウイ。1個あたりのビタミンC含有量はレモンよりも多く、ビタミンE、食物繊維、カリウム、ミネラルも豊富に含まれ、「食べるサプリメント」とも呼ばれている。読者の皆さんのなかにも、毎日一個は食べているという方もいるのではないだろうか。
総務省の家計調査によると、二人以上の世帯におけるキウイフルーツの消費は、データが単独で記録され始めた2005年から右肩上がりの伸びを見せている。
2005年時点では1世帯当たりの年間購入数量は1152g、支出金額は827円であったが、2010年には数量1510g(1073円)、2015年には1911g(1523円)と着実に成長を遂げた。そして2019年には購入数量が2455gとなり、年間支出金額が初めて2000円の大台を突破(2085円)したのである。
2020年代に入ってもその勢いは衰えず、2021年には購入数量が2590gと対象データ期間中で最高の数値を記録した。さらに直近の2024年には、100g当たりの平均価格が長期的に上昇傾向にあることも影響し、年間支出金額は2352円と過去最高を更新している。この金額はすでに梨、桃、柿をのしぎ、ブドウに迫っている。
同年における年間100世帯当たりのキウイフルーツ購入頻度は「574回」であり、平均的な家庭が1年間に約5.7回も購入している計算となる。
過去約20年間で市場規模は約2倍に拡大し、キウイはもはや日本人の食卓に完全に定着したと言える。
しかし、家計での消費が絶好調な一方で、日本の生産現場は崩壊の危機にあるのだ。
■かつて盛んだった「国産キウイ」生産
日本ではニュージーランド産のキウイフルーツがスーパーマーケットに多く並ぶことから、ニュージーランド原産と思われがちだが、実は中国原産の「オニマタタビ」というマタタビ科のつる性植物が祖先である。1904年にニュージーランドに種子が持ち込まれて品種改良が始まり、1959年に同国の国鳥である「キーウィ」にちなんで命名され、世界へと広がっていった。
日本に導入されたのは1966年頃。その後、1970年代にミカンの過剰生産による価格大暴落が起きた際、愛媛県などを発端として、代替の転作作物として全国に広まったという歴史を持つ。そのため現在でも愛媛県、和歌山県、福岡県などミカンの栽培地と重なる地域が国内の主要産地となっている。
国連食糧農業機関(FAO)などのデータによれば、日本のキウイ生産量は1985年の約3.6万トンから急増し、1990年には過去最高となる約6.9万トンを記録してピークを迎えた。
しかし、その後は農家の高齢化や樹の老木化、「かいよう病」と呼ばれる深刻な病気の流行、果実肥大期の高温少雨や猛暑といった温暖化の影響も重なり、減少の一途をたどっている。直近の2024年の収穫量は約2.1万トンにとどまり、かつてのピーク時の3分の1以下にまで生産基盤が縮小してしまったのである。
■輸入依存のキウイ供給
日本の生産が減少するなかで、需要の拡大を支えたのが輸入だ。
直近の2023年のデータを見ても、総消費量約11.8万トンのうち輸入が約9.6万トンを占め、「輸入が8割、国内生産が2割」という極端な輸入依存の構造へとシフトしている。

この日本のキウイ市場において圧倒的なシェアを握り、キウイ消費の倍増を支えたのがニュージーランドの「ゼスプリ・インターナショナル」である。同社はマーケティングやライセンシングを専門に行う巨大組織であり、2024/2025シーズンの売上高は約4700億円(50億NZドル/2026年5月末時点のレートで計算)に達している。
彼らがここまで市場を拡大できた背景には、緻密な戦略とイノベーションがある。まず最大の要因は、「酸っぱい」から「甘い」への品種転換だ。かつて主流だった緑色で酸味のある「ヘイワード」に代わり、2000年前後から果肉が黄色く驚くほど甘い「サンゴールド」などが投入され、酸っぱいのが苦手な若年層の心を一気に掴んだ。さらに2026年からは新たに「ゼスプリ・ルビーレッド」なども投入し、消費者の嗜好を的確に捉え続けている。
第二に、徹底した品質管理である。
キウイの品質を決める上で欠かせない「ドライマター(果実から水分量を取り去った状態)」の検査と追熟のコントロールが徹底している。収穫直後のキウイは硬く酸味が強いが、エチレンと呼ばれる植物ホルモンの働きによって成熟が促進される。ゼスプリは、低温環境で保管することで追熟の進行を遅らせ、必要に応じてエチレン環境に置くことで、出荷時期や販売タイミングに合わせて熟度を完璧に調整している。
輸出時には冷蔵コンテナを使用し、一定の温度帯を保ちながら輸送することで果実の劣化や過度な追熟を防ぎ、乾燥による品質低下も防いでいる。小売店の店頭においても、綿密な販売計画をもとに追熟管理により、常に食べごろの果実が陳列される工夫がなされている。

こうした生産から店頭までの徹底したリレーによって、「お店に並んだ瞬間が食べ頃」になるシステムを確立したのだ。買ってすぐにスプーンで手軽に食べられるこの仕組みは、タイパ重視の現代のライフスタイルに完璧にマッチしたのである。
第三に、2016年に誕生した「キウイブラザーズ」による強烈なマーケティングが成功を収め、「パワーフルーツ」としての健康メリットをポップに伝え続けることでリピート購入を強固なものにした。キウイフルーツのキャラクターたちが踊っているCMが記憶に新しい人も多いだろう。
■冬にキウイが店頭から消えるワケ
ここで非常に重要な事実がある。
キウイフルーツは、「春~秋(4月~11月)はニュージーランド産を中心とした輸入品」「冬~春(12月~3月)は国産品」というように、メインの出荷時期が明確に分かれているのだ。
つまり、同じ時期にスーパーの棚を奪い合い、国産の不足分を輸入が直接穴埋めしているわけではない。ニュージーランド産が流通する「春~秋の市場」がマーケティングの成功等により劇的に拡大したのに対し、本来国産が担うべき「冬~春の市場」は、生産量の減少によって拡大する需要に応えきれず、完全に取り残されてしまったのが現在の日本の姿なのである。
輸入が国産を駆逐したのではなく、ニュージーランドが担う「春~秋の市場」が戦略的に生産拡大したのに対し、国産が担う「冬~春の市場」は高齢化と担い手不足により、空洞化してしまったと言える。
■毎月約7500トンの「チャンスロス」が発生
この「季節の分断」を前提に、現在年間約12万トンにのぼる巨大な需要と供給のバランスを月単位で分解してみると、市場の「空白」が浮かび上がってくる。
日本においてニュージーランド産を中心とする輸入品が流通する時期(4月~11月の8カ月間)に、年間消費量の大部分である約10万トンが消費されている。これを月割りで計算すると、1カ月あたり約1.25万トンもの消費需要がコンスタントに存在していることになる。

ところが、南半球のニュージーランド産が出回らなくなり、日本の国産キウイがメインとなる冬から春(12月~3月)の4か月間になると状況は一変する。この時期、日本国内の生産量である約2万トンをすべて市場に供給し切ったとしても、1カ月あたりの供給量はわずか約0.5万トンにとどまってしまうのだ。
本来であれば月間約1.25万トンの需要ポテンシャルがある市場において、供給が約0.5万トンしかない。つまり、実に「毎月約0.75万トン(7500トン)」、小売価格で計算すると約100億円(※)もの需要が満たされずに眠っている、巨大なチャンスロスが発生している計算になるのである。
この国産時期の供給不足により、冬から春にかけてスーパーの売り場からキウイが消え、棚が大幅に縮小してしまう。結果として、消費者がキウイを日常的に手に取る習慣が一度途切れてしまう。
春になって再びニュージーランド産が出回る時期になっても、消費者の購買行動が戻るまでに「ラグ」が生じてしまい、これがキウイ市場全体のさらなる消費拡大を阻害する最も大きな要因となっているのだ。加えて国産キウイはニュージーランド産果実よりもかなり単価が低い。理由は産地ごとの品質のばらつきや、追熟技術が輸入品に品質で劣るためだ。

※キウイフルーツの全国平均価格は1kgあたり1351円で計算。総務省の小売物価統計調査(2026年4月データ)より。
■ゼスプリが日本でのキウイ生産に進出
ニュージーランドがせっかく巨額のプロモーション費用をかけて作り上げた日本のマーケットが、冬場に日本の生産量不足、あるいは不満足な品質の果実供給によって縮小してしまうことに対し、ゼスプリ側は危機感を持っていた。


「通年でキウイが売り場に並んでいる状況を作りたい」「日本人が作れないのであれば、私たちが直接作る」という考えの下に、ゼスプリが直接日本国内でキウイ生産を始めるという行動に出た。
安価となった日本の労働力や、南半球からの輸送コスト削減というメリットにも目をつけ、ニュージーランドのトップ生産者が宮崎県で直営の農園を運営する。その他にも、ゼスプリ傘下の農業法人が佐賀県で生産を開始するなど、九州を中心に海外勢の生産拠点が拡大しているのだ。
また、三重県の農業法人などもニュージーランド企業と連携して生産を始めている。日本のスーパーに並ぶ国産キウイを、海外の企業が日本人を雇用して作っているという現象は、多くの消費者にとって意外な事実だろう。
■ゼスプリVS国内プレーヤーの戦いが始まった
しかし、彼らの目論見は必ずしも順調ではない。
大きな壁となっているのが日本の「過酷な気候」である。ニュージーランドの最高気温が26~27度程度でストレスの少ない環境下で選抜された品種を、最高気温が40度近くになる日本の猛暑に持ち込んでも適応するのは難しい。
香川県庁で長年キウイの品種開発に携わり、現在はキウイをはじめとする果樹栽培を行う農業法人Orchard&Technology代表の末澤克彦さんによれば、「ストレスまみれの環境下では、実年齢に対して肉体年齢が一気に老化してしまうようなもの。ニュージーランドのマイルドな自然環境で育つキウイと同じパフォーマンスを日本で発揮させるのは容易ではない」という。その結果、収量や品質等でかなりのハンディキャップが生まれてしまう。
これに対し、国内プレイヤーも、香川県で県独自の国産の品種を使いながら、この空白市場を狙って大規模生産に乗り出す動きを見せている。

■生産拡大を阻むライセンス問題
その筆頭が、末澤さんが率いるOrchard&Technology株式会社だ。次稿で詳しく紹介するが、ポイントは、脱「匠の技」とオリジナル品種の栽培である。
まず高齢化による担い手不足を補うために、職人技だったキウイ栽培をAIなどを用いて「誰でもできるもの」に変え、さらに効率化させる工夫で、地域の協力農家とともにグループで年間30~40トン規模のキウイを生産している。オリジナル品種については香川県産オリジナル品種を用いて付加価値を高めている。
しかし、さらなる拡大を考えたときにネックになるのが、同社が主力として栽培する「さぬきキウイっこ」や「さぬきゴールド」など、県オリジナル品種のライセンス問題だ。これらは香川県が独自に改良を行い育成者権(ライセンス)を持っている品種であるため、県外での栽培が原則として認められていないのである。
末澤さんは次のように指摘する。
「自治体が県民の税金を使って品種を開発している以上、県の農家や利益を最優先に守らなければならないのは当然です。しかし、そのために農業が『タコツボ化』しやすく、拡大しないという構造的な問題があります。各都道府県が小さなマーケットを抱え込んでいる間に、外国がグローバルスタンダードを押さえに来ているのです」
■攻めの知財戦略が必要だ
ゼスプリは、自国に優良品種を抱え込むのではなく、ブランドや種苗の権利を管理しつつ、あえて海外の生産者へ公式ライセンスを供与している。
たとえば、ニュージーランド産が出回らない時期にもスーパーの棚をキープし続けるため、イタリアなど北半球の農家に種苗と栽培技術を提供して委託生産させている。日本進出もその一環なのだ。
こうした種苗販売やライセンス事業単体の収益だけでも今や500億円以上にのぼると言われており、その利益は株主であるニュージーランドの生産者に還元され、さらなる新品種開発の原資となる強力なエコシステムを築き上げているのだ。
その一方で、自社の品種「サンゴールド」などが中国で無断栽培された際には、徹底的な訴訟と厳格なコントロールで防衛している。自社のルールや品種を「グローバルスタンダード」にするため、世界規模での知財覇権争いを強力にリードしているのである。
ニュージーランドゼスプリのビジネスを学べば、日本の農業の未来戦略は明確である。それは国内市場での産地間競争という消耗戦からの脱却であり、標準化、規模拡大、人材育成、オールジャパンでのビジネス展開である。後編では、稼げるキウイビジネスを実現する末澤さんの取り組みを紹介する。

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鈴木 雄人(すずき・ゆうと)

農業ライター

1997年、茨城県石岡市生まれ。農学部を卒業後、青果卸会社に就職。全国の農家と繋がり、現地で得た情報を発信することで、農業界を盛り上げていきたい。という気持ちが強まり、約2年勤めたのち退職。2022年より、車中泊で全国の農家を周りながら現地で得た情報をメディアやSNS、ブログ「はれのちアグリ~農業情報~」で発信する。

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(農業ライター 鈴木 雄人)
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