最近、世界の投資家が期待する成長企業の顔ぶれに変化が出ている。かつての「GAFAM」から「MANGOS(マンゴーズ)」へ、経済の牽引役はバトンタッチした。
GAFAMとは、グーグル、アマゾン、メタ(旧フェイスブック)、アップル、マイクロソフトだったが、MANGOSはメタ、アンソロピック、エヌビディア、グーグル、オープンAI、スペースXの頭文字をとったものだ。
株式市場が活況を呈し、新たな成長神話が登場する。それにより株価は一段高くなる。こうした変化は、過去の相場展開の中でもよく見られた。また、株式市場で新しいトピックが誕生するのである。それに伴い、株式市場は熱狂し株価は急騰する。いつか来た道を辿ることになる。
■このAIブームがずっと続くとは限らない
一方、その熱狂は永久には続かない。いずれかの段階で、高値警戒感から利益確定の売りが出始める。そうなると、相場の不安定性は増すことになる。これまでのケースを振り返ると、高値圏で株価の変動性=ボラティリティーが上昇する環境は、大相場の終焉が調整局面に近づく兆候であることが多かった。
今すぐではないとしても、今回のAI相場も、いつかは終焉を迎えることが想定される。
今秋には、アンソロピックとオープンAIの新規株式公開を控える。主要中央銀行が金融引き締めを重視し始めた中での大型IPOに向け、主要投資家は利益確定の売りを増やす可能性がある。
大切なお金を守るため、株式投資に関するリスクをもう一度、慎重に考えてみる必要があるだろう。
■地政学リスクも金利上昇も関係なし?
6月半ば、米国の運用会社は、メタ、アンソロピック、エヌビディア、グーグル、オープンAI、スペースXに投資する上場投資信託=ETFの申請を行った。この6社の頭文字をとって、金融市場参加者の間では、MANGOSが今後の世界経済に高成長をもたらすとの強気心理が一段と高まった。
MANGOSの中でも、オープンAI、アンソロピック、スペースXの3社は、一部の投資家が「AI三銃士」と呼ぶほど成長期待が高い。オープンAIとアンソロピックは、AI開発でトップ・オブ・ザ・ワールドを競っている。スペースXはAI開発に加え、宇宙データセンターの運営を目指している。
AIは、わたしたちの生活や業務の効率化に寄与している。
一部の投資家は、MANGOSが地政学リスクも、政治リスクも、さらには金利の上昇を超越する成長をもたらすと思い込み始めたようだ。3社の成長は、半導体関連分野にも波及的な恩恵を与えるとの楽観も高まった。
■キオクシアの株価は1年半で75倍に
AI関連分野で根拠なき熱狂が広がっている。6月、過度な強気心理の高まりから日米、韓国などの株価は急騰した。日経平均株価は7万2000円台後半まで急騰した。2024年12月、1440円で上場したキオクシアは6月22日に10万8700円に上昇した。韓国ではSKハイニックスの時価総額がサムスン電子を上回った。
米株式市場では、12日に上場を果たしたスペースX株が一時急上昇した。16日の取引時間中、時価総額はマイクロソフトを上回る2.94兆ドル(約470兆円)に増加した。
相場が過熱感を帯びると、強気になって、自己資金に加えて資金を借り入れて株を買う投資家が増える(レバレッジ投資)。わが国では、あまり株式投資をしてこなかった人まで、相場に参戦し始めた。テレビや週刊誌、評論家の御指南、周囲の株式投資熱が影響しただろう。
ただ、MANGOSの中のいくつかの企業の収益は基調として赤字だ。つまり、現実の世界では、まだ、そこまで夢が現実のものになってはいないのである。
■AI需要に半導体生産が追いつかない
多くの投資家は、MANGOSのリスクなどを軽視、無視し、自分たちに都合の良い部分、成長のストーリーにだけ目を向ける傾向があるようだ。
まず、投資家や多くの株式アナリストが予想する成長ペースは、世界経済の実力と乖離し始めたと考えられる。代表的な分野は、半導体だ。現在、台湾積体電路製造(TSMC)、SKハイニックス、サムスン電子、マイクロンテクノロジー、キオクシアなど主要な半導体メーカーの製造ラインはフル稼働状態だ。
各社は、利益率の高いAI向けの演算装置やメモリーチップの生産を増やした。それでも供給は追い付かず価格は上昇した。
家電、パソコンの分野でも、メモリーやマイコンの価格上昇から、値上げを行う企業は増えた。自動車向けのチップの供給にも、影響が出ているようだ。ある意味、AIが半導体を吸い上げ、他の産業への供給に支障をきたしている。これは持続可能な状態ではないだろう。
■スペースX「宇宙AI事業」の実現可能性
次は、AI関連企業のビジネスモデルの懸念だ。スペースXは、宇宙でAIデータセンターを運営するという壮大な構想を掲げている。同社の“スターシップ(再利用型)”の場合、理論上、AIサーバーを最大100台程度運搬する能力はあるようだ。
ただ、宇宙でのエネルギー確保、データセンター建設の技術など、明確になっていない点は多い。AIの開発競争の激化を念頭に置くと、より搭載量の多い大型ロケットの開発も避けて通れない。そうした課題をどう解決し、収益の増加につなげるか不確実な要素は残る。
アンソロピックやオープンAIに関しても、AIが人類の存在を覆すという脅威にどう対応するか、必ずしも明確になっていない。アンソロピックは、AIの開発ペースを落とす考えを示唆したが、それは敵に塩を送ることになるだろう。このままだと、ターミネーターのスカイネットのような状況が世界に出現するとの懸念は高まるかもしれない。
■AI三銃士の残り2社が上場すると…
目先、日米韓台などの株価は、荒い値動きを伴いつつ上値を試す可能性はある。6月、米金融機関の調査によると、世界の投資家は高値を警戒した株式の保有を部分的に削減した。そうした投資家の行動が、足元の株価下落につながったのだろう。AI関連株の推移に関しては約56%の投資家が「ブーム」と回答したという。
過去のバブル、相場ブームのピークでは、投資家の約70%が強気心理に浸ったとの報告もある。世界の株式市場が絶頂期を迎えるまで、もう少し上値はありそうだ。ただ、永久に株価が勢い良く上昇し続けることは考えづらい。どこかで強気相場は転換点を迎えるだろう。
それがいつか予測はできないが、一つのシナリオとして、アンソロピックとオープンAIの上場は金融市場に大きな影響を与える可能性がある。
AI三銃士がそろって上場することに沸き立つ投資家はIPOに参加し、利益を得ようとするだろう。
上場を機に、3社の成長が加速するとの楽観も一時的に膨張しそうだ。それは、演算とメモリー半導体、関連する製造装置メーカーや半導体部材企業の株価押し上げにつながる可能性を持つ。
■世界の投資家が夢から醒めた時
多くの投資家は、AIが世界経済の高成長を可能にすると思い込むかもしれない。短期的に、夢を買おうとする投資家は増えるだろう。強気心理をよりどころに、株式投資で利益を上げることは容易だと誤認することも懸念される。そうした状況こそ、相場急落のトリガーになる恐れが高い。
相場は自分の意のままと思い込む投資家は、価格下落リスクを無視している。その中で、IPO前後で喚起塗りが増えることも、相場の楽観論を挫く要因になるかもしれない。そうなると、株を売る投資家は増える。
売るから下がる、下がるから売るという具合に、弱気心理は連鎖するだろう。株式市場の不安定性が高まる中で、米国の金利が上昇するようだと、消費者や企業経営者のマインドも悪化する。その場合、実体経済にも無視できない下押し圧力がかかるだろう。ここから先の株式投資のリスクは慎重に考えたほうがよいかもしれない。
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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。
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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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