子どもとのコミュニケーションで大切なことは何か。元小学校教員で子育てコーチの潮田学さんは「Aさんとお子さんの例を紹介したい。
Aさんのお子さんはゲームにのめり込み、学校にも行けない日が続いていた。Aさんは必死だったが、どんどん関係は悪くなっていた」という――。
※本稿は、潮田学『「あなたのため」をやめましょう 親のエゴを手放せば子どもは動き出す』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■深夜までゲーム、学校にも行けず
ご紹介するのは、Aさんというお母さんのお話です。
Aさんのお子さんは11歳の男の子で、ゲームにのめり込んでいました。夜遅くまでゲームを続け、寝るのは深夜。朝は起きられず、学校にも行けない日が続いていました。トイレに行くことも忘れるほど夢中になり、実際間に合わなかったこともあったそうです。
そんな姿を見るたびに、Aさんは毎日のように言っていました。
「もう寝なさい!」

「ゲームやめなさい!」

「いい加減にしなさい!」
言いたくて言っているわけではない。でも、言わずにはいられない。親としては当然です。
このままでは、体を壊してしまうかもしれない。このままゲーム依存になってしまったらどうしよう。ますます学校に行けなくなったらどうしよう。そんな不安が押し寄せてくるのです。
Aさんも、何とかしようと必死でした。
ゲーム機を取り上げる。Wi-Fiを切る。ルールを決める。
できることは何でも試しました。けれど、頑張れば頑張るほど、親子のバトルは増えていきました。
隠れてゲームをする。嘘をつく。
言い争いになる。関係は、どんどん悪くなっていきます。
ときにはお子さんが感情を爆発させ、家の中で暴れて警察が来ることもあったそうです。Aさんは、涙ながらに私に言いました。
「もう、どうしたらいいかわかりません」
■「親なんだから、何とかしなければ」
ステップ①その背景にある信念・価値観を見つける
丁寧に見ていくと、Aさんの中にはこんな思いがありました。
「親が管理しないと、この子はダメになってしまう」

「子どもがゲームをやめられないのは私の責任だ」

「親は、子どもを優先しなければならない」
これが、Aさんの中にあった信念・価値観でした。そう思うようになった背景を探っていくと、Aさんの幼少期の話が出てきました。
Aさんは、小さい頃から、ずっと親の顔色を見て生きてきたそうです。怒られないように。嫌われないように。気に入られるように。自分の気持ちは後回し。
いつも、人を優先してきました。
叱られる度に、「自分が悪い」と自分を責め続けてきました。
その中で、無意識のうちに、「自分を優先してはいけない」「全ての出来事は私が悪いからそうなった」という信念を身につけていたのです。
だからこそ、子どもがゲームをしている間も、自分だけ先に寝ることができなかった。自分の時間を持つこともできなかったのでしょう。
「親なんだから、何とかしなければ」

「私が悪いからこうなってしまったんだ」
そんな思いが、Aさんをずっと駆り立てていたのです。
■母親が「本当に伝えたかったこと」
ステップ②その信念・価値観をゆるめ、本当の願いに戻る
ここでAさんは、初めて気づきました。
「私は、ずっと“自分より他人”で生きてきたんだ」

「ずっと自分を悪い子だと責めてきたんだ」
まずは、そのことを責めずに受け止めました。そうせざるを得なかった自分。そうやって、存在を守ってきた自分。その自分に、「つらかったよね」「たくさん我慢してたよね」「もう自分を大切にしていいよ」とやさしく寄り添っていきました。そして、問いかけました。

「本当に、ゲームをやめさせることが大切なのだろうか?」

「本当に、自分を後回しにすることが必要なのだろうか?」
少しずつ、これまでの信念を揺さぶっていきました。
すると、Aさんの中にこんな言葉が浮かんできました。
「人は人。私は私」「まずは、自分を大切にしていい」「ゲームとどう付き合うかは、この子の問題」。
そのとき、ようやく見えてきた本音がありました。
それは、「あなたに健康でいてほしい」「元気に毎日を過ごしてほしい」「一緒に笑顔で過ごしたい」という、シンプルな願いでした。
「親としての責任」「自分責め」という恐れから、ゲームをやめさせたいのではない。
私が安心するためにコントロールしたいのでもない。ただ、大切だからこそ、元気でいてほしい。それが、本当に伝えたかったことだったのです。
■子ども自らゲームを早く切り上げ始めた
ステップ③本音ベースで伝え直す
その日、Aさんは初めて、こんなふうに伝えました。
「お母さんね、あなたに元気でいてほしいと思ってる」

「夜はしっかり眠って、体を大切にしてほしい」

「どうしたら、ゲームも楽しみながら、体も大事にできるかな」

「時間は、あなたが決めていいよ」

「お母さんは、先に寝るね」
それまでとは、まったく違う言葉でした。
責める言葉ではなく、本音を伝える言葉。管理する言葉ではなく、信じて任せる言葉。
すると、不思議なことが起きました。その日から少しずつ、お子さんは自分でゲームを早めに切り上げるようになったのです。
最初は明け方までやっていたのに、12時になり、11時になり、やがて、夜9時や10時には寝るようになりました。自分で起きられて、学校にも行ける日が増えてきました。
子どもを動かしたのは、強い言葉や無理強いではありませんでした。親が、コントロールを手放し、本音でつながろうとしたこと。それが、子どもの中にある“自分で選ぶ力”“成長したい、良くなりたい”という欲求を呼び覚ましたのです。

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潮田 学(うしおだ・まなぶ)

子育てコーチ・教育者

小学校教員として15年間、担任や特別支援級、通級指導教室などで多くの子どもと保護者に関わる。自身の学級崩壊の経験から、心理学・脳科学・コーチング等の人間理解を体系的に習得。コーチングスクールを経て独立し、現在は仲間と立ち上げた学習教室で塾長を務めながら親子関係改善の講座を提供している。
Instagramでは子育ての声かけやマインドを発信し、フォロワーは8万人超(2026年6月現在)。親子関係を根本から整える「声かけ」と「心のあり方」をテーマに精力的に活動中。

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(子育てコーチ・教育者 潮田 学)
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