※原稿内の電気料金試算は31円/kWhで行っている(全国家庭電気製品公正取引協議会が定める電気料金目安単価)
■エアコンの設定温度は28℃にしなくていい
暑さをこらえた涙ぐましい努力も、実はたいした節電になっていないかもしれない。そればかりか、例年以上の猛暑が予想されている今夏、命に関わる可能性すらある。
風量や風向き、設定温度、除湿と冷房の使い分け、メンテナンス――。エアコンの使い方をめぐっては、真偽不明の情報が飛び交いがちだ。正しく、電気代もお得に賢く使うためにはどうすればいいのか。東京電力エナジーパートナーに在籍し、テレビ東京の「TVチャンピオン」のスーパー家電通選手権で優勝した「家電王」の中村剛さんに、エアコンにまつわるよくある誤解や勘違いについて解説してもらった。
まず中村さんが指摘するのが「冷房28℃設定神話」の罠だ。2005年、環境省は温室効果ガス削減を目的とした「クールビズ」の一環で、「オフィスの室温は28℃に。軽装などの工夫で涼しく過ごそう」と呼びかけた。以降、「エアコンは28℃設定に」というイメージが定着してきた。ただ正直なところ、28℃設定の部屋、モワッとしないだろうか。特に日中、気温が高い時間帯は汗ばんでしまう時さえある。
これについて中村さんは「設定温度が28℃だからといって、室温が28℃になるとは限りません。国の指針は正しくは室温が28℃なのです」と指摘する。
「住宅環境によるんです。特に断熱性の低い住宅の場合、エアコンをつけていても室温にムラが出やすくなってしまいます。室温を28℃にするためには、設定温度は26℃にする必要がある場合も。『国が推奨しているから』と28℃設定に縛られるのではなく、自分が快適で、パフォーマンスを維持できる設定温度にしていくべきです」
■「風量最大」で電気代は跳ね上がらない
比較的高い設定温度でも快適に過ごすためには、風量調節も重要だ。なかには節電のためエアコンは常に弱風にしているという人もいるだろう。しかし、中村さんによると、つけ始めは風量を最大にして、室温を一気に下げてから風量を調節した方が電気代はかからないのだという。
「風量最大」というと、電気代を無駄遣いしているような罪悪感を覚えるが、実はこれもよくある“誤解”。風量を強くすること自体、あまり電気代はかからない。これには、エアコンの仕組みが関係している。
「エアコンは、ヒートポンプと呼ばれる技術で冷暖房を行っています。
同じ理屈で、エアコンとサーキュレーターを併用することも効果的だという。「サーキュレーターを使うと電気代が余計にかかる」と思っている人もいるかもしれない。
しかしサーキュレーターは1日8時間程度回しっぱなしにしても、電気代は月に40円程度(※消費電力5Wで試算)しかかからない上、風が生まれるので体感温度も下がる。ちなみにエアコンの設定温度を1℃上げると年に940円の節約になるというデータもある。(経産省資源エネルギー庁)
また、冷気は下に溜まりやすいため「足元だけ寒い」といったことが起こりがちだが、空気が撹拌されることによって室温が一定に保たれ快適性を高めることもできる。エアコンの風向きを水平にし、少し離れた位置からサーキュレーターを当てるといいそうだ。
■「冷房」か「除湿」か
サーキュレーターの代わりに扇風機ではダメなのか? 中村さんによると「扇風機は人にあてて涼むもの、サーキュレーターは空気を攪拌してムラをなくすものですが、最近は扇風機とサーキュレーターの垣根がなくなってきている」とのことで、最近購入した扇風機であれば代用も可能だという。
ただ、購入から10年以上経過した扇風機は、使い続けるとまれに発火する危険もあるため注意が必要だ。経済産業省は2009年から「長期使用製品安全表示制度」として、経年劣化による事故が多い製品に対して設計上の標準使用期間の明記を義務付けており、扇風機もこの対象となっている。標準使用期間を超えていて、「変な音が出る」「こげたような臭いがする」といった場合は早めに修理に出すか買い替えるのがベターだ。
また、エアコン使用時に迷いがちなのが「冷房」か「除湿」か。特に雨天のジメジメした時などは除湿を使った方が涼しくなるような気もするが……。実はこれもよくある勘違い。中村さんによると「室温が下がってもいいなら、冷房の方が手っ取り早く室温も湿度も下げられます」という。
■除湿で余計に電気代がかかる
「冷房で除湿ができるの?」と疑問に思いがちなところだが、理屈はこうだ。冷房運転では、空気中の水蒸気が冷やされて結露し、エアコン内に水滴がたまる。この水滴をドレンホースで屋外へ排出するため、空気中の相対湿度が下がる。
一方、除湿運転には「再熱除湿」と「弱冷房除湿」の2種類がある。弱冷房除湿は、その名の通り弱い冷房で、温度と湿度を下げていく。
より除湿効果が高いのは「再熱除湿」の方だが、これも冷房と同じ仕組みで空気中の湿度を下げたのち、温度を下げ過ぎないよう、室外機から外に出すはずだった熱を室内に戻し、部屋を暖める。このため、電気代が余分にかかってしまう。
「寒いのが苦手で、温度は下げず湿度だけ下げたいという人は、再熱除湿が良いと思います。
電気代は、弱冷房除湿、冷房、再熱除湿の順に上がっていく。自宅のエアコンの除湿機能がどちらのタイプかわからない人は、一度取扱説明書を確認するといいだろう。ちなみに筆者宅の日立製のエアコンは「カラッと除湿」という名称になっており、これは再熱除湿方式を指すようだ。目的を意識しつつ、賢く使い分けていきたい。
■見栄えを重視して数十万円の損に
「エアコンはとにかくこまめに消した方が節電につながる」――。これもよくある誤解のひとつだ。中村さんによると、外出する時間帯や外出時間によっても左右されるという。ダイキンの調査によると「日中は35分まで」「夜間は18分まで」の外出であれば、こまめに消すよりつけっぱなしの方が電気代が安くなる。
さらに、エアコン本体だけでなく、室外機にも“勘違い”が潜んでいる。昨今、生活感が出がちな室外機をおしゃれに隠せる室外機カバーが人気だ。風雨から室外機を守ることができて、一見エアコンによさそうに思うが、これも勘違い。中村さんは「室外機の全面を囲うようなものは使ってはダメ」と警鐘を鳴らす。
「東京電力の調査によると、室外機にカバーをかけた場合、冷暖房効果が約20%下がったというデータもあります。室外機はヒートポンプの要なので、風の循環を滞らせてはダメなんです。風通しが悪いとショートサーキットという現象が起き、一度排出した熱気が再び室外機に吸い込まれてしまい、エアコンの効きが悪くなるだけでなく、故障の原因になることもあります」
ショートサーキットは、吹き出し口の前に自転車や家具、ブロック塀などが置かれている場合でも起こる。当然電気代もかさむ上、コンプレッサーや基板に負担がかかるため、最悪修理が必要になることも。修理や新品のエアコン購入となれば、数万~十数万円の負担増はくだらない。「エアコンは正常に動いているのに、涼しくならない」という場合は一度室外機を確認した方がよさそうだ。
■大切なのは我慢より知識
室外機と同じくらい重要なのが、フィルター掃除だ。「暑さが本格化する前に一度掃除すれば十分」と思っているなら、それは大きな誤解かもしれない。
「エアコンは大きな空気清浄機のようなもので、稼働中は常に大量の空気を吸い込んでいます。フィルターにホコリがたまると、空気を吸い込む際の抵抗になり、余計な電力がかかってしまいます。また、フィルターをすり抜けた微細なホコリは、内部の熱交換器にあるアルミフィンに付着します。これが詰まると、熱交換の効率が大幅に下がり、電気代が上がるだけでなく、カビの温床にもなってしまいます」
環境省のデータによれば、フィルターの掃除を怠った場合とそうでない場合とでは、冷房時で約4%、暖房時で約6%もの消費電力に差が出るという。
大切なのは、我慢より知識だ。設定温度や風量を抑えて我慢を続けるより、エアコンの仕組みを知り、正しい知識に基づいて賢く使えば、快適さも節約も両立できるのだ。
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市岡 ひかり(いちおか ひかり)
フリーライター
時事通信社記者、宣伝会議「広報会議」編集部(編集兼ライター)、朝日新聞出版AERA編集部を経てフリーに。
AERA、CHANTOWEB、文春オンライン、東洋経済オンラインなどで執筆。2児の母。
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中村 剛 (なかむら・つよし)
東京電力エナジーパートナーお客さま営業部副部長
2002年に『TVチャンピオン』のスーパー家電通選手権で優勝し、銀座にて体験型ショールーム「くらしのラボ」の開設と運営にあたった。現在は家電王として動画『くらしのラボ』をYouTubeとFacebookで毎週配信している他、テレビや雑誌、新聞などのさまざまなメディアで暮らしに役立つ家電情報を発信中。
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(フリーライター 市岡 ひかり、東京電力エナジーパートナーお客さま営業部副部長 中村 剛 )

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