■50年ぶりに首位を失った県都
2025年の国勢調査速報で、茨城県の人口地図が塗り替わった。つくば市26万8991人に対し、水戸市は26万5773人。その差は3218人。水戸は1975年の調査以来、50年間守り続けてきた県内人口首位の座を、ついに明け渡した。2020年からの5年間で人口は4912人減少し、つくば市が増加を続ける一方、水戸は緩やかな減少が続いている。
かつての水戸は、名実ともに茨城の中心だった。1965年の茨城県総合振興計画には、水戸市が県全体の小売販売額の27.6パーセントを占める「県商業の中心地」と記されている。その水戸が、いまや人口では県内2位となった。
もっとも、人口順位が逆転したこと自体が問題なのではない。順位の変化は、県都として街が果たしてきた役割が少しずつ変わってきたことの表れである。
■駅を出るとまず目に入るのは駐車場
水戸駅北口のペデストリアンデッキから地上へ降りると、最初に目に飛び込んでくるのは店の看板ではなく「P」の文字だった。北口から100メートル以内に、独立した時間貸し駐車場が少なくとも5カ所ある。十数台規模の平面駐車場が点々と並び、通りの間口を細かく分断している。路面店が連続するはずの県都の駅前としては、少し意外な風景である。
なかでも目を引くのが、大きな青空駐車場になった一角だ。ここにはかつて、サントピアが建っていた。1978年5月に開業した、渋谷パルコに次ぐ「日本で2番目のファッションビル」と謳われた施設である。2007年5月の閉館後、建物は9年間にわたって残され、2016年にようやく解体された。それから約10年が過ぎたいまも、跡地は駐車場のままである。
もちろん、駐車場が多いこと自体は水戸の失敗ではない。百貨店全盛期から駐車場不足は中心市街地の課題であり、市は駐車場整備計画や駐車場事業経営戦略を策定し、長年にわたって整備を進めてきた。
問題は、その先だった。水戸市は中心市街地活性化の資料で、「モータリゼーションの進展や郊外への大型商業施設の進出等により、徐々に求心力が低下した」と分析している。車社会への対応が進むにつれ、人々は車で目的地へ向かい、用事を済ませるとそのまま帰るようになった。店から店へ歩く回遊は次第に薄れ、中心街は「歩く街」から「車で目的地へ向かう街」へと姿を変えていった。
駅前に並ぶ「P」の看板は、衰退の象徴というより、水戸という街が歩んできた都市構造の変化を映し出している。
■駅から大工町へ歩くほど時代が古くなる
水戸駅を出て大工町方面へ向かって歩く。歩き出してすぐ、墨字の看板を残したまま空になったラーメン店の跡が目に入った。
2025年3月に開業したばかりの店である。閉店を知らせる貼り紙はなく、ガラスの奥はがらんどうのままだ。店が入っていたのは、1994年に閉店した高島屋ローズランドの建物が残る中村ビルの1階。駅から徒歩2分の立地でも、飲食店が1年あまりしか続かない。
この道を進んでいると、不思議な感覚に襲われる。歩けば歩くほど、街並みが少しずつ時代をさかのぼっていくのだ。
駅から5分も歩かないうちに、空きビルや空きテナントが目立ちはじめる。まず目につくのは、金融機関の跡地だ。少なくとも3店舗が閉店・移転し、下ろされたシャッターには「移転しました」の貼り紙が残ったままになっている。
さらに進むと、2010年に経営破綻した消費者金融「武富士」の看板を掲げたビルが現れた。破綻から16年が過ぎても、看板を掛け替える借り手は現れていない。
50号線沿いでは、麻雀店や学習塾、美容室などの間に小さな駐車場が点在し、街並みは歯が抜けたように途切れている。
もっとも、この通りはもともと水戸の商業の中心だった。江戸時代の結城街道を起源とし、水戸駅前へと続く街の大動脈である。1970年代には、この沿道に少なくとも12の大型商業施設が軒を連ねていた。
■県外大手が進出し、撤退後は空洞に
では、なぜここまで街並みが変わったのか。ヒントは『水戸市史』にある。
50号線沿いに集積した大型店は、1977年の時点ですでに似たような売り場構成となり、競争が激しくなっていた。さらに当時の調査では、沿道の小売業74店のうち41店が県外資本のチェーン店だった。地元商業者の参入は限られ、通りの賑わいは県外資本に大きく支えられていたのである。
だからこそ、大手チェーンが採算を理由に撤退すると、その跡を埋める担い手が育っていなかった。いま50号線に点在する空き地や空きビルは、県外資本が引いた後に残された空白でもある。
追い打ちをかけたのが、街の外側で起きた変化である。1999年には県庁が駅から南へ約4キロの郊外に移転し、マイカー通勤の職員が増えた。2005年にはつくばエクスプレスが開業して人口の県南シフトが進み、同じ年に郊外型の「イオンモール水戸内原」も開業した。中心街から人を引き剥がす力は、通りの内と外から同時に働いている。
■花街の駐車場は“昼からほぼ満車”
大工町に近づくにつれ、街並みはさらにレトロになっていく。
通り沿いにはビジネスホテルが目立つ。行き交う人も、観光客というより出張で訪れた会社員が多いのだろう。観光地のように街歩きを楽しむ場所ではない。そんな印象を受ける。ところが、意外な光景があった。
花街の駐車場が、昼過ぎからほぼ満車だったのだ。夜になれば、風俗店やキャバクラ、居酒屋へ向かう人たちでにぎわうエリアである。廃墟や空き店舗が点在する一方、その奥では夜の街がいまも機能していた。
考えてみれば、不思議なことではない。
前編で見た構図と重なる。施設の中で人が集まっていたのは、スーパーやアニメイト、カードショップのように「目的がある場所」だった。そして街の中でも、人が集まっているのは目的を持って訪れる場所だった。
その対照的な存在が、大工町に残る城の形をした建物だ。1980年にソープランド「クイーン・シャトー」として建てられたが、7年で閉店し、以後35年にわたって廃墟として立ち続けた。2022年、大手グループが約10億円を投じて改装し、ソープランド(現「マリン宮殿」)として蘇ったものの、2026年1月、グループの一斉閉店とともに再び廃墟に戻った。
街を歩いていると、投資額の大きさが街を生かすのではないことが見えてくる。人が繰り返し足を運ぶ理由を持てるかどうか。その違いが、街に残る場所と消えていく場所を分けていた。
■水戸そのものは「居場所」ではなくなった
ここまで歩いてきて、水戸でいまも人が集まっている場所の共通点が見えてきた。マイムビルのアニメイト、京成百貨店、そして大工町の夜の街。業態はそれぞれ異なるが、どれも「そこへ行く理由」がはっきりした場所である。
一方で、姿を消していったのは、目的なく歩きながら立ち寄ることを前提にした商売だった。ぶらぶら歩き、目に留まった店へ入る。そんな回遊を支えてきた街の使われ方は、少しずつ成り立たなくなっていった。
点には人がいる。しかし、点と点を結ぶ線が切れている。そのことを象徴する場所が、水戸市民会館と京成百貨店を結ぶペデストリアンデッキだ。豪華な建物をつなぐ陸橋だが、人通りはほとんどない。
2023年に開館した水戸市民会館は、かつて旧京成百貨店が建っていた場所にある。志満津呉服店を起源とする京成百貨店は、2006年に現在地へ移転し、旧店舗の跡地に市民会館が整備された。現在は2階部分のデッキで京成百貨店と直結している。
人の流れをつなぐ仕組みは整った。それでも、市民会館を訪れた人波が、そのまま京成百貨店や周辺の商店街へ流れていく光景はほとんど見られなかった。
接続はしたものの、連続はしていない。通路があっても、人が途中で立ち止まりたくなる理由がなければ、街は通り過ぎるだけの場所になってしまう。
■水戸が問われているのは人が歩きたくなる街を作れるか
水戸市も、手をこまねいているわけではない。立地適正化計画(第2次)では、居住誘導区域内の人口密度を2023年度の1ヘクタール当たり48.7人から、2033年度には50.3人へ維持・向上させる目標を掲げ、コンパクトシティを進めている。駅前ではマンション建設も進み、「買い物に来る街」から「暮らす街」への転換を図っている。
実際、変化の兆しはある。「令和5年度 水戸市歩行者通行量調査報告書」によると市民会館が開館した2023年度、中心市街地の歩行者通行量は前年度比26%増の11万2941人と、10年ぶりに11万人台を回復した。市民会館のある地区の休日の通行量は前年の3.6倍。
来館者は開館からわずか半年で約63万7千人に達し、初年度目標の60万人を早々に上回った(日本経済新聞2024年1月15日付)。直近の2025年度の通行量も12万3595人と、前年度比6.0パーセント増えている。街を訪れる人は、確実に戻りつつある。
それでも、住むことと、歩きたくなる街になることは必ずしも同じではない。実は水戸では、2005~06年にもマンション建設ラッシュが起き、中心部の三の丸地区の人口が9年ぶりに7000人台を回復したことがある(日本経済新聞2006年12月26日付)。
しかし、その居住人口の回復が、街を歩く人の流れを取り戻すことはなかった。マンションが建ち、人口が維持されたとしても、人々が車で郊外へ買い物に向かうなら、点と点を結ぶ線は生まれない。
だからこそ、問われているのは新しい商業施設を建てることではない。人の流れを、もう一度「線」として街につくり出せるかどうか。人が歩きたくなる理由を、街の中に取り戻せるか。その問いに対する答えが、水戸の中心街のこれからを左右することになる。
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杉浦 圭(すぎうら・けい)
街歩きライター
街歩きライター。街歩きを趣味とし、全国各地を巡り歩いてその街ならではの魅力を発見することをライフワークとする。旅行メディアでライターとしても活動し、旅行者の視点を交えながら、街の魅力を多角的に伝えている。
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(街歩きライター 杉浦 圭)

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