健康のために、毎日どれくらい歩けばいいのか。東京都健康長寿医療センター研究所部門長の青栁幸利さんは「より多くの病気を防ぐなら『8000歩/中強度活動20分』を勧めるが、歩数と中強度活動時間の組み合わせによって予防できる病気は変わる」という――。
(第2回)
※本稿は、青栁幸利『すべての病気が防げる長生き歩き』(エクスナレッジ)の一部を再編集したものです。
■1日中家にいる人も2000歩は必須
歩数と中強度活動(※)時間と予防できる病気の関係をよりくわしく見ていくことにしましょう。まず、1日2000歩で中強度活動0(ゼロ)分の場合です。1日に2000歩も歩いていないというのは、外出をほとんどせず、1日の大半を家の中で過ごしている人が想像できます。
※最大酸素摂取量の40~60%を体内に取り込んで行う身体活動。歩きながらなんとか会話できるくらいの速歩き。日常生活では階段の上り下りや掃除など
体力や筋力が衰えた高齢者では、このような人は決して珍しくありません。歩かない生活を続けていると、やがて家の中を歩くのも困難になり、寝たきりになってしまうリスクがあります。そんなにたくさんは歩けなくても、寝たきりになるのだけは避けたいものです。そんな人は、まず2000歩を目指しましょう。体力が落ちて外に出るのがおっくうな人でも、家の中で歩く時間を増やすことは可能です。
たとえば、トイレに行くときに遠回りをしてみたり、足踏みをする時間をつくったりすることで、歩数は増やせます。
テレビのリモコンとか、身の周りのものを取るとき、誰かに頼んでいたのであれば、自分で動いて取るようにしましょう。
今はまだ若く健康な人でも、1日2000歩未満の人は注意しなければなりません。筋力が弱まるだけでなく、運動不足によるさまざまな病気の誘発につながります。年齢に関係なく、1日の歩数が2000歩未満の人は、まず2000歩以上を目指しましょう。
■うつ予防になる歩数は「4000歩」
歩数を4000歩まで増やし、そのうち中強度活動を5分にすると、うつ病が予防・改善できます。中之条研究(※)で、うつ病になった人の身体活動計データを分析したところ、歩数も中強度活動もほとんど足りていないことがわかりました。
※筆者らが、群馬県中之条町の住民の健康状態を20年以上にわたり調べた研究
1日の歩数が4000歩未満、かつ中強度活動をほとんどしていない人で、気分がすぐれないと感じているなら、うつ病のサインかもしれません。うつの人は閉じこもり(引きこもり)がちで、ほとんど外出しません。外に出ないと、1日4000歩を歩くのはむずかしくなります。
また外出しないと速歩きができないので、中強度活動を行う機会も少なくなってしまいます。うつ病の予防や改善には、適度に日光を浴びることが有効です。20分程度外出するだけでも、効果があります。
4000歩以上歩くとなれば、外出しなければまず達成できないので、日光(紫外線)の健康効果も期待できます。
また外出すると、人とのコミュニケーションの機会も増えます。外出先で誰かとちょっとした会話をするだけでも、うつ病の予防や改善に効果が期待できるでしょう。さらに、5分くらいでも中強度活動を行うことができれば、体温が上昇するので、よく眠れるようになります。それによって、規則正しい生活ができるようになり、活動意欲も増してくるのです。
■認知症を防ぐ分かれ道は「5000歩」
歩数と中強度活動時間をさらに増やし、5000歩/中強度活動7.5分になると、認知症や心疾患、脳卒中が防げます。中之条研究では、1日5000歩/中強度活動7.5分以上を行っている人と、それ未満の人では、認知症や心疾患、脳卒中の発症率に明らかな差があることがわかりました。
加齢にともなって歩かなくなると、足腰の筋力が低下するだけでなく、脳細胞が不活性化されることもわかっています。これが認知症を引き起こす原因の1つとされています。また、心筋梗塞などの心疾患や、脳梗塞などの脳卒中は、後遺症が残ると、支援や介護が必要な生活になってしまいます。実際のところ、認知症や心疾患、脳卒中になると、要支援・要介護のリスクが高まることがわかっています。
これに対して、1日5000歩/中強度活動7.5分で、要支援・要介護が予防できることが中之条研究で明らかになりました。
健康寿命とは、支援も介護もなしで日常生活を送ることができる期間のことです。健康長寿を実現したい人にとっては、1日5‌0‌0‌0‌歩/中強度活動7.5分がボーダーラインとなるでしょう。
なお、心疾患や脳卒中は高齢者に多く、死亡につながるおそれのある病気です。健康で長生きしたいのであれば、最低でも1日5000歩/中強度活動7.5分を日々の習慣にしてほしいと思います。
■骨粗しょう症が招く寝たきりリスク
中之条研究では、7000歩/中強度活動15分以上の人は、それ未満の人に比べて、がんの有病率が格段に低いことがわかりました。がんについては、7000歩/中強度活動15分ががんを予防するボーダーラインです。
また、7000歩/中強度活動15分を境に、この活動閾値を超えると動脈硬化や骨粗しょう症、便秘の発生率が低くなることも、中之条研究でわかりました。血管の老化ともいわれる動脈硬化が進むと、心疾患や脳卒中が起こりやすくなります。
しかし、7000歩/中強度活動15分で動脈硬化が予防できれば、心疾患や脳卒中のリスクは低下します。骨粗しょう症は、骨の中がスカスカになって、骨の強さ(骨強度)が低下する病気です。骨粗しょう症になると、骨が折れやすくなります。
高齢者が骨粗しょう症になって骨折すると、それがきっかけで、寝たきりになってしまうこともあります。
骨折による寝たきりを防ぐためにも、骨粗しょう症を予防してもらいたいものです。便秘で悩んでいる人も多いと思います。
便秘は不快なだけでなく、大腸がんをはじめ、さまざまな病気のリスクを高めることがわかっています。7000歩/中強度活動15分を達成するためには、外出の機会を増やすことがポイントです。そして、外を歩くときは、速歩き(中強度活動)を習慣にしましょう。
■8000歩+速歩き20分で高血圧を防げる
次はいよいよ長生き歩き、8000歩/中強度活動20分です。これ以上の人は、高血圧症、糖尿病、脂質異常症になりにくいことがわかりました。本書の読者の中にも、高血圧症と診断された人がいるかもしれません。
しかし中之条研究では、1日8000歩/中強度活動20分以上を行っていた人の中で、高血圧症が発症した人はほとんどいませんでした。高血圧症が発症するか、そうでないかの分かれ目が、1日8000歩/中強度活動20分であるというわけです。高血圧症とともに代表的な生活習慣病と呼ばれる糖尿病も脂質異常症も、1日8000歩/中強度活動20分になると発症率が下がることがわかりました。
■生活習慣病を放置していると…
これらの生活習慣病を放置すると動脈硬化が進行し、心疾患や脳卒中のリスクが上がります。
生活習慣病を予防すれば、こうした死亡リスクの高い多くの病気を防ぐことにもつながります。
生活習慣病の予防や改善に運動が効果的であることはよく知られています。生活習慣病と診断されて、医師から運動をすすめられた人も多いのではないでしょうか。生活習慣病を防ぐための運動はウォーキング、すなわち歩くだけで十分です。その歩数と中強度活動時間が「8000歩/速歩き(中強度活動)20分」ということになります。これを目標に、長生き歩きを習慣にしていきましょう。
■メタボの人は1万歩以上歩く必要がある
8000歩/中強度活動20分は、ほとんどの病気の分かれ目です。この歩数と中強度活動(速歩き)の時間で多くの病気が予防できることが、中之条研究の結果からわかりました。ただ、もう少し歩いたほうがよい人もいます。
それは健康診断でメタボリックシンドローム(以下、メタボ)の判定を受けた人です。メタボで血圧や血糖、中性脂肪などの数値が上がると、高血圧症や糖尿病、脂質異常症のリスクが高まります。メタボの改善には、10000歩/中強度活動30分が必要です。
メタボの原因は体脂肪(内臓脂肪)なので、この脂肪を落とさなければなりません。
そのためには、1日10000歩、そのうち30分を速歩きにする必要があるのです。さらに、肥満の解消やダイエットを目的とする場合は、1日12000歩/中強度活動40分とします。
ちょっとキツいかもしれませんが、早くやせたいと思う人は、このレベルをがんばって続けましょう。メタボや肥満の予防を目的に歩く場合は、中強度活動を20分以上連続して行うと体温が上がって効果が高まります。
つまり速歩きするときは、途中で休みを入れないで、20分以上続けるということになります。20分以上速歩きをすると、脂肪燃焼効率が高まり、メタボや肥満の改善効果が出やすくなります。早く体脂肪を落としたい人は、できるだけ休まずに速歩きをしましょう。

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青栁 幸利(あおやぎ・ゆきとし)

東京都健康長寿医療センター研究所「中之条研究」部門長(運動科学研究室長)

1962年、群馬県中之条町生まれ。トロント大学大学院医学系研究科博士課程修了、医学博士取得(1996年)。カナダ国立環境医学研究所温熱生理学研究部門(1996-1997年)、奈良女子大学生活環境学部(1997-1999年)および大阪大学医学部(1997-1999年)等を経て現職。
群馬県中之条町に住む65歳以上の全住民5,000人を対象に、25年にわたって身体活動と病気予防の関係について疫学調査を実施(中之条研究)。そこから導き出された「病気にならない歩き方の黄金律」は、世界中から「奇跡の研究」「中之条の奇跡」と称賛を浴びるほどの画期的な成果をもたらした。そのため、高齢者の運動処方ガイドラインの作成に関する研究に従事し、種々の国家的・国際的プロジェクトの主要メンバーとして、先進諸国の自治体における老人保健事業等の展開を支援している。近著に、『あらゆる病気は歩くだけで治る!』『図解でわかる!やってはいけないウォーキング』(ともにSBクリエイティブ)、ほか著書多数。

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(東京都健康長寿医療センター研究所「中之条研究」部門長(運動科学研究室長) 青栁 幸利)
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