■「超・早期離職」の原因
「なんで、あんな奴を入社させたんだ!」静かな会議室に、トップの怒号が響き渡りました。
春、希望に胸を膨らませて入社してきたはずの新入社員が、瞬く間に会社を去っていく――。
近年、特に耳にするのが「超・早期離職」の問題です。「ゆとり」「さとり」から「Z世代」へと若者のレッテルは変われど、現場で起きている悲劇の構造は驚くほど変わっていません。
早期離職が起きると、多くの経営陣や現場の管理職は口を揃えてこう言います。「今年の採用はミスマッチだった」「最近の若者は根性が足りない」と。
しかし、断言します。真の原因は「採用」にあるのではありません。「現場の受け入れ体制」と「上司の初期対応」に潜む致命的なミスこそが、彼らの心をへし折り、退職へと追い込んでいるのです。
■「公開処刑」された人事担当者
ここで、私が実際に目撃したある企業での凄惨なエピソードをご紹介します。
その会社では、期待の新人として迎え入れられた若手社員が、なんと入社わずか3日で辞表を提出しました。
「なぜ、たった3日で辞めるような根性のないやつを採用したんだ! お前の目は節穴か!」
新入社員たちの目の前で行われた、人事担当者の「公開処刑」でした。私もその場に居合わせたため、凍りつくような気まずい空気感を一緒に味わっていました。怒鳴りつけられた人事担当者さんとは何度も打合せを重ねていましたが、人柄も良く、誰よりも会社想いの真面目な方でした。
そんな人事担当者さんは深く責任を感じ、居づらくなったのでしょう。数カ月後に会社を去りました。そして、その異様な光景を見せつけられた他の新入社員たちも、「この会社は、何かあればあんな風に全否定されるのか」「次は自分がターゲットになるかもしれない」と強烈な不信感と恐怖を抱きました。
結果的にその年の新人は、連鎖的に次々退職していくという「組織崩壊」を引き起こしたのです。
早期離職の責任を「採用のミスマッチ」や「個人の資質」に押し付けるトップや上司がいる限り、この悲劇は繰り返されます。
実はこの問題、新卒の若手社員に限った話ではありません。即戦力として期待されて入社した「中途入社の社員」にも全く同じことが言えるのです。
■希望とのギャップに絶望する…
致命的その1:新人の「希望とのギャップ」を放置する説明不足
新メンバーが退職を決意する大きな引き金として、近年特に目立つのが「希望とのギャップ」です。新入社員であれば「マーケティング志望だったのに営業に配属された」という配属ガチャへの絶望。中途社員であれば「面接で聞いていた役割や裁量と、実際の業務が全く違う」といった絶望です。
組織である以上、全員の希望を100%叶えることは不可能です。問題なのは、希望通りにいかなかったこと自体ではなく、その後の「上司の対応」にあります。
ダメな上司は、不満を抱えるメンバーに対して「会社の決定だからつべこべ言わずにやれ」「まずはここで結果を出せ」と頭ごなしに押さえつけます。これではモチベーションは完全に底を打ちます。
ここで上司に求められる必須のスキルが「リフレーミング(意味づけの再構築)」、そして「理念共有」です。
・「将来のキャリアにとって、この現場での経験がどう活きるのか」
・「自社の経営理念(存在意義)を実現するために、なぜこのポジションを任せたいと期待したのか」
新卒であれ中途であれ、人は「何のためにこの仕事をするのか」という目的を見失うと、たちまち行き詰まります。ここで「理念の大切さ」を語れるかどうかが分かれ道です。単なる「業務命令」としてではなく、経営理念という会社の大きな目的と、本人の人生や価値観、キャリアの文脈を紐づけて、今の仕事の「意味」を翻訳して伝えること。
この理念共有と説明責任を果たすことなくギャップを放置することは、上司の明確な職務怠慢に他なりません。
■いくら優秀な人材でも入ったばかりで「放置」はきつい
致命的ミス2:忙しさを言い訳にした「無関心」と「放置」
もう一つの致命的ミスは、現場の忙しさを理由にした「放置」です。
多くの職場は現在、プレイングマネージャーであふれ返り、極限状態の忙しさにあります。新しいメンバーが配属されても、じっくりコミュニケーションをとる時間がありません。すると、昭和の価値観を引きずった上司や先輩は、無意識のうちにこう考えてしまいます。
・新入社員に対して
「自分も新人時代は放置されて、先輩の背中を見て育った。お前も自分で仕事を見つけて這い上がってこい」
・中途社員に対して
「即戦力として採用されたプロなんだから、いちいち教えなくても勝手にキャッチアップして動いてくれ」
しかし、この育成・受け入れスタイルは現代では全く通用しません。いくら優秀な中途社員であっても、新しい環境や人間関係の中では最初は「孤独なよそ者」です。放置されることを「自立を促されている」「裁量を任されている」とは受け取りません。彼らにとって放置は「自分は歓迎されていない」「このチームには自分の居場所がない」という強烈な孤立感に直結します。心が折れるのは時間の問題です。
では、忙しい現場はどうすればいいのでしょうか。
・「明日の夕方には時間が取れるから、そこでしっかり話を聞くね」
・「この資料作り、外部から来た君の新しい視点に期待しているよ」
チームビルディングにおいて、人と人との信頼関係を築き、支え合う関係構築は組織を機能させる絶対的な土台です。このような「あなたの存在を承認し、歓迎している」というたった一言のサインがあるだけで、新卒も中途も「自分は見捨てられていない」と安心し、踏ん張ることができるのです。
■連鎖退職の恐怖
これらの致命的ミスを放置したまま、毎年せっせと採用活動を続けるのは、例えるなら「穴のあいたバケツに必死で水を注ぎ続けている状態」です。
新メンバーを迎え入れる側の「意識付け」ができていない現場に、どれだけ優秀な人材を投入しても、次々とこぼれ落ちていきます。
そして、最も恐ろしいのは「連鎖退職の恐怖」です。新しい人が早期離職すると、現場に残されたOJT担当の先輩社員は深い傷を負います。「自分のサポートが悪かったのではないか」「自分がもっと話を聞いてあげていれば」と責任を一人で抱え込み、疲弊していきます。ただでさえ忙しい通常業務に加えて、受け入れのプレッシャーと後悔に押しつぶされ、ついには優秀な中堅社員までもが「もうここではやっていけない」と会社を去ってしまう。これが、受け入れ体制の不備が引き起こす最悪のドミノ倒しです。
■上司の人間臭い寄り添いこそ必要
組織の真の強さは、個人のスキル以上に「人間関係の質」に表れます。
人に無関心な組織は、確実に人を潰します。新入社員や中途社員を、単なる「労働力を補填するパーツ」として扱うのではなく、一人の人間として興味・関心を持ち、愛情を持って接する。そんな人間臭い組織だけが、変化の激しい時代を生き抜き、成長し続けることができるのです。
AIが普及し、業務の効率化やマニュアル化がどれほど進んだとしても、人の心を動かすのは最終的には「人」です。
組織の存在意義を語り合う「理念共有」と、お互いを思いやる「関係構築」。そして、上司の人間臭い寄り添いと「想いの共有(シェアリング)」。一見泥臭く、非効率に思えるこのアプローチこそが、新メンバーの不安を払拭し、彼らを自律的な戦力へと変え、決して辞めない強靭な組織をつくる「最大の武器」になります。
「最近の若者は……」「今回の中途採用はハズレだった……」と嘆く前に、まずは私たち受け入れる側が、彼らに心からの興味と関心を示せているか。胸に手を当てて問い直す時期に来ているのではないでしょうか。
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加藤 芳久(かとう・よしひさ)
組織変革コンサルタント
リーダー育成と組織変革を得意とする。「理念型育成®」を日本で初めて開発・体系化した人財育成の専門家。
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(組織変革コンサルタント 加藤 芳久)

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