富裕層はどんな車を選ぶのか。金融アナリストで富裕層向けの資産運用アドバイザーも手掛ける高橋克英さんは「高級外車のなかでも、SUVの人気が高い。
だが、富裕層が欲しいと思う車が手に入りづらくなっている現状がある」という――。
■都心の地下駐車場に居並ぶスーパーカー
夏休みで賑わう六本木ヒルズや東京ミッドタウン、アークヒルズ、プリンスパークタワー東京など都内の複合施設や高級ブランドホテルの地下駐車場には、さながらスーパーカー博物館のように、フェラーリやランボルギーニ、マクラーレンなどの最新型や限定車にビンテージカーなどが並んでいる一角があったりする。
これら高級外車は、複数台、場合によっては十数台保有する富裕層が、長期契約や月極契約で駐車場を借りているものだ。都内や別荘にも複数台保有しているものの、自宅スペースでは保管できない高級車を都心の高級ホテル駐車場などに駐車しているのだ。なぜ、かような場所に駐車・保管しているのか。当然駐車料金は高額だが、都心にあり自宅からもアクセスがしやすく、多くは24時間出入り可能であることに加え、何よりも高いセキュリティーが確保されているからだ。
実際に、高級外車の販売は好調だ。日本自動車輸入組合(JAIA)の2026年1月から7月までの累計新規登録台数では、フェラーリが前年比164台増加の1007台、ランボルギーニが同65台増加の650台。アストンマーチンは同20台増加の276台、ロールスロイスは同47台増加の303台と、3000万円以上するような「超」高級外車が、相変わらず売れに売れているのだ。
■「世界的なカネ余り」が高級外車に向かう
こうした「超」高級外車の販売が好調なのは、世界的な「カネ余り」により、株式市場や不動産市場が高騰するなか「資産効果」により、富裕層が増加しているからだ。スイスUBSの「グローバル・ウェルス・レポート2026」によると、日本の富裕層は、前年比17万人増え290万人に達している(2025年)。アメリカ、中国本土に次いで世界3位の規模だ。

その勢いは今年に入っても続いており、AI・半導体関連株などの利益確定売りにより多くの「AI株長者」や「キオクシア長者」が誕生している。そして彼・彼女らの資金が、タワマンや別荘の購入だけでなく、豪華海外旅行、高級腕時計、高級ワイン、装飾品などとともに、高級外車の購入にも流れているのだ。
都心の高級外車ディーラー担当者の話では、30代、40代の若き富裕層による来店や購入が増えているという。背景には、「資産効果」もあり、不動産収入や金融資産により若くして働かなくても暮らしていけるストックリッチ、キャッシュリッチな若年層が増えていることがあるだろう。
■「都内屈指のセレブ通り」外苑西通り
筆者は、国内外の富裕層向け資産運用アドバイザーや金融コンサルタントとして高級外車を保有する数多くの富裕層と接している。また、過去10年以上にわたり、白金台、広尾、西麻布、南青山といった都内屈指のセレブタウンを貫き高級外車も多い「外苑西通り」を頻繁に運転している。同じ道を毎日のように運転すれば、毎日のように出会う車があり、今どんな車が人気なのかも手に取るようにわかるものだ。発売されたばかりのフェラーリやランボルギーニの新型車にいち早くお目にかかれるのも外苑西通りの特徴だ。
今回は、富裕層と接するなかで最近実感した、「高級外車」をめぐる現状についてお伝えしたい。
■「ゲレンデ」は強いものの…
高級外車においても、セダンからSUVが主役の座を奪って久しいなか、外苑西通りなど東京都心を走る高級外車SUVでよく見かけるのは、相変わらずメルセデスベンツGクラスの「ゲレンデ」だ。芸能人御用達ともいわれるこの車、グレードやオプションなどを積み上げれば2000万円以上かかる超高級車であるが、リセールバリューの高さもあり、過去10年以上にわたりその人気は不動のものだ。
幾分落ち着いてきたとはいえ、正規代理店では人気が高いディーゼル車やガソリン車を中心に品薄状態が続く。
もっとも、既に多くの富裕層が手に入れ、行き着くところには行き着いており、「他人と同じを嫌う」富裕層では、AMGなどグレードや外装にオプションなどで差をつけているものの、供給量の制約もあり、この先さらに大きく増える状況ではないのかもしれない。
なお、メルセデスベンツのSUVとしては、GLBやGLCなどがあり、まずまず売れてはいるものの、マーケットリーダーというほどではない。また、メルセデスベンツ自体も、中国市場の不振もあり、足元の業績は芳しくない。日本においても、JAIAによる2026年1月から7月までの累計新規登録台数は、前年比2587台減少の91.2%、2万6778台に留まっている。
■EV車が盛り上がらない
メルセデスベンツだけでなく、BMWアウディも同様に業績が低迷しており、日本においても新規登録台数は軒並み前年比割れとなっている。
EV化の流れを先導した欧州自動車メーカーは、新型EVの需要低迷、米国でのEV補助金の打ち切り、中国での国産EVメーカーによる攻勢もあり、総じて業績不振に陥っている。このため、根強い人気のあるガソリン車を復活させたいところだが、一度中止した開発や販売体制をすぐに戻すことはできず、株高によるカネ余りで富裕層顧客は増えているのに、SUVを中心に買換え需要も含め、売る車がない空白期間が生じてしまっている。
EV低迷・中国不振などにより、もともとガソリン車に比べ低いEVのリセールバリューがさらに悪化する悪循環に陥っているといえよう。
それは、ドイツが誇るスポーツカーメーカーであるポルシェにおいても同様の状況だ。
■ポルシェ「マカン」のガソリン車が生産終了
長らく王者ゲレンデと双璧を成してきたのが、ポルシェ・カイエンだろう。弟分のマカンと合わせれば、都心界隈で目にする高級外車SUVでは数的には一番多いのかもしれない。
しかし、ポルシェも急速にEV化を進めてきたため、マカンのガソリン車は2026年7月に生産終了、販売も終了すれば、マカンはEV専用となる見込みだ。
カイエンでも最新となる第4世代にガソリン車はなく、根強い人気を誇る一世代前の第3世代のガソリン車も併売している状況だ。
もっとも、実際に新しいマカンEVに試乗してみれば、そこはさすがポルシェ、加速度や安定感は抜群でポルシェデザインも内外装とも継承されていたりするようだ。だが、これはどの自動車にも言えることだが、EVのリセールバリューの低さに躊躇してしまう顧客は多いのだろう。
■富裕層だからこそリセールバリューを重視
富裕層だからリセールなど気にしないのではと思うが、富裕層だからこそ、資産価値、法人需要、投資商品としての視点から、高級外車購入においても、金融商品や不動産と同様に、流通市場の存在やリセールバリューはかなり重要なポイントだ。
EVにはない、ターボエンジンやガソリン車独特の甲高いエグゾーストサウンドを奏でるエンジン音は、代替できないものだ。
実際、ポルシェは、EVや中国市場の販売不振もあり、株価も業績も低迷しており、日本国内の販売も落ち込んでいる。JAIAによると、2026年1月から7月までのポルシェの累計新規登録台数は、6223台と前年比97.8%に留まり、特に足元の同年7月では、前年7月の823台から426台と前年比51.8%の水準にまで急落している。
なお、ポルシェの看板車でガソリン車である911シリーズの人気は根強く、911GT3といったハイエンドモデルは、相変わらずの2年待ち状態で好調だ。だが、フェラーリやランボルギーニ同様に、そもそもブランド価値維持のため、供給量を絞っている背景がある。
■「ディフェンダー」も多く見かけるが…
ゲレンデやカイエンに続き、元祖ラグジュアリーSUVメーカーとして知られるランドローバーのディフェンダーも都心界隈の高級外車SUVでは多く見かける。
その他、フラッグシップのレンジローバーは見た目も大きく、貫禄ある王者の風格だ。弟分イヴォークやヴェラールなどを加えれば、数的にも相当多い印象だ。

しかし、EV化の流れのなか、7月に受注開始となったディフェンダーの2027年モデルは、一部モデルを除き、ディーゼル車が中心だ。一部にはガソリン車は残るものの、この先、どこまで販売を伸ばせるのかというところだ。
■カネ余りなのに「高級外車SUV」を買えない
ジープのラングラーも不動の人気を誇る高級外車SUVだが、やや若者寄りであること、他社同様にこの10年で価格が大幅に上昇したこともあり、伸びしろは大きくなさそうだ。
その他、マセラティ初のSUV、レヴァンテは既に2024年に生産停止。弟分のグレカーレが健闘中ではある。ベントレーのベンテイガやアストンマーチンのDBX、ランボルギーニのウルスといった超高級SUVも選択肢としてはあるが、購入できるのは富裕層でも限られた一部だ。
カネ余りで富裕層も増えており、高級外車SUV市場は販売拡大の絶好の機会ながら、欧州主要メーカーはこぞってEVシフトを進めた結果、甲高いエグゾーストサウンドを奏で、リセールバリューもいい、「富裕層にとって魅力あるガソリン車」が見当たらない状態となっているのだ。
■注目が集まるトヨタ「ランドクルーザー」
そんななか、漁夫の利を得ているのが、トヨタのランドクルーザーだ。特に、「ランドクルーザー250」のガソリン車が、無骨な外観に加え、オプション選択できる丸目型ヘッドライトなどカスタム領域の多さもあり人気だ。何よりその知名度もあり、リセールバリューがゲレンデやディフェンダーと並び国内で最も高いとされる点も根強い人気の大きな要因である。実際、国内供給が徐々に安定してきていることもあり、都内でも非常に多く見かけるようになった。
一方で「馬力がなく加速が遅い」「乗り心地が悪い」などのSNSコメントもあり、特に高級外車SUVから乗り換えたユーザーにはそう感じるようだ。
もっとも、ランクル250の本体価格は577万9400円(税込)と、ゲレンデ分の予算があれば数台買える価格水準なので、性能などの差はあってしかるべきではある。
■日本車にはチャンス到来
なお、ランクル250のディーゼル車は2026年12月以降発売予定であり、ランクル70は現在生産休止だ。上位モデルのランクル300(ガソリン車)は、新規での注文停止中であり、ディーゼル車のみ注文を受付中である(2026年8月7日時点)。
レクサスLXに関しても国内割り当てが限られており、1年から2年待ちといわれている。トヨタもランクル250のガソリン車などを除けば、カネ余りの富裕層ニーズを満たしきれていないともいえよう。
そんななか、約7年ぶりに復活し年内発売予定の三菱自動車のSUV「パジェロ」も気になる存在だ。根強い三菱ファンが存在しており、高級外車SUVからの一定の乗り換え需要や新規需要には応えそうだ。
世界的なカネ余りを背景に、この状況はしばらく続きそうだ。トヨタや三菱など日本車にとってはチャンス到来。高級外車にシフトしてきた国内富裕層に、改めて日本車の良さを知ってもらう場にできるか否か注目していきたい。

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高橋 克英(たかはし・かつひで)

株式会社マリブジャパン 代表取締役

金融アナリスト、事業構想大学院大学特任教授。三菱銀行、シティグループ証券、シティバンクなどを経て、2013年に株式会社マリブジャパンを設立。
世界60カ国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、京都、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。映画「スター・ウォーズ」の著名コレクターでもある。1993年慶應義塾大学経済学部卒、2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。著書に『銀行ゼロ時代』(朝日新聞出版)、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』(講談社+α新書)、『地銀消滅』(平凡社)、『超富裕層に「おもてなし」はいらない』(講談社+α新書)など。

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(株式会社マリブジャパン 代表取締役 高橋 克英)
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