■「オルカンかS&P500か」
2024年に新NISAが始まって以来、「オルカンとS&P500、どちらを買えばいいですか」という質問を受ける機会が本当に増えた。
「S&P500のほうが値上がりすると聞いた」「でもオルカンのほうが世界中に投資するから安心ですよね」「両方買ったほうがいいのでしょうか」「日本株も一緒に買ったほうがいいですか」
どれも、投資を始めたばかりなら当然抱く疑問である。
ここで言うオルカンもS&P500も、三菱UFJアセットマネジメントによる「eMAXIS Slim(イーマクシススリム)」シリーズの投資信託、新NISAで圧倒的な人気を集めるファンドだ。しかし、「人気だから」という理由だけで選んでしまうのは少しもったいない。両者の違いを知れば、自分にはどちらが向いているのかが見えてくるからである。
今回は、投資初心者が最初に知っておきたいポイントを整理してみたい。
■オルカンとS&P500は何が違うのか
まず、それぞれがどこに投資しているのかを見てみよう。
S&P500は、アメリカを代表する約500社の株式で構成された指数である。一方、オルカン(全世界株式)は、日本を含む世界約50カ国・地域、約3000社の株式に投資する。
これだけ聞くと、多くの人は「オルカンのほうが世界中に分散しているから安心だ」と思うかもしれない。確かに、その考え方自体は間違っていない。
しかし、実際の中身を見ると、多くの人が意外に感じる事実がある。
■オルカンの6割はアメリカ企業の株
オルカンは世界中の株式に投資するといっても、世界中に均等に投資しているわけではない。世界の株式時価総額の割合に応じて投資するため、現在は6割強をアメリカ株が占めている。日本株は約5%程度にすぎない。
つまり、オルカンの半分以上はアメリカ企業なのである。
Apple、Microsoft、NVIDIA、Amazon、Alphabet(Google)など……。世界を代表する企業は、オルカンにもS&P500にも共通して組み入れられている。そのため、両者の値動きは非常によく似たものになる。
「世界に分散しているオルカン」と「アメリカだけに投資するS&P500」は、まったく別の商品と思われがちだが、実際にはかなり重なり合っているのである。
■積立投資ならどちらを選ぶべきか
では、NISAの非課税枠で積立投資を始めるなら、どちらを選べばよいのだろうか。
結論から言えば、初心者であれば、どちらを選んでも大きな間違いではない。違いは、商品そのものよりも、投資に対する考え方のほうにある。
これからもアメリカ経済が世界を引っ張っていくと考えるなら、S&P500を選ぶ。将来どの国が成長するかは誰にも分からないから世界全体を持っておきたいと考えるなら、オルカンを選ぶ。それだけのことだ。
重要なのは、「どちらが正解か」ではなく、自分が納得できる考え方を選ぶことである。
■「半分ずつ買えば安全」という誤解
初心者からよく受ける質問に、「半分ずつ買えば一番安全ではないですか」というものがある。一見すると、たしかに分散投資になっているように思える。
しかし、先に見たとおり、オルカンの6割強はすでにアメリカ株だ。S&P500とオルカンを半分ずつ保有すると、資産全体の8割前後がアメリカ株という計算になる。
もちろん、「アメリカを多めに持ちたい」「他の国の企業の株はごく一部だけでOK」という考えであれば、それは一つの投資判断である。しかし、「分散したいから両方買う」という理由であれば、期待しているほどの分散効果は得られない。
■過去25年はS&P500が勝ってきたが…
ここまで読むと、「それなら結局、S&P500のほうがいいのではないか」と思う人もいるだろう。
実際、2000年以降の約25年間で見れば、S&P500はオルカンを上回るリターンを上げてきた。
ただし、中身を見ると話はそれほど単純ではない。ITバブル崩壊から金融危機を挟んだ2000年代、アメリカ株は「失われた10年」と呼ばれるほど低迷し、この時期はむしろアメリカ以外の株式のほうが優勢だった。S&P500が独走したのは、おおむね2010年代以降の話なのである。
だから、「これからもS&P500が必ず勝つ」と考えるのは早計だ。
1980年代、日本企業は世界の時価総額ランキング上位を独占し、「日本の時代」と言われた。しかし、その後の歴史は多くの人が知るとおりである。
投資の世界では、勝者は入れ替わる。過去25年間の結果は、次の25年間を保証するものではない。ここが、初心者の最も誤解しやすい点なのである。
S&P500を選ぶことは、「これからもアメリカが世界経済をリードする」と考える投資であり、オルカンを選ぶことは、「未来は誰にも分からない。だから世界全体を保有しよう」という考え方に基づく投資である。
■アメリカ経済の「次の10年」をどう見るか
では、肝心のアメリカ経済はこれからどうなるのか。市場関係者の多くは、AI(人工知能)への投資が生産性を押し上げ、企業業績の拡大が続くとみている。S&P500の8月12日現在のポイントは7758だが、大手証券が2026年末には8000ポイントを目標にするのも、この前提に立つ。一方で、株価にはすでに高い期待が織り込まれており、財政赤字の膨張やインフレの再燃、上位数社への一極集中はリスクとして残る。要するに、強気にも弱気にも根拠がある。投資のプロですら見方が割れるものを、個人が当てにいく必要はない。
■ファンド選びより、ずっと大切なこと
投資初心者は、「オルカンにするか、S&P500にするか」で何日も悩むことがある。しかし私は、相談を受けるたびに「その時間の半分でいいので、20年間積立を続ける方法を考えてください」とお話ししている。
商品選びで多少の差がつくことはある。しかし、途中で積立をやめてしまえば、その差は簡単に吹き飛んでしまう。
長期投資では、株価が20%、30%と下落する局面が何度も訪れる。
初心者が気を付けるべきなのは、商品選びで悩み続けることではない。自分が納得できる商品を一つ選び、長期・積立・分散という基本を守り続けること。その積み重ねが、将来の資産形成につながるのである。
■もし5年前に投資を始めていれば…
では、過去5年の成績から、その期間に積み立て投資をしていたら、どうなっていたか確かめてみよう。
三菱UFJアセットマネジメントの「積立シミュレーション」で、2021年6月から2026年6月まで、毎月5万円を積み立てた場合を試算した。買付は60回、元本は合計300万円である。
オルカンだけを買い続けた場合、資産は534万1164円になった。S&P500だけなら541万1892円である。その差は約7万円。元本300万円に対して2%強にすぎない。
では、両方を2万5000円ずつ買った場合はどうか。
この5年間で資産はいずれも1.8倍前後になった。しかし、どれを選んでも結論はほとんど変わらなかったのである。
一方、途中には2022年後半のように、評価額が元本を割り込む局面もあった。差がつくとすれば、それは商品選びではない。その局面で積立をやめずに続けられたかどうかである。
■実は一番資産が増えたファンド
5年間毎月5万円ずつインデックス・ファンドに投資すると元本が約1.8倍になるということだ。単利ベースで考えると年約16%のリターンである。
積立投資はカメの歩みに似ているが、かなりの成果を収めることができることを忘れてはならない。
また、図表3をご覧いただきたい。この期間、日経平均連動ファンドのeMAXIS Slim国内株式(日経平均)で積立投資をすると、300万円の元本が2.32倍になって、640万4567円まで増えていた。オルカン、S&P500の分散投資より約100万円も高い。
つまり、投資効率からすると日経平均に投資をするのが、最もよかったということになる。
これはなぜか?
2024年12月に35年ぶりに高値を更新までは、3.5年で1.38倍と株価は上昇しているが、オルカンやS&P500と比べて飛びぬけているわけではない。ところが、それから、約1.5年間の間に株価は1.68倍になっている。
高値更新を機に、日経平均は上昇期に入ったようだ。
それなら、今後は日経平均に投資すればよいのか?
株価を20年から30年くらいのスパンでみると、また、主役が入れ替わり、S&P500やBRICSの株式が上昇するかもしれない。
今回の日経平均の上昇も20年から30年ぐらいで見ると、「長い循環の一局面」だろうが、当面はその動きに注目すべきだろう。
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浦上 登(うらかみ・のぼる)
コンサルタント
早稲田大学政治経済学部を卒業後、三菱重工業に入社、海外向け発電プラントの仕事に携わる。ベネズエラ駐在、米国ロサンゼルス営業所長などを歴任後、三菱重工グループの保険代理店に移り、取締役東京支店長。2009年にはファイナンシャル・プランナーの上位資格CFPを取得。2017年にサマーアロー・コンサルティングを設立、著書に『70歳現役FPが教える 60歳からの「働き方」と「お金」の正解』(PHP研究所)がある。
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(コンサルタント 浦上 登)

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