スマホを手放せない子どもが増えている。小児科医の小林茉保医師は「睡眠・メンタル・学力、世界の研究からもさまざまな面で影響があることは明らかだ。
ただし、必要なのは“スマホを使わせないこと”ではなく“どのように、どれだけ使うか”の基準をもうけることだ」という――。
■際限なく延びる子どものスマホ使用
先日、夕食の準備をしていたときのことです。
中学生の娘が宿題を広げながらスマホを手放しません。
「調べ物をしているの?」と聞くと、「うん」と答えましたが、クスクス笑いながら画面を見ている姿は、とてもそうは見えませんでした。
数分後「お母さん、聞いて。○○(友人の名前)が言ってるんだけどね、すごくおもしろいの!」と話し始め、メッセージのやり取りをしていたのだと悪びれることもなくあっさり白状しました。
「やっぱり……」と思う一方で、「実際今の子どもたちはどのくらいのスマホ利用時間を勉強以外にとられているのだろう」と気になりました。
実は友人からも「うちの子も『調べ物をしている』と言いながらメッセージや動画に夢中になっていることがしょっちゅうあるよ」という話はよく聞きます。
最初は英単語を調べていたはずなのに、通知が来てついLINEやSNSを開いてしまう。休憩のはずで見始めた動画がやめられなくなり、延々と見続けてしまう。学習と娯楽や交流、それが同じ端末にあるからこそ、切り替えが難しいのです。
目の前の端末に「しなければいけないこと」と「今すぐしたいこと」が一緒に詰まってせめぎ合っているから、子どもたちもいつも揺らいで、そして葛藤しているのだと思います。

■「1日2時間まで」条例ができた
毎日診療をしていると、頭痛や倦怠感を訴えて来院する小・中学生に多く出会います。
必ず問診で「毎日何時間スマホやタブレットを使っていますか」と聞きますが、「色々制限はしているのですが、実際どのくらい使っているか全ては把握できていません」とおっしゃる親御さんも少なくありません。
「学校にいる間はスマホをロッカーにしまうこと」という規則がある学校も多いかと思いますが、先生に預けるわけでないのであれば、きっと使おうと思えば使えてしまうでしょう。
現在、子供のSNS・スマホの利用を制限する動きが世界的に広がっています。
昨年12月には、オーストラリアで16歳未満のSNS利用を禁じる法律が施行されました。インドネシア、マレーシアなどのアジア圏、また、フランス(15歳未満)、スペインなどヨーロッパでも規制に向けた動きが進んでいます。
日本も例外ではありません。愛知県豊明市では、子どもたちを中心としたスマホの過剰使用を防ぎ、睡眠時間を確保することなどを目的に、余暇での使用を1日2時間以内とする目安などを盛り込んだスマホ条例が2025年10月より施行されています。
条例自体は市民全体を対象としていますが、その中でも特に青少年の健やかな生活習慣を守ることが大きな狙いとされています(小学生以下は午後9時まで、中学生以上は午後10時まで)。
罰則も強制力もないものの「私的な時間に行政が踏み込みすぎ」、はたまた「効果が乏しい」といった批判もあり、それぞれに納得する面もあります。家庭ごとに事情も価値観も異 なる中で、一律の「目安」を行政が示すことに違和感を覚えるのは自然なことです。
それでも、市長が強調した「各家庭で話し合うきっかけに」という点にはやはり一定の意味があると感じます。
押しつけとしてではなく、あくまで対話の入口として受けとめるのであれば、このような取り組みが社会全体で子どもたちのスマホとの向き合い方を考える契機になる可能性もあるでしょう。
■1時間増えるごとにうつリスクが高まる
実際、科学はスマホ利用を制限することに、一定の意義があることを示しています。
2025年6月、医学誌『JAMA Pediatrics』にこうした実態に関連するアメリカの研究が発表されました。対象は9~10歳の子ども976人。うつ症状は9~10歳時と11~13歳時の2時点で調べ、睡眠時間と脳の白質構造は11~13歳時に測定した、というものです。
結果として、スクリーンタイムが1時間延びるごとに、2年後のうつ症状スコアが平均0.12ポイント高いことがわかりました(95%信頼区間0.04~0.20、P=0.008)。
差はごく小さなものですが、統計的には有意といえます。
ただし、ここから「スマホを使うとうつになる」と結論づけるのは短絡的です。
この研究のすばらしさは、このうちおよそ3分の1以上で、うつ症状が「睡眠時間の短縮」と「脳の白質構造の変化」という2つの要因によるものと推定できた点です。
研究チームが拡散MRIという手法で、脳神経のネットワークが集中する「白質」の成熟度を解析したところ、特に感情の調整に関わる「帯状束(cingulum)」、前頭葉同士をつなぐ「小鉗子(forceps minor)」、側頭葉と前頭葉を結ぶ「鈎状束(uncinate fasciculus)」のうち、睡眠時間が短い子どもほど帯状束の組織化がわずかに低い傾向がみられました。ほかの二つの線維路では、統計的に有意な関連はみられませんでした。
すこし複雑になってしまいましたが、この結果から見えてくるのは、次のような一連の流れです。

まず、スクリーンの使用時間が長くなると、夜ふかしにつながりやすくなり、結果として睡眠時間が短くなります。
十分な睡眠がとれない状態が続くと、情動の制御に関わる白質ネットワークの成熟過程に影響します。これが将来的なうつ症状の出現リスクを高める可能性があるのです。
もちろん、これも完璧な研究ではありません。今回の調査の対象や手法には、以下のような限界があるからです。
【この研究の限界】
① 参加している子どもの社会経済的要因、家庭環境(親のスマホ使用習慣、学習環境、MRIをとりに行けるような家庭)、身体活動量、栄養など、調整しても取りきれない交絡因子が影響している可能性がる。
② スクリーンタイムや睡眠時間は子どもや保護者の自己申告に基づいているため、主観的なバイアスが含まれていたり、過少あるいは過大に評価されていたりする可能性がある
③ デバイスの目的が、学習なのか、SNSか、あるいはゲームなのか、区別されておらず、スクリーンタイムの増加によるポジティヴな効果については触れられていない
④ 睡眠と白質の変化で説明できた36%以外の64%は他の要因があったと考えられる

それでも、この研究は「睡眠を削ることが子どもの心の発達に影響する」という点を、脳画像を用いて科学的に示した点で価値があるといえます。
スクリーンそのものが悪者ということではなく、睡眠という土台が揺らぐことが子どもの心の発達に影響するということです。
■学校時間の4分の1がスマホに
では、睡眠に影響しなければ際限なく使ってもいいのかと言うと、そういうわけではありません。
2025年4月には、医学誌『JAMA Pediatrics』に、中高生が学校にいる間どのくらいスマホを使用しているかを客観的に測定した研究結果が掲載されました。
アメリカの13歳から18歳を対象とし、自己申告ではなく専用アプリで使用時間を記録した信頼性の高い調査です。
その調査からは、学校にいる時間(6.5時間)のうち平均1.5時間をスマホに費やしており、クラスの4人に1人は2時間以上使用していることがわかりました。

1.5時間というと授業1~2コマ分、全体の4分の1ほどの時間です。
ここでいう「学校にいる時間」には授業だけでなく休み時間や昼休みも含まれていますが、体育などの実技教科では物理的にスマホに触るのが難しいでしょうから、やはり決して短いとはいえません。「想像より長い」と感じたのは筆者だけではないと思います。
そしてよく使われていたのは、Instagramが平均25分、TikTokは19分、メッセージアプリも同じく19分、動画視聴が17分で、学習支援アプリや「調べ物」は上位には入っていませんでした。
予測できたといえばそうかもしれませんが、やはりもう少し勉強に使っていてほしかったというのが正直な親心でしょう。
ちなみに、女子は男子に比べて30分弱、高学年(16~18歳)は低学年(13~15歳)に比べて平均で30分以上、使用時間が長かったこともわかっています。
もちろん、この研究にも限界もあります。
【この研究の限界】
① 観察期間が平均3日間程度と短いこと。もう少し長期間の観察をするとより詳細なデータが得られると考えられます。
② iPhoneでは一部のアプリが計測できません。つまり、実際の利用時間はもっと長い可能性があるということです。

親の目が届かない学校でスマホをどのくらいの時間、どんな目的で使っているのか……。

調査ですべてを明らかにすることはできませんが、こうした研究・調査は、私たちが子どものスマホとの付き合い方を改めて考えるきっかけになるでしょう。
■スマホ時間と学力との不都合な関係
ここで気になるのは、こうした学校でのスマホ利用が、実際にどのように学力へ影響するのか、という点ではないでしょうか。
OECD が2024年に公表した報告書(Students, digital devices and success)では、OECD加盟国で15歳の子どもを対象におこなわれた調査が紹介されています。
ここでは学校でのスマホやタブレットの長時間利用は数学の成績の低さと関連することが示されています。
最も成績が高かったのは、必要な場面で短時間だけ(1時間以内)使う生徒です。利用時間が増えるほど得点が下がる“逆U字型”の傾向が明確でした。
とりわけ、SNSやネットサーフィン、ゲームなど娯楽目的で使用する生徒たちはその傾向が高く、5時間~7時間使用した生徒の得点は、最も高得点の生徒たちに比べて49点低くなるという結果になりました。
また、興味深いのは、本人が使っていなくても周囲の生徒の端末の操作によって集中が途切れ、そのことが成績と関連していたという点です。
授業中に他の生徒のスマホに気を取られる経験が多いほど、とくに数学では得点が低いことが報告されており、教室内にスマホが存在するだけで注意が削がれてしまう可能性が示唆されています。
つまり、問題は単に「スマホを使うか使わないか」ではなく、どのような目的で、どれくらい使い、どのような環境で学ぶかという点にあるのです。
■境界線は大人が示す必要がある
このような調査の結果もふまえ、筆者自身は、以下の2つの理由から、学校でのスマホ使用は基本的に控えるべきだと考えています。
① 授業中の集中を妨げやすく、SNSを見ていた直後に頭を「勉強モード」に切り替えるのは簡単ではないこと。

② 「使っていい時間とそうでない時間」を子ども自身がコントロールするのは難しく、気づけば常にチェックしてしまう危険があること。

しかし実際には、中高生のスマホ保有率は、中学生は80%、高校生は95%を超えており(「こども家庭庁(旧内閣府)青少年のインターネット利用環境実態調査 2025年度」)、中学生の17.5%、高校生の90.2%が学校にスマホを持ち込み、実際に使用していることを示す調査もあります(MMD研究所、2019年調査)。
学校は勉強だけの場ではなく、友だちとの交流の場でもあります。その意味でスマホが果たす役割も理解できます。行ってみたいカフェ、他の友人の投稿、最新の動画、そういったもので盛り上がるのも青春の一幕といえるでしょう。
また、スマホの誘惑に弱いのは子どもだけではありません。大人だって会議中についスマホをのぞいてしまうことがあります。そう考えると、子どもが学校でSNSを開きたくなるのも「人間らしい行動」なのかもしれません。
しかし、スマホの使いすぎが子供たちに与える影響を考えれば、どこまで許容するのか、大人が明確に示す必要があるのではないかと思います。本稿でお伝えした問題以外にも、スマホやSNSを発端に、犯罪に巻き込まれる、いじめに発展するなどという事例も報道されています。
■「スマホを制限する」以上に重要なこと
ただ、全国の自治体で愛知県豊明市のような条例がすぐにできるわけではありません。また、前述の通り、条例があったとしても強制力はなく、結局のところ、現段階では個々の家庭で対処するしかありません。
・スマホ使用可能時間をアプリで制限する

・食事中や寝る前にはスマホを手放す
などの家の中でのルールに加え、以下のような「学校でのルール」を子供と約束するのも一つの手かもしれません。
・学校ではルールに基づいて決して使用しないこと

・登下校中も、お友だちと一緒のときは緊急時以外開かないこと

・お友だちといるときは、目の前の会話を大切にすること
重要なのは、「スマホ断ち」や「〇時間ルール」などでやみくもに制限することではなく、子どもが「スマホを持つ時間と、手放す時間」を自分で意識し決められるようになること。そのゴールにむけて、話し合いを重ねていくことではないでしょうか。
子どもたちには、スマホの外にどんなおもしろい世界が広がっているのか、学校という場でこそ、友だちや先生との交流の中で気づいていってほしいと願っています。

----------

小林 茉保(こばやし・まほ)

小児科医

国際基督教大学教養学部社会科学科卒業。ひとり娘を育てながら東海大学医学部に学び、同大学を卒業、医師免許を取得。聖マリアンナ医科大学病院などで初期臨床研修および小児科の研鑽を積んだのち、現在、ナビタスクリニックにて小児科医として勤務。

----------

(小児科医 小林 茉保)
編集部おすすめ