日本の出生数は10年連続で「過去最少」を更新している。少子化はどうすれば止まるのか。
独身研究家の荒川和久さんは「子育て支援も共働き推奨もすべて逆効果だ。政府は若い世代に安心を提供しようとして、むしろ壊している」という――。
■子育て支援が招いた「逆効果」
「社会全体で子どもを育てる」
少子化対策に関して、政府がお決まりのように使用する言葉です。すでに開始された「子育て支援金制度」もいままでの少子化対策も基本はこの考え方です。児童手当を拡充し、保育所を整備し、幼児教育・保育を無償化し、育児休業を取りやすくする。こうした政策の根底には「子育ての負担を社会で分かち合えば、若い世代は安心して子どもを持てる」という考え方があります。
しかし、その方向で継続してきた少子化対策で何かが改善したでしょうか。いうまでもなく、答えは「否」です。
もちろん、子育て支援そのものを否定するつもりはありません。子どもや子育て世帯を支援することは必要です。しかし、これだけ子育て支援を拡充しても出生数は減り続け、若者の婚姻数も減り続けました。
ここで一度、立ち止まって考える必要があります。
「社会全体が子どもを育てる」という掛け声は、本当に若者に安心を与えたのだろうか」と。むしろ、皮肉にも逆のことが起きてはいないでしょうか。
そもそも「社会全体で子どもを育てる」という理念は、本来、「親だけで抱え込まなくていい」という安心を与えるためのものだったはずです。ところが、現代の子育てを見ていると、別の現象が起きています。
保育、教育、習い事、受験、大学、住宅、食事、医療……。子どもに「してあげるべきこと」は際限なく増えました。「子どもを育てる」ことが、昔よりはるかに大きなプロジェクトになってしまっています。そして、それらの多くがサービスとして市場化されることで、「子育ては価格を持つ」ようになってしまいました。要するに、より質の高い子育てをしようとすればするほど、「お金がかかる」状態となったのです。
■「普通の安心」はどこに行ったのか
昔の「普通の家庭」は、決して裕福ではありませんでした。家は狭いながらも子どもは何人かいて、親ができる範囲で育てていました。不満がないわけではありませんでしたが、9割が中流意識を持つ中での「“なんとかなる”という普通の安心」がありました。

ところが今は、子育てにお金がかかる、それなりの広さの住宅を買おうにも手の届く価格を大幅に超えている、家計のためには夫婦でフルタイムの共働きを維持しないといけない。だとするならば、結婚する相手の経済力は重要になる。婚活では女性だけではなく、男性もまた相手の年収などを見るような状況になっています。
そんなメカニズムによって「結婚と子育てに対する意識のインフレ」が顕著になります。それどころか、もはや「お金がなければ恋愛もできない」と若者は考えるようになってしまいました。そして、実際にその通りに、経済階級上位層しか恋愛も結婚も出産もできなくなっています。
■恋愛すら「リスク」の時代に
本来、「社会全体で子どもを育てる」という理念は、かつて家族や親族、地域、職場などが担っていた「助け合い」を社会全体に拡張するというものだったはず。ところが、皮肉にも子育て支援偏重の少子化対策によって「子育てが価格化」され、給付や無償化がされればされるほど「子育てにはお金がかかる」という呪いを強化していったようなものです。
「困ったときに誰かが助けてくれる」というかつての安心は弱まり、その安心すらお金で買わなければならなくなっています。そんな環境では、若者が「お金がなければ結婚できない」「自分の収入で結婚なんてリスクだ」と考えるのは当然です。
問題は、そこで終わらないことです。結婚だけではなく、恋愛までリスクになっています。
かつて「結婚のきっかけ」の大きな比重を果たしていたのは職場結婚でしたが、今では職場での恋愛はセクハラ扱いになるリスクがあり、とてもできなくなっています。
かといって、マッチングアプリをやっても、そこで恩恵があるのは一部の恋愛強者だけで、年収や写真などプロフィール上の数字的魅力がない者は「マッチングアプリなのに誰ともマッチングされない」状況で、単に時間と金と自尊心を削るだけのものになっています。
それだけではなく、その利用に際し「トラブルとマッチングされる割合」が男性58.5%、女性59.7%もある(三菱UFJリサーチ&コンサルティング2021年「マッチングアプリの動向整理」より)というデータもあり、もはや「相手ではなくトラブルとマッチングされるリスク」があるなら敬遠するでしょう。
■「共働き・共育て」推奨という圧
一方で、政府もメディアも「共働き・共育て」を推奨しています。これもまた子育て支援と同じ逆説が起きていると言えます。
「夫婦がともに働き、家事も子育てもともに担う」という理念自体は否定しません。仕事も家庭も両立したい希望を支援する方向もいいでしょう。とはいえ、全員がそれを希望しているわけではないし、全員が両立するだけの能力と環境があるわけではありません。夫婦の仕事の特性でフルタイム共働きができない夫婦もいます。
そもそも、ここでいう「ともに」というものは必ずしも二人が同じように外で働き、同じように稼ぎ、同じように家事と育児の時間をかけるという意味ではないはずです。夫婦とは同じ義務を果たしあう関係ではなく、互いの足らざる部分を補い合い、助け合い、分かち合う関係です。
にもかかわらず、昨今の「共働き・共育て」論は、夫婦ともにフルタイムで働け、同じように年収を稼げ、家事育児時間も同じにしろ、二人とも育休を取れ、といった強制的社会圧を感じます。
いわば「共働き・共育て」全体主義のようなものです。
■働く妻が飛躍的に増えた背景
実際、夫婦(35~39歳世帯主)の就業形態の推移を見ると、「共働きしたいから」というよりは「共働きせざるを得ないから」という背景が如実に見て取れます。
2000年以降で、妻の有業率が飛躍的に増加していますが、それと反比例するように、夫婦世帯そのものが激減しています。これは、「共働きできる夫婦ではないと結婚できなくなった」という状況です。あわせて、妻の有業率と夫の年収推移(物価高を勘案した実質年収推移)を見ると、夫の年収が下がり続けたことの穴埋めとして妻の有業率が増えています。
近年、夫の名目年収はあがりましたが、実質年収はむしろ2000年時点の水準にさえ届きません。物価高に対応するため、さらに妻の有業率も継続して増加しました。でないと、家計が成り立たないからです。
つまり、「共働き・共育て」が若者の希望だから増えているのではなく、そうせざるを得ない経済状況だからであり、物価高の現状ではそれでも追いつかない状況にまで「結婚と出産のインフレ」が加速し、もはや経済上位層しか結婚できない構造を作り上げたということです。
■子どもの数が増えたのは「上位層」のみ
2000年と2025年とで、所得階級五分位(世帯を収入順に20%ずつ5つのグループに分けたもの)別に、夫婦の児童数・妻の有業率・夫の年収・妻の年収がそれぞれどれだけ増減したかを一覧にしたものが図表2です(収入は物価高を勘案した実質値)。
児童数が増えたのは上位20%層だけですが、児童数の増減は夫の収入と比例します。妻の有業率は年収階級に関係なく増えていますが、妻の収入増は夫が収入減と相関、つまり、夫の実質減少分を妻が補填しているわけです。

妻の収入がもっとも増えているのは中間層ですが、そこには中間層の経済的苦しさが見て取れます。そして、この中間層の夫婦数が激減している。つまり、中間層の結婚が減ったわけです。
フルタイムでバリバリ働く体力と意欲と環境のある「超人夫婦」だけが世帯年収をあげ、子どもの数を増やす一方で、それ以外の夫婦はむしろ「働けど子どもを増やす余裕はない」という状況と考えてよいでしょう。
■社会の「押し付け」がもたらした弊害
つまり、「共働き・共育て」したい若者が増えたのではなく、それを「社会のデフォルト」とするような押しつけが、夫婦の子どもの数を減らしているのです。それどころか、「そもそも自分たちは、そんな超人みたいな夫婦にはなれない」と婚姻そのものが減っているわけです。
「社会が子どもを育てる」も「共働き・共育て」も理念として反対はしませんが、結果的に「お金がなければ子どもを持てない」「夫婦ともにお金を稼いで家事育児もフルパワーでなければ家庭を維持できない」という新たな障壁を作ってしまった。それが若者に「そんなに無理してまで結婚したくないし、子どもはいらない」と思わせてしまっているのではないでしょうか。
そこには、かつてあった「普通の安心」が失われている。かつての「普通」ではもう結婚も子どもを持つ資格もないと思わされている。むしろ独身の若者にしてみれば、結婚もせず、子どもも持たない人生のほうこそリスクのない「安心」という世界になってしまっています。
若者や子育て世帯を支援し、安心を提供したいと思って始めた政策が、「お金がなければ安心できない」という逆のバタフライ効果を生み、それぞれの「普通の安心」をも壊してしまった。
この皮肉な事実を直視すべきだし、抜本的に政策を見直す段階に来ています。

----------

荒川 和久(あらかわ・かずひさ)

コラムニスト・独身研究家

ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『「居場所がない」人たち 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、『結婚しない男たち』(ディスカヴァー携書)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(中野信子共著・ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。

----------

(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)
編集部おすすめ