老化現象による障害を上手に乗り越えるにはどうすればいいか。医師の和田秀樹さんは「いくつになっても元気な人ほど文明の利器、便利グッズを活用しまくっている。
特に認知症と聞こえは、密接に関係しているので、耳が遠くなったら、補聴器は絶対に使ったほうがいい」という――。
※本稿は、和田秀樹『認知症でもひとり暮らし』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■ボケたくなければ、手書きで日記をつける
認知症の進行を遅らせるには、前頭葉を鍛え続けなくてはなりません。そのために、もっとも効果的な方法は、積極的にアウトプットをするということになります。具体的に説明していきましょう。
前頭葉を鍛えるには、情報や知識をインプット(入力)するよりアウトプット(出力)が必要になってきます。
それは、脳の中で、インプットに関わる部位が側頭葉なのに対して、溜め込まれた記憶や知識、情報を引っ張り出す機能を担うのが前頭葉だからです。ということは、アウトプット機能を意識的に鍛えることで、前頭葉が活性化できるということになります。
では、具体的に何をすればいいのかというと、まずは「日記をつける」ことをおすすめします。日記をつけるような面白いことなんて、ないよ、と思われるかも知れませんが、実は、平凡な一日こそ、前頭葉を鍛える絶好のチャンスなのです。
特別なことがなければ、その日の朝から夜までのできごとすべてを思い起こして下さい。そして、書くべきことを決め、さらにそれについて、できるだけ詳しく思い出してみるのです。
この動きが、記憶を引き出すトレーニングになります。
日記は、必ずしも長文でなくてもいいと思います。ほんの3、4行でも構いません。重要なのは、思い出したり、何を書くかを考えることにあります。そのとき、文章は手書きで行うとなおいいですね。
■「メモをとる」が物忘れの強い味方に
パソコンやスマートフォンが普及し、文字を手書きする機会がめっきり減ってしまいました。タイピングは楽ですが、指先を決められた通りに動かすだけなので、脳をさほど使わないのです。
一方、手書きの場合は、ペンを握って、あれこれ考えを巡らせながら指先を細かく動かすので、そのぶん、脳が活性化してくれるのです。さらに、漢字、カタカナ、ひらがなを認識する脳の部位はそれぞれ違うので、脳が満遍なく動きます。
また、手書きだと、文字を適切な位置に配置する必要があるため、空間認識能力も使わなくてはなりません。これも、脳にとってはいい運動です。
要するに、手書きはパソコンやスマートフォンを使って文字を入力することと比較すると、使う脳の範囲がはるかに広いわけです。
日記を書くなら、ぜひ、手書きでお願いします。
また、手書きといえば、日常生活の中で、一番簡単で、物忘れの強い味方になるのが「メモをとる」ことです。
■トレーニングがてら、SNSで遊ぶのも効果的
私も最近、メモをしないと忘れてしまうことが増えてきました。ネットで見た研究を後でじっくり読もうと思っていても、そのページをお気に入りに保存しておくか、名前をメモしておかないと思い出せないのです。参ります。
いいアイデアが浮かんでも、時間が経つと思い出せない場合も多々あるので、いまでは、いろいろなことを書き留めておくようにしています。書くということは、それ自体がアウトプットの作業ですから、前頭葉を刺激する脳トレにもなってくれます。
どうしても、書く習慣がないというかたは、新聞や雑誌の記事を書き写すだけでもいいのです。「読む」「一時的に記憶する」「書く」の各段階で、脳を使うことになるので、手書きでメモをとるのと同様の効果が期待できます。
日記のほかにも、構築した自分の考えや意見を誰かに話すという行為も前頭葉にはいいとされています。蓄積してきた知識を抽出して組み合わせ、一つの考えを練るというプロセスは、前頭葉を鍛えてくれます。
そういった意味では、講演会やYouTubeで発信することが、私にとってはアウトプットトレーニングになっていると感じます。

いまは、誰でも発信者になれる時代です。トレーニングがてら、SNSで遊ぶのも楽しいかも知れませんよ。
■便利グッズを駆使してしぶとく生きる
足腰が弱くなった、目がかすむ、耳もきこえづらい。おまけにボケまできてしまった。高齢になると、次から次へと不具合が出てくるものです。老化現象なので、仕方のないことなのですが、放っておいてはQOL(クオリティ・オブ・ライフ/生活の質)が下がってしまいます。
老化現象による障害を上手に乗り越えられる人ほど、いくつになっても元気で、重い要介護状態にもなりにくい傾向があります。そういったかたは、認知症になっても、進行が遅いですし、日々、やりたいことをやって楽しんでいることが多いです。おまけに、家族や周りのかたとも良好な関係を築いているように見受けられます。
では、どうしたらそんな風になれるかというと、ずばり、文明の利器、便利グッズを活用しまくればいいのです。
世の中には、高齢者の生活を助けてくれるものがたくさんあります。老眼鏡、補聴器、オムツ、杖、転倒防止シューズ、歩行器。
スマホやパソコンも、通信手段として使っているだけでは、もったいない代物です。もっともっと使いようはあります。
特に認知症と聞こえは、密接に関係しているので、耳が遠くなったら、補聴器は絶対に使って欲しいと思っています。補聴器なんか年寄り臭くて嫌だというかたは、少し情報が旧いですよ。
最近の補聴器は性能が格段に上がっていますし、つけたところも、ほとんど目立たないものが主流です。イヤホンよりも小さくて耳の穴にすっぽり収まってしまうものもあるくらいです。気になるようなものではありません。
■独居老人こそAIの恩恵は大きい
もちろん、補聴器のほかにも役に立つ道具はあふれています。
私の母は、文明の利器を上手に使いこなしているので、例としてその話をしましょうか。
母は、5年ほど前に大腿骨頸部を骨折しました。90代ですから、二度と歩けなくなってしまうと、寝たきりになることも覚悟していました。
しかし、母は辛抱強くリハビリを続け、手押し車などを使って、見事ひとりで歩けるようになったのです。
母の笑っている顔を見たとき、私は「便利なものを利用して外に出るということは大事なのだ」とあらためて思わされました。
いまでは、車いすなのですが、今度は「車いすは楽でいいのよ」とご機嫌です。楽が一番。楽がいい! あと何年あるか分からない人生です。楽して笑っているのがいいのです。そのためには、どんなものでも利用してしまうのがいいでしょう。
今後、高齢になっていく私たちの生活に必要となってくるものはテクノロジー(科学技術)です。
AI(人工知能)ロボットが、独居老人と暮らしている様子を想像してみて下さい。
ベッドに入ってから電気を消してと声をかければ消してくれ「今日は病院へ行く日です」「9時5分のバスに乗ります」とスケジュールも教えてくれます。
「薬を飲んで下さい」「飲みましたね」と服薬管理や血圧測定もしてくれるはずです。もちろん、異常があれば、かかりつけ医に連絡をしてくれたりもします。戸締りや火の元の心配もなくなります。

こんなロボットがいたら、認知症であってもひとり暮らしがしやすくなります。ついでに雑談にも付き合ってくれるし、相槌もお手のもの。夢の話ではなく、これくらいのロボットならすぐにできるのです。
■自立した高齢者になるために必要なスキル
あるいは、すでに、スマホでは、近いことができるようになっています。
若年性認知症にかかったかたたちが、頼りにしているのはスマホです。スマホに予定を入れておくと、何時に支度して、何時に家を出てとスマホが教えてくれます。
ゴミ出しや買い物リストなども、まめにスマホにメモをして確認する。そういう工夫で、日常生活をこなしているそうです。高齢者のかたも、そのまま真似をするといいと思います。
歳をとれば、忘れっぽくなるのは当たり前のことです。認知症でなくても記憶は怪しくなり、同じものを買ったり、支払いを忘れたりはしょっちゅう。だからこそ、テクノロジーを使って工夫するという習慣をつけるのは大事なことです。自立した高齢者になるためには、必要なスキルになって行くでしょう。
ある高齢者のかたは「ロボットのヘルパーさんのほうがいい」といいます。理由は「気を使わなくていいから」だそうです。日本人には「人様に迷惑をかけてはいけない」という考えにとらわれている人が多いので、本来、AIや介護ロボットのほうが、向いているのかも知れません。
■寝たきりでもわくわくした世界を諦めない
よく「スマホなど便利なものばかりでは若者がダメになる」といわれます。確かに一理あります。できる人は、自分で考えてやるのが一番です。だから、便利なものの恩恵は、若者ではなく高齢者がフルに利用してしまいましょう。
快適に暮らして行く中で、できることを自分でやる。これからは、メリハリをつけてやりましょうか。
最近では、ゴーグル型パソコンも商品化され、仮想現実(VR)で世界中を旅したり、遠くの人と会話することも可能となりました。つまり、寝たきりになってもわくわくした世界をあきらめないでいいのです。
テクノロジーを駆使して、認知症とともに楽しく生きて行ける時代がすぐにやってきます。私は、そう信じています。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)

精神科医

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。立命館大学生命科学部特任教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、40年にわたり高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。

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(精神科医 和田 秀樹)
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